徹底してファンを楽しませることで知られているアメリカン・モータースポーツ。その雰囲気を肌で知る佐藤琢磨と武藤英紀は、日本のレースシリーズをどのように捉えているのだろうか? 日本人としての誇りを忘れずに海外レースに参戦するふたりに、我が国のモータースポーツ界をさらに元気にするための"秘策"を訊ねた。
——おふたりは世界レベルのレースを戦っているわけですが、そういう経験から、日本のモータースポーツをさらに盛り上げていくにはこうしたらいい、という提案があれば、聞かせてください。
佐藤琢磨(以下TS)「いちばん大切なのはメインイベントであるレースそのものですが、やっぱりレースだけでなく、プラスαの要素も必要だと思います。サーキットに観戦にいくときは、きっと、熱心なレースファンを中心としたグループで出かけますよね? たとえば家族連れとか、恋人同士とか、友人と連れ立ってとか。そのとき、中心になっているレースファンの人だけじゃなく、一緒にきた人がどれだけ楽しめるかっていうことも大事になってくると思うんです。欧米だと、特に家族連れが多いから、子供を楽しませるためのマスコットがいたり、アトラクションがあったりする。そういう、きた人全員が楽しめるような工夫は大切ですよね。僕が参戦していたイギリスF3は、当時ツーリングカーレースとの併催でしたが、お客さんはまるで家族総出のピクニックみたいにして楽しんでいましたよ。おじいちゃんやおばあちゃんがいる一方で、子供はボール遊びをして、みたいな。そういう、世代を越えたつながりのようなものが、モータースポーツを中心に生まれていくといいですよね」
武藤英紀(以下HM)「アメリカだと、バーベキューやってますよね。コースサイドで」
TS「やってる、やってる」
HM「バーベキューの煙で前が見えなかったりして、これいいの?なんて思いますよね」(一同爆笑)
HM「それに、いい匂いがしてきて、こっちはレース中なのに、おなかがすいてきちゃうこともある」(一同笑い)
——武藤選手、バーベキューの話はともかく、モータースポーツの振興に役立ちそうなアイデアはありませんか?
HM「ああ、すいません。(一同笑い) アメリカでレースをするようになって、少しずつ考え方がかわってきて、いまは、ファンのひとたちにどれだけ来てもらえるかを、僕たちドライバーも考えなければいけない時代になってきたという意識はありますね。インディカーレースだと、ドライバーひとりひとりに明確なキャラクターがあって、よくレースのことを知らない人でも入りやすいっていうか、応援しやすい部分がありますね。たとえば、優勝するとフェンスに上るので有名なエリオ・カストロネヴェス選手は“スパイダーマン”とかね」
——武藤選手のキャラは何ですか?
HM「まだないですね」
——では、武藤選手も琢磨選手も、来年はキャラ作りにも挑戦してはいかがでしょうか?
HM「うーん、そうですねえ。でも、アメリカでレースしていると、日本人っていうだけで、ひとつのキャラになっていると思うんですよ」
——琢磨選手はいかがですか?
TS「いや、僕は、レースに集中しますよ」(一同笑い)