第一回 琢磨×英紀の仲良し度は? 「一緒に走っていると楽しくなっちゃう!」

2010年インディカー・シリーズ第5戦カンザスでは決勝中に接触してリタイアに終わった佐藤琢磨と武藤英紀。これでふたりの友情も終わったかに思えたが、現実はそれとは正反対で、いまも一緒に過ごす時間が楽しくて仕方がないと語る。ライバルチームに在籍しているにも関わらず、深く信頼しあうふたり。実は琢磨と英紀が出会ったのは、今から10年以上も前のことだという。

——琢磨選手と武藤選手は、普段からとても仲がいいそうですね。
佐藤琢磨(以下TS)「基本的に気が合うんですよ(笑)。でもやっぱり、同じ時期に、同じレーシングカートのシリーズに出ていて、ふたりでタイトル争いをしたというのは大きいですね。同じ目標を分かち合い、同じ時間を共有したクラスメートみたいなもので、大切な仲間だと思っています。なにしろ、初めて会ったのはいまから13年も前のことですからね! カートを卒業してからはそれぞれ別々の道を歩んできたけど、武藤選手のことはずーっと応援していましたよ。イギリスに渡って、日本に戻ってきて、それからアメリカに渡ってインディカーに出場してという軌跡はずっと見ていたし、インディカーで表彰台に上って、すごいがんばってるなあと思っていた。だから、自分が今年インディカーに出場することになってからは、武藤選手と一緒に走れるのを楽しみにしていました。あっ、そうそう、でももし同じレースで戦うようになったら口聞かなくなるのか!?なんて思ったこともあったんですが、実際にはそんなこと全然なくて、武藤選手がいると楽しくなっちゃう。それで、コース上でも早く近づいて、一緒に走りたいって思っちゃうんですよ」(一同爆笑)
武藤英紀(以下HM)「わかるわかる、僕も同じ気持ちですよ。もちろん、バトルになればクリーンに戦いますけど、一緒に走りたくなるっていう気持ちは僕も同じです」

——武藤選手も琢磨選手のことは注目していましたか?
HM「いやあ、見ていましたよ、もちろん。琢磨さんがイギリスF3(*1)で連戦連勝していたときも見ていたし、僕がイギリスから日本に帰ってきてフォーミュラ・ドリーム(*2)というシリーズに参戦していたとき、ちょうど琢磨さんはF1へのデビューが決まって、もう憧れの存在でした。僕もいつかF1ドライバーになりたいと思っていたので、カート時代は一緒に戦っていた琢磨さんが、いつの間にか僕の目標になっていた。だから、いま、再び一緒にレースしていることが、なんかすごく不思議なんです。琢磨さんは今年からインディーカーに参戦していますが、アラバマで行なわれたシーズン前の初テストでは、何回も確認しましたもん。本当に、琢磨さんかどうか。(一同笑い) でも、どう見ても琢磨さんのヘルメットだよなあって。そのときも、不思議に、こう、嬉しかったですよね」

——青山博一選手が参戦している二輪レースのMoto GP(*3)がインディアナポリスにやってきたときも、ふたりで応援しに行ったそうですね。
HM「行きました。なにしろMoto GPといえばバイクレースの頂点だし、たまたま僕たちはシカゴでレースがあって、インディアナポリスまでクルマで行ける距離にいたので、行ってみようということになって。やっぱり、同じ日本人の選手が一生懸命やっている姿を見るのは刺激になるし、応援もしたいと思ったので……」
TS「青山選手は、去年、チャンピオンを決めたヴァレンシアのレースをテレビ観戦していて、ギリギリの戦いの末にタイトルを勝ち取った瞬間はもう嬉しくて、思わず飛び上がりましたからね。ところが、今年はシーズン途中でケガをして、インディアナポリスがその復帰第一戦だったんですね。だから、是非とも応援したいと思ったし、行けてよかったと思っています。実際に行ってみて、武藤選手も言ったように僕も刺激を受けましたね。なんか、僕はF1を思い出しました」
HM「琢磨さん、ずっと言ってましたよね。悔しい、悔しいって」(一同笑い)
TS「選手を中心とする環境作りがF1そのものだったので、すごく思いだしちゃいましたよね。まさにF1ガレージの縮小版でした」

——Moto GPを観戦しての印象はいかがでしたか?
HM「感動しましたね。世界で戦っている日本人という部分で、すごくエネルギーを感じました。青山選手はまだ腰にコルセットを巻いていて、少しふらふらしているような状態でしたが、それなのに、あんなモンスターを操っているっていう、舞台裏みたいなところも見れましたし、他のライダーのスタート前の表情とか雰囲気とかもすごかった。やっぱり、行ってよかったと思いました」

*1 イギリスF3
F3(Formula 3)とは2リットル・エンジンを搭載するフォーミュラカーの国際規格のことで、イギリスを中心に開催されているイギリスF3(British F3 Championship)は「F1への登竜門」とも称されるほど、多くのF1ドライバーを生み出してきた。佐藤琢磨は初挑戦の2000年に4勝を挙げてシリーズ3位、翌2001年には12勝を挙げてタイトルを獲得。ちなみに、日本人ドライバーが海外のメジャーレースでシリーズチャンピオンに輝いたのは、これが史上初の快挙だった。

*2 フォーミュラ・ドリーム(FD)
1999年にHondaが設立し、2005年まで開催されたフォーミュラカーを使ったステップアップカテゴリーのひとつ。マシンの性能的にはF3のすぐ下に位置していた。マシンは完全なワンメイクで主催者が全車を一括管理し、ドライバーへの割り振りも抽選で決めるという徹底したイコールコンディションが特徴で、ドライバーの実力を明らかにすることを大きな目的としていた。この精神を引き継ぐフォーミュラ・チャレンジ・ジャパン(FCJ)が2006年に設立されたため、2005年をもって幕を閉じた。

*3 Moto GP
二輪ロードレースの最高峰で、2010年は、世界14ヶ国で18戦を開催する。四輪レースでいえばF1世界選手権に相当する。選手権の設立は1949年と古い。現在はMoto GP、Moto2、125cc、の3クラスでタイトル争いが繰り広げられている。青山博一選手が参戦する最高峰クラスのMoto GPは、4サイクル800ccエンジンを搭載、最高出力は200ps以上、最高速度は320km/h以上に達するともいわれるモンスターバイクで覇を競い合う。青山選手は2009年にMoto2の前身である250ccクラスでチャンピオンに輝き、2010年よりMoto GPに参戦している。

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