ドライバー
山本尚貴 / ストフェル・バンドーン
ドライバーといえば、フォーミュラカーレースの主役といっても過言ではない存在。彼らの目に0.001秒の戦いはどう映るのか?チャンピオン経験者の山本尚貴選手と、ルーキーでマクラーレン・ホンダのリザーブドライバーを務めるストフェル・バンドーン選手の二人に訊いた。
山本尚貴(以下、NY):たしかにスーパーフォーミュラは毎回、接戦の連続ですね。僕は、スーパーフォーミュラに限らずモータースポーツは究極のスポーツだと考えていますが、そのなかで国内シリーズの頂点に位置しているのがスーパーフォーミュラです。
また、スーパーフォーミュラは「速い者がトップに立つ」という、いわば当たり前のことが実現されている世界でも数少ないレースのひとつで、その意味ではとても純粋な戦いだと思います。
NY:スーパーフォーミュラでは全車が同じシャシーと同じタイヤを使用しています。また、エンジンに関しては2メーカーによる開発競争が行われていますが、そうした技術的側面のおもしろさが残されていることもスーパーフォーミュラの魅力といえます。
NY:かなりの比率を占めていると思います。実際のところ、ただ速く走るという面だけでいえば、ドライバーによる差はそれほど大きくありません。
ただし、それ以上に大切なのが、チームやマニュファクチュアラーを引っ張っていくという役割です。モータースポーツはひとりで戦える競技ではありません。また、競技会場にやってきて「みんなで頑張りましょう!」と励まし合えば好成績が得られるほど単純なスポーツでもありません。特にスーパーフォーミュラは、先ほどもお話ししたとおり、エンジンを除けば同じ道具を使って競い合うので、サーキットに来るまでにどれだけ準備をしてきたかで勝敗が決まるといっても過言ではありません。そうした準備の部分でも、ドライバーの役割は決して小さくないと思います。
NY:それはありますね。レーシングチームといっても、実際にはひとりひとりの集まりなので、人間的な感情に左右されることは少なくありません。
そうした中、もしもドライバーが懸命に頑張っていたら、周囲のスタッフも彼を支えようとして協力するのが自然な姿だと思います。そんなときに何がいちばん効くかといえば、やはり成績、結果ですね。ドライバーが懸命に頑張ってポールポジションを獲得したり、優勝すれば、メカニックやエンジニアもそれまで以上の力を発揮してくれます。
僕はSUPER GTにデビューしてからの3年間、チーム国光で伊沢拓也選手とコンビを組んでいました。当時は伊沢選手がAドライバーでしたが、伊沢選手が好成績を挙げるたびにスタッフのモチベーションが高まっていく様子を肌で感じ取りました。だからといって何から何まで伊沢選手のマネをするのではなく、いまは自分なりの個性もしっかり出していきたいと試行錯誤しています。
いずれにしても、最近はただ勝つことだけではなく、勝つまでのプロセスにどう取り組んできたかという面にもとても関心を持つようになりました。また、そうした努力が成績に結びついたときには何ものにも代え難い達成感を味わうことができます。
NY:SUPER GTではHonda陣営の5台が力をあわせて開発を進めている部分があります。また、いくら自分たちが優勝しても、2位以下の多くをライバル陣営に占められるとタイトル争いで不利な立場に立たされる恐れがでてきます。その意味では、スーパーフォーミュラほどドライバーの占める比率は高くなく、チームで戦っているという意識が強いと思います。二人のドライバーがタッグを組んで戦うことも、SUPER GTはチームの戦いと感じる一因でしょうね。
NY:最近、ありがたいことにHondaのエースドライバーと呼ばれる機会が増えていますが、Hondaのドライバーは全員「自分がエース」という自覚を持って戦っているはずですし、僕がひとりでHondaの看板を背負っているわけでもありません。
また、お互いが切磋琢磨するなかで速さを磨いていくという面も素晴らしいと思いますが、同じ道具で戦っている以上、たとえHondaのドライバーであっても絶対に負けたくなく、常に自分がいちばんでありたいという気持ちを持ち続けています。
そうした中、やはり「モータースポーツといえばHonda」というイメージが自分にとっては強く、またいろいろな縁やタイミングもあってこれまでずっとHondaのドライバーとしてレースを戦ってくることができました。
僕にとってのHondaは、「なにがなんでも勝つチャレンジスピリットに溢れた自動車メーカー」といったところですが、ここでいうチャレンジは単なる挑戦ではなく、「本当に必死になって勝ちに行く姿勢」こそがHondaのチャレンジスピリットだと考えています。
僕たちは、こうした考え方を持つ人々の思いを載せて1台のレーシングカーを走らせているわけで、これからもそういったプライドを忘れることなく、全身全霊で戦い続けていきたいと思っています。
これまでのキャリアが大きく異なる山本尚貴選手とストフェル・バンドーン選手。
しかし、0.001秒の戦いにかける情熱にはまったく違いがないようだ。
彼らの熱い思いこそ、ハイレベルでエキサイティングな戦いが続くスーパーフォーミュラの原動力といって間違いないだろう。