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第3期を締めくくった“地球号”

2008/Honda RA108(ホンダ RA108[4輪/レーサー])

意欲的挑戦車も不振続き結果的に第3期最終マシンに

Text/Toshiyuki Endo  Photos/Hidenobu Tanaka, Honda, SAN'S

2008/Honda RA108(ホンダ RA108[4輪/レーサー])

2008年F1世界選手権出場車 No.16 ジェンソン・バトン

この年の「流行」だった、スプーン状にえぐられた形状のフロントウイングとそれに被さるように下垂したフロントノーズ。そして“チューリップ”“ダンボウイング”などと形容されたノーズ上のアッパーウイングがRA108の外観上の大きな特徴となった。マシン全体の空力の「出発点」であるフロント部は特に重要で、開発の肝となっていた。

この年の「流行」だった、スプーン状にえぐられた形状のフロントウイングとそれに被さるように下垂したフロントノーズ。そして“チューリップ”“ダンボウイング”などと形容されたノーズ上のアッパーウイングがRA108の外観上の大きな特徴となった。マシン全体の空力の「出発点」であるフロント部は特に重要で、開発の肝となっていた。

そんななか、第9戦イギリスGPでバリチェロが3位を獲得する。チームにとって06年最終戦以来、1年8カ月以上ぶりとなる表彰台だが、これは雨絡みのレース展開でもたらされたものだった。つまり、マシン性能の勝負度合いが下がったなか、ドライバーの技量とチームの戦略面の比重が高い環境下で得られた好成績だったのである。陣営にとっては手放しで喜べる表彰台ではなかった。
ただ、チーム加入3シーズン目のバリチェロにとってフェラーリ時代の05年以来となるHondaでの初表彰台ゲット。大ベテランの面目躍如となる好パフォーマンスであったことも事実で、それはチームにとっても喜ばしいことであった。なお、バリチェロはこの08年シーズン中にリカルド・パトレーゼの保持していたF1公式戦最多決勝出走記録(256戦)を更新、のちにその記録を史上初めて300戦以上へと伸ばしている(2013年時点でも歴代最多)。

どんなかたちであろうと表彰台は表彰台、シルバーストンでのバリチェロ3位という結果を後半戦への弾みとしたかったHondaだが、RA108は第10〜18戦では1度も8位以内に入賞することなくシーズンを終えた。08年の最終的なコンストラクターズランキングは9位。前年は8位だったが、上位のマクラーレンがシーズン失格処分を受けていたため実質的には9位であり、そこを脱することができなかった、ということになる。ドライバーたちもバリチェロがシリーズ14位、バトンは同18位という成績に終わった。
07〜08年の日本GPは富士スピードウェイで開催されているが、そこでもRA108は母国のHondaファンにいいところを見せることがまったくできずに終わっている。そう言わざるを得ないくらい、08年後半戦の低迷は際立ってしまっていた。
しかし、ある意味でこの後半戦の惨敗は“計算済み”でもあった。翌09年には空力を中心にテクニカルレギュレーションが大きく変わる。ブラウンは開発リソースを09年マシンへと集中させる策にシフトしていたのだ。

結果的に第3期F1活動の最終エンジンとなったRA808E。2400ccのV8で700馬力以上/1万9000回転以上というスペックのまま開発は凍結、ECUは全車共通というFIAの施策によってエンジンの重要性は相対的に低下。空力性能に重きが置かれる時代となった。

結果的に第3期F1活動の最終エンジンとなったRA808E。2400ccのV8で700馬力以上/1万9000回転以上というスペックのまま開発は凍結、ECUは全車共通というFIAの施策によってエンジンの重要性は相対的に低下。空力性能に重きが置かれる時代となった。

ただ……極めて残念なことに、08年秋のリーマンショック発生等に伴う世界的な景況悪化の影響もあり、Hondaは08年シーズンを限りに第3期F1活動を終息させざるを得ない状況となる。つまり、ブラウンが用意していた“RA109”がHondaの名のもとで走ることはなくなってしまったのである。
ブラウンら旧HRF1の英国現地チーム組織がブラウンGPという新チームとして再起し、09年のF1に参戦、見事ダブルチャンピオン獲得を果たしたことは多くの人が知るところであろう(バトンが6勝してドライバーズチャンピオン、バリチェロは2勝でシリーズ3位。チームはコンストラクターズタイトルを獲得した)。もちろん、彼らのBGP001を「RA109になるはずだったマシン」と言うのは、搭載エンジンがメルセデスだったことを含め、必ずしも正確な論評ではない。ただ、そう考えてもいいような経緯があったことは事実であり、日本のF1ファンにとっては、残念である、としか言いようのないところであった。RA108は確かに惨敗した。しかし反撃の萌芽もまた、間違いなく育っていたのである。

そして歴史は一時途切れたが、2015年にはHondaの第4期F1活動が始まる(既に戦いは始まっている、とも言えよう)。RA108や旧HRF1と直接のつながりはないにしても、「負けるもんか」の姿勢、1960年代の第1期から連綿と続くHondaのチャレンジングスピリットは、必ずや“新生マクラーレン・ホンダ”へと受け継がれ、第3期でつかめなかった頂点へと上りゆく道程において貴重な糧となるはずだ。

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Honda RA108

2008/Honda RA108(ホンダ RA108[4輪/レーサー])

2008/Honda RA108(ホンダ RA108[4輪/レーサー])

SPEC

シャシー

型番 Honda RA108
デザイナー ヨルグ・ザンダー
車体構造 カーボンファイバーモノコック
全長×全幅×全高 4700mm/1800mm/950mm
ホイールベース 3210mm
トレッド(前/後)
サスペンション(前後とも) プッシュロッドトーションスプリング
タイヤ(前/後) ブリヂストン製
燃料タンク
トランスミッション ホンダ製7速セミオートマチック
車体重量

エンジン

型式 RA808E
形式 水冷90度V型8気筒NA
排気量 2400cc
ボア×ストローク
圧縮比
最高出力 700ps以上
燃料供給方式 Honda PGM-FI
スロットル形式 電子油圧制御

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