レジェンド 小川友幸 Gatti - 全日本史上初6連覇への挑戦

1 6連覇への挑戦は、敗北から始まった

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6連覇への挑戦は、敗北から始まった

最悪の出だし

 開幕戦、小川の出だしは最悪だったとも言えるだろう。競技は12のセクション(採点区間)を2ラップして計24セクションを走った後、さらに難易度の高い2つのスペシャルセクション(SS)に挑み、合計26セクションを走行した結果の減点が最も少ない者が勝者となる。その1ラップ目の第1セクションで、あろうことか小川は大岩上りの難所に向かう手前の段階でセクションを規制するテープを切ってしまい、失敗=減点5となってしまった。さらに、次の第2セクションは大岩から滑り落ちて減点5になってしまうという、これまでの小川からは考えられないような珍しいミスが続いた。結果、あわせて減点10を喫した小川は、くだんの2セクションをともにクリーン(減点0で走破)した黒山に早くも大きな差をつけられることになった。とりわけこの日は難しすぎるほどのセクションが多く、それらをクリーンして大きな差を挽回するのは容易ではなかった。ライバルたちの出来具合によっては、2位どころか、3位以下に落ちてしまう可能性もあった。

 実は、小川は大会前の練習で痛めた右足首の靭帯が完治しておらず、テーピングで固定していた。足首がほとんど曲がらない状態のため思うようなライディングができず、その後も減点を重ねていった小川は、1ラップ目を減点30で終えた。減点15でトップの黒山との差は15点に広がっていたが、それでも小川は2位につけていた。そして2ラップ目、黒山が失敗した第4セクションを減点1で切り抜けた小川は、その時点では黒山と9点差にまで詰め寄った。かえすがえすも出だしの減点10が惜しまれるところだった。その後、2人の差は再び広がり、小川に17点差をつけた黒山がSS(2セクションあり、最大10点の差がつく可能性がある)を待たずに1位を決めた。小川も3位に17点の差をつけて、2位を決定づけた。

小川友幸

小川友幸

最終セクション、出口の光景

 インターバルをおいて行われたSSの、最終セクションを先に走った小川は、あと一歩という出口の手前で惜しくも失敗。バイクの左のフットレストが根っこの下に入って引っかかってしまい抜け出せないまま減点5になるという、この日の小川を象徴するかのようなツキのなさも感じられた。そのあとに走った黒山は、途中で1回足を着いて減点1となったが、高い走破力を見せつけた。最終セクションを終えた黒山は、その出口で爽やかな笑顔は見せたものの、ガッツポーズはなかった。そして、手を伸ばしてきた小川の祝福に、黒山は感激したかのような笑顔でこたえた。「おめでとう」「ありがとう」という、互いの思いが伝わってきた。しかし、それは本当に一瞬の出来事で、小川はすぐに前を向き走り去って行った。小川は、ガッツポーズなどしなかったライバルの「まだ勝ち誇るのは早い」とでも言いたげな慎重な雰囲気に、これまで以上の手強さを感じ取っていたのかもしれない。


 開幕戦は敗れた小川だが、全7戦あるシリーズ戦の1戦目を終えたところでの勝敗は、まだ途中経過にすぎない。実際、昨年の小川は第1戦だけでなく第2戦も黒山に敗れたが、その後は4連勝して、5連覇をつかみ取った。今年もそのようになる保証は何もないが、挽回、逆転の可能性は十分にある。


 7戦中1戦目の2位から、残り6戦をどう戦っていくか。10月21日の最終戦まで、7か月におよぶ戦いは、まだ幕を開けたばかりだ。

小川友幸

小川友幸

縁起のいい敗北?

 競技終了後のインタビューで小川は、「今日はダメでしたね。体の状態もよくなかったですし、調整もしっかりできていなかったので、自分が完璧でないと勝てないなという試合でした。それでも、これだけ乗れていない試合で2位は、ちょっとラッキーです」と振り返った。去年に続いての開幕戦2位については、「縁起がいいですね。(最終的に)勝てると思います(笑)」「そうなると第2戦も負けないといけないですね」と苦笑しながらも、「そういうことがないように、まずはケガをしっかり治して、できる限りの調整をして。第2戦(4月15日/近畿大会)まで1か月ありますから、足もだいぶ回復すると思うので、本来の走りが多分できると思います」と、調子がよくない中でも2位を確保して、黒山とのシリーズポイント差を最小限の3ポイント差にとどめた自信を漂わせていた。


 決して楽観はできないが、それでも不屈の王者は今後の巻き返しをむしろ楽しもうとしているかのように感じられた。


 開幕戦は、出だしから大きなアドバンテージを得た黒山が終始、余裕の強さをアピールした。一方、開幕戦をひかえて右足首の靭帯を損傷した小川は、やっと松葉杖がとれて大会に臨むという状況だった。それでいて、どこか余裕を感じさせた。それこそが5連覇を成し遂げたばかりの小川の強さであり、苦しい闘いから始まったがゆえに、なおさら小川のメンタルの強さが浮き彫りになったような気がしたのだった。

トライアルジャーナリスト 藤田秀二

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