レジェンド 小川友幸 Gatti - 全日本史上初6連覇への挑戦

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6連覇への挑戦は、敗北から始まった
この瞬間こそ、物語の始まりにふさわしいと思った。開幕戦の最終セクションを走り終えて、小川友幸(HRC CLUB MITANI)は黒山健一(ヤマハ)に握手を求めた。それはほんの一瞬だったが、勝者を称える、美しい瞬間だった。記憶に新しい冬季オリンピックでの、友情を彷彿させるものがあった。互いに一歩も譲れないからこそ、互いに、互いを認め合う。最強ライバル同士の長く険しい闘いの幕が開き小川の反撃がここからスタートする。

“史上初”への挑戦権

 そもそもの始まりは、昨年の全日本トライアル選手権最終戦(10月29日/宮城県スポーツランドSUGO)。小川友幸(三重県出身/41歳/HRC CLUB MITANI)は最高峰の国際A級スーパークラスの全7戦が組まれたシリーズ戦で最終戦こそ初めての3位となったが、それまでの6戦は1位4回・2位2回という安定した強さだった。この最終戦で勝ったのは小川よりも2歳年下の黒山健一(兵庫県出身/39歳/ヤマハ)で、黒山もまた1位3回・2位2回・3位1回・4位1回と、小川の好敵手だった。タイトル争いの結果は、シリーズポイント129の小川が122の黒山に7ポイント差をつけて、待望の5年連続・通算7度目のチャンピオンを獲得した。小川の7回チャンピオンは、黒山の11回に続き史上2位の記録になる。また、全日本トライアル5連覇は、山本昌也(1982~86年/Honda)、黒山(2002~05年/ベータ、06年/スコルパ)に続き史上3人目の偉業となる。そして、山本と黒山も成し遂げられなかった6連覇への挑戦権が、小川に与えられた。言うまでもなく、5連覇したとびきりの王者にしか許されない、その権利を得たこと自体が大きな快挙だった。

小川友幸

小川友幸

レジェンド小川

 小川が“レジェンド”と呼ばれるようになったのは、2016年に「40歳で4連覇」を有言実行してみせた時からだ。40代の全日本チャンピオン誕生は、トライアルに限らず前代未聞のレベルだった。しかも、15年までの小川は開幕前に連覇を宣言することはなかったが、16年は敢えて4連覇をハッキリとした目標に掲げ、それを実現させた。その言動もまた、レジェンドと呼ぶにふさわしい。そしてさらに18年の小川は、史上初の6連覇に挑むのだが、これぞ全日本トライアル史上最大のチャレンジと言える。この6連覇を達成すると、その時に小川は42歳となっている。他のスポーツ界にもレジェンドと呼ばれる選手はそれぞれにいて、通常は引退を考える年齢を大きく過ぎても、伝説的な強さを保ち続けている。そうしたレジェンドたちとすでに肩を並べている小川が、さらなる高み「42歳で6連覇」に挑む、年齢的にもまさに全日本トライアル史上最高記録への挑戦(自身の最年長チャンピオン記録更新)になるのだ。

 ちなみに昨年5連覇を達成した小川はHondaの大先輩でもある山本昌也に、「僕も5連覇を達成しました」と報告したところ、山本から「遅かったな」と言われたという。山本が5連覇したのは小川より14年も早い27歳の時のことだった。また、黒山の5連覇は28歳の時だった。「僕ももっと早く5連覇したかったのですけれどもね」と言う小川が初めてチャンピオンになったのは、黒山が5連覇した翌年の07年だった。それからまた08年と09年は黒山、10年は小川、11年と12年は再び黒山と、小川にとっては黒山に連覇を阻まれてきたとも言える歴史があった。しかし、13年から小川の快進撃が始まり、ついに5連覇、そして6連覇への挑戦につながった。

小川友幸

小川友幸

敵は自分自身

 開幕戦の前に、小川にインタビューする機会が得られた。以下は、その一部。

ー最大のライバルはやはり黒山?

Gatti それはそうですが、自分かもしれません。昨年以上にプレッシャーがあります。6連覇はまだ誰もしていないですし、チャンスは今年のみ。これを逃すと次はないでしょうから。自分との闘いになると思います。自分では気にしたくないですが、周りからも言われますから(笑)。

ー6連覇するために必要なことは?

Gatti シーズン中にケガをすることもあると思うので、その中で勝つために、より(技術の)精度を上げる練習をしています。ミスをすると体に負担がかかり、ケガをしやすいですから。

ー昨年の開幕戦では左足を負傷、黒山が圧勝して2位という結果になりましたが?

Gatti あの時は一か八かの走行で負傷したので、今年は敢えて足を着いて減点1になっても勝つ、ということも考えています。

ー簡単そうに走行しているように見えても、いろいろ考えているわけですね?

Gatti 簡単そうにやっている、とよく言われますが。考えて考え抜いたことを精密に再現しています。

ー6連覇への思いは?

Gatti とにかく、「42歳で6連覇」は成し遂げたいです。

―小川にとって6連覇は、5連覇以上に難しいものであるとともに、自分自身との闘いにもなることを覚悟しているようだ。

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