team HRC現場レポート

全日本ロードレースの前半戦の最後となるSUGO大会はこの時期のスポーツランドSUGOにしては予想外に気温が上がる連日30℃超えのレースウイークを迎えた。
このレースでダブルウインを決め、これで4連勝。Team HRCの次なる目標は、灼熱の鈴鹿での優勝だ。

高橋巧

Vol.14

Team HRC、2年目の熟成
噛み合い始めたチームとマシン、そしてライダー

まるでリプレー映像を見ているかのようなレース展開だった。
開幕戦・もてぎ大会、第2戦・鈴鹿2&4に続いて2レース制で行なわれた第3戦・SUGO大会。5月の東北地方だというのに、真夏のような灼熱のコンディションとなったこのレースで、Team HRCの高橋巧がダブルウインを決め、これで2戦4レースで4連勝。ポイントランキングでもトップをキープした。
それも、両レースともスタートで飛び出し、序盤からスパートして後続を引き離し、そのまま逃げきるという先行逃げきりの圧勝。2位以下に、レース1は6秒8、レース2は3秒3の差をつけての完勝だった。


優勝記者会見での高橋。自然と笑みがこぼれるようになった
優勝記者会見での高橋。自然と笑みがこぼれるようになった

高橋巧(以下、高橋)
「ここまで気温が上がって路面温度が高くなってしまうと、レースの組み立てが重要になります。路面温度が高くてタイヤがグリップしなくなるのはみんな一緒。あとは我慢比べでした」

レース1、ポールポジションからスタートした高橋は、真っ先に1コーナーに飛び込みホールショットを獲得すると、そのままオープニングラップから後続を引き離し始める。高橋が考えたレースの組み立てとは、スタートから3周ほどを全力で走って後続を引き離して、あとはラップタイムを大きく落とさずに、自分のペースで周回するということだった。


レース1、ホールショットを獲得した高橋
レース1、ホールショットを獲得した高橋

高橋
「これだけ暑いと、タイヤに厳しいのは当たり前。普通にグリップするのは、スタートからほんの5周だったりするのです。残りの20周、グリップはどんどん落ちてくるのですが、自分のペースで走るのと、だれかと競りながら走るのでは、タイヤの消耗の仕方がまるで違う。まずはトップ争いの台数を減らすこと。これがタイヤの消耗対策に効くんです」

レース1の1周目終了時点での、トップ高橋と2番手の野左根航汰選手(ヤマハ)の差は約2秒。2周目には4秒、3周目には6秒ほどに広がった。トップを走るライダーに離されまいとする2番手集団は、ポジション争いのために抜き合いになりお互いにタイムを上げることができなかった。この間、ますますトップとの差が広がっていく。
高橋が狙ったレース展開は、まさにこれだ。

高橋
「まず2番手以降を引き離して、だれかが追いついてきたらまた仕切り直し、っていうつもりでいました。そのためにタイヤも残しとかなければいけなかったので、最初の3周が勝負だったんです」


レース1の気温は25℃。路面温度は50℃近くまで上がっていた。
レース1の気温は25℃。路面温度は50℃近くまで上がっていた。

結局レース1は、高橋が危なげなく2位以下との差を広げての優勝。これで第2戦・鈴鹿2&4から3レース連続しての先行逃げきり優勝だった。
もちろん、展開だけでレースに勝てるほど甘くない。開始直後、路面温度が高いレースの中でも一番タイヤが冷えているスタート3周でのスパートは、完全なグリップには程遠い状態で大きなリスクがともなう。
タイヤ消耗を抑えるために硬めのタイヤを履くと、硬いタイヤは完全にグリップする状態になるのに時間がかかる。その中で全力走行してリードを築き上げる必要があった。事実、レース1では、4周目にこのレースのファステストラップを記録していた。

続く日曜日は、土曜に輪をかけたような暑さだった。朝のフリー走行では、レース1より気温が上がるのを見越して、CBR1000RRWにセッティングの小変更を施したという。しかし高橋は、結局レース2ではレース1のままの仕様で走ることになった。

宇川徹 Team HRC監督(以下、宇川)
「路面温度も上がるのは確実でしたから、朝のフリー走行では、よりタイヤへの攻撃性の少ないサスペンションのセッティングも試してみました。けれど、(高橋)巧のフィーリングが変わってしまって、結局は元に戻しました。データやセオリーよりも、ライダーの感覚を優先したいですし、今の巧なら心配ないと思ったのです。ライダーが気持ちよく走るのが一番です」


「最近はスタッフみんなが自然に行動してくれている」と宇川監督
「最近はスタッフみんなが自然に行動してくれている」と宇川監督

そしてレース2が、まさにレース1のリプレー映像を見ているようなレースだった。
スタートで飛び出す高橋。ホールショットを奪って逃げ始める高橋は、2番手につけた岩戸亮介選手(カワサキ)に1周で4秒の差をつけ、3周目には2番手に上がった水野涼(MuSASHi RT HARC-PRO.Honda)に6秒の差をつける。逃げる高橋、それを追う2番手集団が主導権争いのバトルで競り合ってタイムが上がらないところまで同じ展開だ。

そしてレース2も、高橋は2位以下との差を常に3秒以上にキープして優勝し、このSUGO大会をダブルウイン。連勝記録は、第2戦・鈴鹿2&4のレース1から4に伸び、そのすべてがポールトゥウイン、すべてのレースでホールショットを奪うという圧倒的な勝ち方だ。


レース2でもホールショットを獲得。すでに後続と差をつけ始めている
レース2でもホールショットを獲得。すでに後続と差をつけ始めている

しかしこのダブルウインは、決勝レースの組み立て、公式予選での好タイムはもちろん、5月初旬に行われた事前公開テストから始まった、いい流れの中で達成したと言っていい。
2日間の日程で行なわれた事前公開テストでは、初日こそ中須賀克行選手(ヤマハ)に続く2番手タイムに終わったものの、2日目にはトップタイムをマーク。テストで出したタイムということで非公式となるが、JSB1000クラスでSUGOのコースレコードを更新する1分25秒831を叩き出した。


レース1を終えた高橋は、出迎えたチームスタッフに笑顔を見せる
レース1を終えた高橋は、出迎えたチームスタッフに笑顔を見せる

高橋
「事前テストでは、今走っている仕様のマシンでのSUGOの初走行だったのですが、走り出しからいいタイムで走れました。事前テストがいいペースで走り出せると、そこでペースを作れていい流れに乗れるんです。昨年は、事前テストですごくバタバタして、テストでよかったところがレースウイークで出せないことが多かったです。今年は開幕戦のもてぎ、続く鈴鹿もそうですが、事前テストからいい状態で走り出せて、ベースのセッティングができているので、コースが変わっても、そう大きな変更はなく走り出せます。走り出しから大きな変更をしなくて済むので、走りに集中できているのです」

Team HRCというHondaワークスチームが2年目を迎えたこと、高橋も、マシンも2年目。これが今の高橋の強さを作り出しているのだろう。このことを、宇川監督も評価している。

2019年型CBR1000RRW。昨年型から大きな変更はないが、熟成が進んでいる
2019年型CBR1000RRW。昨年型から大きな変更はないが、熟成が進んでいる

宇川
「この体制で2年目のシーズンということで、バイクのパフォーマンス、セッティング、そして巧の走り、もちろんテストやレースの現場でのチームの動きも、すべてハマっているというか、歯車がガッチリ噛み合っている状態だと思います。実は巧は、SUGOに来る前の鈴鹿テストで転倒して左手に小さなひびが入っていたのです。レントゲンでは映らない、MRIでようやく分かるような小さなひびなのですが、痛いとは思いますよ。巧は泣き言も言わずにそれを乗り越えました。この暑い中、25周とレースも長かったので、ちょっと心配でしたが、大したものだと思います。このSUGOは完ぺきなレースでした」


表彰式でファンの声援に応える高橋
表彰式でファンの声援に応える高橋

これで全日本ロードレースはシリーズ前半戦が終了し、3戦6レースを終わって、高橋は4勝、2位2回。ランキングトップをキープした。次のレースは――。

宇川
「これから8耐のテストが始まります。8耐に向けては、このバイクがベースになって8耐仕様にして作り込んでいきます。マシンの状態、巧の調子も、昨年に比べたらいいスタート地点から始められますよね。まだまだ準備が始まったばかりの段階ですが、あとはライダー選定を済ませて、昨年のリベンジがしたいですね。体制発表はこれからです。楽しみにしてください」


レース2を終え、高橋を出迎えた宇川監督と。監督も破顔一笑
レース2を終え、高橋を出迎えた宇川監督と。監督も破顔一笑

全日本選手権で、憎らしいほどの強さを取り戻し始めたTeam HRC。次の目標は、鈴鹿8耐だ。

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