team HRC現場レポート

Vol.10

上り調子を見せるもレース中止。残るは最終戦、2レース!

全日本ロードレースもいよいよ終盤。これまで「苦手」と公言していた岡山国際サーキットで、Team HRCの高橋巧は事前テストから好感触。いざ今シーズン初優勝へ、と意気込んで迎えたレースウイークも、天候不順のためにレース中止となってしまいました。

高橋巧

ニューマシンの宿命と高橋の今シーズンの課題

「いい手応えはあったんですけどね。雨じゃしょうがない、台風なら仕方がないです」

Team HRCの高橋巧は、全日本ロードレース第8戦・岡山大会の決勝レースが中止と決まると、こう絞り出した。予報でも伝えられていた台風24号が日本列島に接近、公式予選が行われた土曜の夜あたりから、決勝レースが行われる日曜日にかけて、上陸の可能性もある、との判断による決勝レースの中止だった。

高橋巧高橋巧

前回のオートポリス大会から約4週間のインターバル。雨にたたられたオートポリス大会から、約1週間後に行われた岡山大会の事前テストも、ドライコンディションでも走れたセッションがあったとはいえ、セミウエット、ウエット路面での走行だった。ウエット走行では、高橋がトップタイムをマークするセッションもあった。

高橋巧(以下、高橋)「事前テストは、ドライではそんなにいいフィーリングではありませんでした。もともと、この岡山国際のコースは、ライダーとしても好きじゃないし、CBRにとってはよさがなかなか出しにくいレイアウトなんです。雨ならば、その弱点が出にくいというか、僕も乗れている。それでも、マシンは毎戦のように変わるわけではなく、まだセッティングを詰めている状態です。これがニューマシンの宿命、今年の課題でもあるんです」

レーシングマシンというものは、極論を言えばセッティングが命だ。例えば岡山国際サーキットならば、エンジン、車体、サスペンションやタイヤチョイスなど、そのサーキットに合わせた最善のセッティングを施すのがチームとレーシングライダーの仕事である。

それがニューマシンとなると、セッティングのスタートの地点も定まっていないところから、最善のセッティングに向かっていくことになる、その道のりは長く、時間がかかるもの。それが、今シーズンのTeam HRCと高橋の敵であり、課題なのだ。

高橋巧高橋巧

高橋「今年のマシンは、まずはっきりとストレートが速くなりました。でも、それがすべていい方向につながるわけではなく、ストレートが伸びる分、ブレーキングも大事になるし、そこから旋回につなげるところも昨年までのマシンから大きく変わっている。それが、今年ずっと抱えている課題なんです。ゼロ地点からセッティングをはじめ、進めて、いい線に達した、さぁここからシビアなところまで詰めていこう、というところで決勝レースになっちゃう。ここが、いつももう一歩で中須賀選手(ヤマハ)と戦えない差になってしまっています。もっともっと、いろんな条件といろんなコースでテストしたい。特に現在のJSB1000のマシンはシビアですから、やってもやっても終わりはないんです」

高橋が言うのは、このコース、こういう路面コンディション、というデータを何十通りも欲しいし、さらにドライかウエット路面か、気温も路面温度も、すべての条件のデータが欲しい、ということだ。それが、ニューマシンに決定的に足りないところ。表彰台に上がれても優勝に届かない、それが高橋の現状なのだという。

高橋巧高橋巧

自信あるウエット走行で上り調子を見せるもレース中止

岡山大会のレースウイーク初日、金曜の走行はドライコンディションでの合同走行。ここで高橋は3番手タイムをマーク。苦手なコース、よさが出にくいコースレイアウトでの3番手タイムだったが、高橋は昨年までのベストタイムを更新しての3番手だった。

高橋巧高橋巧

宇川徹監督(以下、宇川)「巧は苦手だって言っていますけど、金曜の走行ではうまく走って自己ベストを更新していましたね。これは、事前テストの結果で、ここを修正したい、というポイントがうまくまとまって、タイムにつなげられた結果でした。もう、巧の雨の速さは心配していないので、ドライでのセッティングをもっともっと詰めたかったんですが、土曜は雨になっちゃいましたもんね」

宇川徹宇川徹

さすがに台風が接近しているだけに、土曜は朝から雨。それも、小振りになったと思ったらすぐに豪雨、という不安定さで、午後から行われたJSBクラスのノックアウト方式での予選も、小雨スタートで徐々に雨が強くなり始め、セッション終盤には豪雨というようなコンディション。ここで高橋は、セッション1を4番手でクリア。セッション2に向けてセッティングを変更したスペアマシンで出走することになる。

高橋「Q2(セッション2)はセッティングを変えたマシンで出走したんですが、あまりフィーイングがよくなくて、いったんピットに入って少しセッティングを変えようとも思ったんです。でも、ピットに入る間にまた雨が強くなるかもしれない、と思って、走り出した仕様を理解しようと、そのまま走り続けたんです。そうしたら、だんだんフィーリングがよくなってきて、タイムも上がりはじめたんです」

高橋巧高橋巧

セッション2は、スタート早々に高橋裕紀(MORIWAKI MOTUL RACING)がトップに立ち、チームメートの清成龍一が続くなか、高橋巧もセッション中盤以降に3番手に浮上する局面があり、一時CBR1000RRがトップ3を独占。最終的には、その3人に野左根航汰(ヤマハ)が割って入り、そこから高橋裕紀が巻き返し、高橋巧も最後にタイムを詰める、という展開となっていく。結果、高橋裕紀、野左根、高橋巧の順でフロントローが確定。以下、中須賀克行(ヤマハ)、津田拓也(スズキ)、清成が2列目に続き、ウエットコンディションが確実視される決勝レースで、高橋は重要なフロントローを獲得した予選だった。

しかしこのころ、主催者は天候悪化を理由に決勝レースの中止を正式発表。予選結果がそのまま順位となり、各ライダーには決勝レースのハーフポイントが与えられることになった。高橋巧、予選3番手で、10ポイントを獲得したレースとなったのだ。

高橋巧高橋巧

高橋「レース中止はもう、しょうがないです。それより、ドライも自己ベストを更新できて、ウエットの予選でも最後の最後にいいフィーリングで走ることができた。最終ラップ、いい区間タイムで走れていたんですが、最後にスローペースで走っていたライダーの後ろについてしまって、ちょっとタイムロスがあったんです。あれがなかったら……」

勝って納得できないレースもあるし、負けて充実感を味わうレースもある、という高橋。さしずめ今回は、決勝レースがなかったとはいえ、上り調子で終えられたレースとなったのだろう。

宇川「泣いても笑っても、次が最終戦です。ニューマシンは、鈴鹿での走り込みがいちばん多いし、巧も鈴鹿を得意としています。シーズンの最後は勝って終わりたいのは、ライダーだけじゃなくてチーム全体の思いです。行くしかないでしょう」

高橋「これから最終戦までの間にテストもあるし、最終戦でなんとかいいところを見せたいです。雨はもういいかな(笑)、ドライで今の自分とマシンの持てる力を精一杯出し切りたい」

最終戦は11月3日~4日のMFJグランプリ in 鈴鹿サーキット。Team HRCは、有終の美を飾れるだろうか――。

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