team HRC現場レポート

シリーズ終盤に突入した全日本モトクロスのインターバルに、Hondaライダー3名で構成されたチームジャパンが、FIMモトクロス・オブ・ネーションズ(9月28日~29日・オランダ・アッセン)に遠征してきました。この国対抗世界選手権に今年派遣された日本代表は、成田亮選手(#61・CRF450RW・Team HRC)、大塚豪太選手(#62・CRF250R・T.E.SPORT)、富田俊樹選手(#63・CRF450RW・Team Honda HRC)。今回の現場レポートでは、チームジャパン芹沢直樹監督が、TTサーキット・アッセンの特設コースで行われた「モトクロスのオリンピック」を振り返ります。

チームジャパン芹沢直樹監督と成田亮選手

Vol.62

厳しい戦いとなったモトクロス・オブ・ネーションズ

日本代表監督を務めるのは今回が3度目になりますが、これまでに経験した2014年ラトビア大会、2015年フランス大会よりも苦戦するだろうという予想はしていました。ラトビアのケグムスもサンドコースでしたが、今回のアッセンはオランダGPが行われたときの状況を見ても、攻略困難なディープサンドの路面になることが分かっていたからです。チームとしては可能な限り早くオランダ入りして、サンドに対する慣熟度を高めたかったのですが、全日本のシーズン中という日程上の制約もあり、現地で練習できたのは2日間でした。

オランダ初日の練習地、アーネムは現地の人にはサンドではないと言われましたが、我々にとっては十分なサンド路面でした。2日目のアクセルはより深いサンドで、別の日にホルヘ・プラドが練習している動画が上がっていました。富田に言わせると「アメリカでも体験したことがないディープサンドで、サウスウィック、ジャクソンビルでもここまでではない」という難しさでした。バレンティン・ギロド(スイス・CRF250R)とカイル・ウェブスター(オーストラリア・CRF250R)も練習に来ていたのですが、比較してみるとかなりタイム差があり、我々は本番前から大きなギャップを肌で感じていました。

サンドコースにおける理想的な乗り方は、できるだけリアに荷重をかけながら、スロットルを戻さずに駆動力をキープすることです。戻すとマシンがピッチングして、フロントが砂に埋まってしまう。事前テストでは大塚が早速この壁に直面していたのですが、一緒に練習したウェブスターの走りを観察すると、常に駆動をかけながらあまり回していない。使うギアも回転数も違うということを大塚は学習していました。パワーオンを続けることで姿勢が安定する。これはハードパックでも同じことが言えると思います。

ティム・ガイザー仕様のファクトリーマシンを仕立て直した成田車
ティム・ガイザー仕様のファクトリーマシンを仕立て直した成田車

路面への慣れもさることながら、チームとしての心配事の一つにマシンへの対応がありました。今回の参戦態勢はこれまでの例とは違って、全日本で使用しているマシンを空輸したりせず、現地での機材と人材を活用することにしたからです。ひとことで言えば、成田と富田はティム・ガイザー(Team HRC)仕様のファクトリーマシン、大塚は能塚智寛(Honda 114 Motorsports)のマシン。メカニックも日本からは帯同せず、各チームのスタッフが対応しました。もちろんハンドルバーなどポジション系のパーツ、サスペンションやタイヤなどは持ち込みましたが、短時間でどこまで自分のマシンに仕上げられるか…。大塚の場合は450から250への乗り換えというテーマもありました。

CRF450RWをベースにサスセッティングを調整する方向性でセッティングを進めていきました。バネレートを上げてみたり突き出し量を変えてみたりしたのですが、成田は一番慣れている全日本仕様に戻しました。富田は突き出しをチョッパー気味にセット。大塚は450のサスをそのまま持参したので、バネレートを合わせたり、突き出しを変えたりしました。成田のように自分の基準を変えないライダーと、コースに応じて変えるライダーがいますが、富田と大塚のようにフロントフォークを張り気味にするセッティングは、ノーズダイブを防ぐための常套手段です。

普段全日本で乗っている450から250への乗り換えた大塚豪太選手
普段全日本で乗っている450から250への乗り換えた大塚豪太選手

アッセンのコースを歩き、プラクティスを走った段階では、事前練習に行ったアクセルよりも好印象でした。ところが予選レースが始まる頃には状況が変わり、コースコンディションは悪化する一方。天気にも翻弄されました。金曜は概ね好天、土曜は雨が降ったり止んだり、日曜は雨量が増えてディープサンドが沼のようなマディになりました。前述したように苦戦は想定していましたが、現実は予想を超える厳しさでした。

ディープサンドからマディへと変化した路面状況に苦戦
ディープサンドからマディへと変化した路面状況に苦戦

MXGPの予選レースでは、成田が好スタートを切って上位に食らい付きました。その後に転倒して24番手まで下がりましたが、追い上げ中に足を着いたときにヒザを捻って靱帯を負傷してしまったのです。リタイアし、33位で終わったことが、大塚と富田にはプレッシャーになったかもしれません。チームの作戦として、ワースト1人を除外した2人の有効ポイント=28点を決勝進出ラインと想定していたので、大まかに言えば14位/14位を目安としていました。逆に成田に対しては、10位以内に入ってくれたら大塚と富田が楽になるからとプレッシャーをかけていたんです。冗談半分ですが、半分は本気で頼りにしていました。実際に3年前のイタリア大会マッジョーラでは9位で通過していますから、成田にとって無理な注文ではなかったはずでしたが、コースの難易度が予想以上でした。

予選で上位進出を狙った成田亮選手
予選で上位進出を狙った成田亮選手

大塚に対しては初出場ということもあるので、数字を意識せずにチャレンジしようと伝えていました。それでも硬くなってしまった部分はあったかもしれません。MX2の予選レースに出走した大塚は、エンストして追突された際にセルのスタートボタンが壊れてしまい、リタイアで29位となりました。成田と大塚のリザルトをストレートに受け止めると、富田にとってはモチベーションを保つのが難しかったと思いますが、だからといって気を抜いて走れるようなコンディションではなかったし、集中してしっかり攻めようと伝えました。オープン予選を走りきった富田のリザルトは25位でした。

オープン予選25位となった富田俊樹選手
オープン予選25位となった富田俊樹選手

敗者復活戦であるBファイナルに回ることが確定しましたが、成田が走れない場合は大塚と富田の2人だけでもBファイナル1位を目指そうと切り替えました。結果的に日曜の朝になっても痛みが引かなかったので、成田はプラクティスから走行を見合わせました。

今回のスタートは緩い右コーナーの後に左コーナーが控えているレイアウトだったので、アウト側からも出られそうだと分析していました。そこでBファイナルのゲートピックは、大塚をイン側に富田をアウト側にして、2人とも上位を狙うことにしました。1人だけでよければ、富田がイン側という作戦もあり得ますが、Bファイナルの総合順位は2人の合計ですから、どちらかに片寄るのは得策ではありません。Bファイナルでは、2人で10点を目標にしていました。1位/9位、2位/8位、3位/7位、4位/6位…またはそれ以上であれば、決勝進出が現実的となります。ところが超マディとなったコンディションでは、そんな願いもかなえることができず、富田が11位、大塚が24位で敗退しました。

今回の参戦で痛感したのは、ディープサンドに対する慣れも含め、状況の変化に対応できる能力が足りなかったことです。この点を補強するには、走り込むしかありません。ハードパックを得意とするイタリアやフランスのライダーが、オランダに移住して弱点だったサンドを克服しているぐらいですから、そういった成功例は日本人ライダーにとっても参考になるのではないでしょうか。

状況の変化に対応できる能力を求められる大会となった
状況の変化に対応できる能力を求められる大会となった
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