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Team HRC現場レポート

vol.52

V12達成に向けて快進撃を続ける、成田選手の強さの秘密とは

全日本モトクロス第5戦(6月10日・熊本・HSR九州)まで終了した段階で、成田亮選手(#982・CRF450RW)が、IA1クラスのランキング首位に立っています。通算勝利記録更新と同時に、V12達成を狙っている成田選手の絶好調には、なにか秘密があるのでしょうか。今回の現場レポートでは、Team HRCに帯同する風間貴文氏(株式会社ナズー/日本体育協会公認アスレティックトレーナー)にお話を伺いました。

風間貴文

昨年は開幕戦で1勝したのみでしたが、今年の成田選手はシリーズ前半を終えたところで5勝を挙げ、ポイントリーダーの座を維持しています。私が見ても昨年との差は明らかで、コンディショニングの成功が好調につながっていると考えています。

シーズンインの状態は例年通りです。負傷などによって仕上がりが遅れることはありますが、成田選手はオフに行うアメリカキャンプを含め、いつもと同等の準備をしてきました。違うところがあるとすれば、疲労回復の仕方を変えたことでしょうか。昨年は完全休養日を設けていたんですが、今年は休みの日でもなにもしないのではなく、軽く身体を動かすことで疲労を取るアクティブレストを取り入れました。軽めのジョギングや自転車などで血液の循環を促しつつ、たまった乳酸を取り除くやり方です。

やはりベテランですから、山本選手や能塚選手と同じ練習量をこなすと身体が疲れます。20代のころは全日本モトクロスとAMAナショナルを掛け持ちで、日程がかぶらないラウンドには全部出ていたそうですが、今の成田選手にはそれなりの休養が必要です。そこで芹沢監督のコメントにもあったように、昨年は全勝しなくても毎レース2位で十分だから、シーズンの終わりにチャンピオンになることを目指そうという方針に変わったそうなんです。いつでも勝利にこだわって、ひたすら攻めるのが成田選手のスタイルだったのに、トーンダウンさせたのが昨年の反省点でした。

昨年はフィジカルがテーマだと言われていたんですが、身体が疲れる、それでは休みましょうか、休んでも疲れが取れないという状況に陥っていました。休んだ分だけフィジカルが落ちていたのです。少々ナーバスになっていた時期でもありました。150勝を期待されるプレッシャーという説もありましたが、それは違うでしょう。成田選手はだれよりもメンタルが強いライダーですし、今年の開幕戦ではあっさり150勝、さらに151勝目を達成しました。だれもが緊張する開幕戦、しかもHondaのお膝元であるHSR九州で、上層部が注目する中でのピンピンですから、ただ者ではありませんね。

アクティブレストについては、私がアドバイスしたのではなく、成田選手自身が気付いて取り入れているようです。ベテランになると若いころの身体とは違ってくるし、それに合わせた方法論もさまざまです。私からはメニューを決めつけたりせず、こんなやり方もありますね、という程度にとどまっています。やはり本人の経験に基づいた感覚的な部分なので、トレーナーがなにかを強制するようではいけないと考えています。

ライダーの日常については、昨年からコンディショニングシートによるモニタリングとデータベース作りを始めていて、送ったメールに返信してもらうと、体重、睡眠時間、練習内容、食事メニューなどが私のファイルに書き込まれる仕組みになっています。それを分析しながらトレーニング方法などをアドバイスしたり、体調管理に活用したりしているのです。食事メニューは確認しているだけで、こちらからあれこれ指示するようなことはしていません。

一般的に日本のモトクロスライダーは、アメリカやヨーロッパのライダーに比べてフィジカルのレベルが低く、コンディショニングに対して留意している人が少ないようです。練習やトレーニングをやるときはやるけれど、飲み会に誘われるとホイホイ出かけたり、焼肉でスタミナを付けた気になるとか、それでは意識の高い欧米のライダーにかなわないわけです。好きなものを食べて気分がよくなるのは結構ですが、例えばお酒を飲んで少々脱線したら翌週からまた節制してがんばるとか、メリハリをつけた自己管理ができればいいでしょう。禁酒すべきだとは言いませんが、ケガをしているときのアルコールは腫れが出るから避けて欲しいと言うことはあります。

成田選手の話に戻りますが、ライディング以外のトレーニングとしては、自転車やトレッドミルなどを活用していますね。自宅にもコンセプト2のマシンが置いてあり、先ほど言ったアクティブレストの日にも身体を動かしています。Team HRCのテントにもボート漕ぎの運動をするローイングマシンを用意してありますが、モトクロスには最適のエクササイズだと思います。なぜかと言うと、ライディング中のモトクロスライダーの動作を解析すると、腕に関しては押す動きよりも引っ張る動きが多いからなのです。もちろんハンドルを押すこともありますが、どちらかと言えば下にプッシュするのは足の方で、手はプルがメインになります。

エクササイズの種類には、OKC(オープンキネティックチェーン)とCKC(クローズドキネティックチェーン)があります。OKCとは足の裏が付いていない、つまり座って行う運動のことで、比較的負荷が低く、逆にCKCは足の裏が付いている、すなわち立って行う運動なので、負荷が高いのです。ボート漕ぎはその2種類の中間で、SCKC(セミクローズドキネティックチェーン)に分類されます。足を踏ん張る瞬間はありますが、全体重がかかっているわけではないので、そう呼ばれています。

リハビリなどでOKCから始めてCKCへと負荷を高めるように、モトクロスの準備運動でも最終的にはCKCのスクワットなどをやってほしいですね。腕アガリに象徴されるように、モトクロスは手を酷使する競技だと思われがちですが、実は脚の方が大事なのです。スタート前にスクワットをやって力を加えておくと、ジャンプ着地などで踏ん張りやすくなります。ちょっとした打撲などで脚に問題があるときは、そうした準備をしてから走り出すのが効果的です。

腕アガリは永遠のテーマですが、腕よりも脚のトレーニングをした方がいいと思います。脚の方が腕よりも筋肉の量が多いので高負荷に耐えられるし、CKCの重要性につながる話になります。自転車で実感したんですが、足でペダルを押し付けると、ギャップや段差のショックが少ないものです。モトクロスで疲れてくるとシートに座り、足を使えなくなってしまうことが腕アガリの一因と言えるかもしれません。

モトクロス・オブ・ネイションズに帯同して、イタリアのマッジョーラに行ったとき、欧米のライダーやトレーナーと話したのですが、やはり足が使えなくなると腕に来る。知らないコースで突っ込みすぎてブレーキングしたり、前のめりになると腕を酷使してアームパンプになる。スタートに失敗して焦って追い上げるとき、冷静さを欠いたバトルをするとき、そんなシチュエーションが腕アガリを招くようです。

成田選手でも、たまに腕アガリになることがあるそうです。走行中に予兆があると自分でコントロールできるようなので、トレーナーとして対処することは特にありません。身体を触っていて感じるのは、背中があまり硬直していないことでしょうか。体重も適正付近まで絞られているので、その辺りからも意気込みが伝わってきます。

現在38歳の成田選手ですが、まだまだ向上できる伸びしろがあると思います。キングカズみたいに、50歳になっても現役でやっているんじゃないでしょうか。キングカズには自分なりに蓄積したノウハウがあるはずで、成田選手にもそれが言えるのではないかと思います。昨年から今年にかけて進化していることが、その証です。

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