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佐藤琢磨の挑戦

Close-UP レーシングヒストリーPart2

日本人ドライバー初PPを獲得 目指すはインディカーの頂点

F1シートを失った琢磨は、2010年からアメリカンモータースポーツの頂点に位置するインディカー・シリーズへの挑戦を開始する。新たなチャレンジに挑んている琢磨の活躍を迫った。

2009年5月9日、佐藤琢磨はアメリカにいた。2004年F1アメリカGPで3位表彰台を獲得した思い出の地、インディアナポリスモータースピードウェイ。彼の目的は、第93回インディ500ポールデイの視察であった。レース参戦の選択肢のひとつとして、インディカー・シリーズを模索していたのである。

「ターン1のイン側で走りを見ていたんですが、320q/h以上で進入しながら、ドライバーはみんな滑るマシンをしっかりとコントロールしていました」と、第一印象を語った琢磨。全開で走るインディカーを目の当たりにしたのは、これが初めてのことだという。

「あのスピードでカウンターを当てながら立ち上がっていくのは、本当に信じられなかったです」

インディカー・シリーズにおいても速さを証明している琢磨は、いま優勝の二文字しか見えていない インディカー・シリーズにおいても速さを証明している琢磨は、いま優勝の二文字しか見えていない

インディカーに新しい魅力を見出した琢磨は、依然F1への道を探っていたが、並行してインディカーのチームとも交渉を開始。そして、2010年に目指していたF1シート獲得が難しくなった時点で、彼は潔くアメリカ行きを決断したのである。

「いま、自分に必要なのはレース。もう、これ以上レースができない時間は、耐えられない」と2010年2月18日のインディカー参戦記者会見で心情を吐露した琢磨。

「インディカーは、エンジンやシャシー、タイヤがワンメイクとイコールの状態で戦えるので、ドライバーとしてはものすごく魅力的。誰にでも勝てるチャンスがあるのですからね」

2010年2月18日、琢磨は都内で記者会見を行い、インディカー・シリーズへ参戦することを発表した 2010年2月18日、琢磨は都内で記者会見を行い、インディカー・シリーズへ参戦することを発表した

琢磨が契約したチームは、KVレーシング・テクノロジー。コスワースのオーナーでもあるケビン・カルコーベンと、1996年にホンダ初のドライバーズチャンピオンを獲得したジミー・バッサーが共同で所有するチームだ。バッサーは琢磨の決断を待ちつづけてくれ、「本当に僕を信頼してくれている」と実感したという。開幕までほとんど時間がないなかで、契約の話はいっきに進んだ。こうして、新たな戦いの舞台を選択した琢磨は、2010年3月14日の開幕戦ブラジルからインディカー生活をスタートした。

琢磨が選んだチームは、インディアナポリスを本拠地とするKVレーシング・テクノロジーだ 琢磨が選んだチームは、インディアナポリスを本拠地とするKVレーシング・テクノロジーだ
参戦初年度はインディを学んだ一年

この年初めて開催されたブラジルは、サンパウロの市街地に特設されたストリートコース。全ドライバーが未体験のコースながら、土曜日と日曜日だけの2デイ・イベントとして強行スケジュールで開催された。しかも、メインストレートは路面状況が悪く、スピンを喫してコントロール不能に陥るアクシデントが多発。急遽オフィシャルは土曜日の予選を決勝日の朝にずらし、一晩かけて路面を削る突貫作業を行う。このような状況下、琢磨は予選でラウンド2まで進出して予選10位を獲得。デビューレースの予選でトップ10入りを果たし、琢磨はインディカーでも充分に戦えるスピードがあることを証明してみせた。だが決勝では、スタート直後のターン1でスピンを喫してマシンにダメージを負い、戦線離脱を余儀なくされる。

「スタート直後のダストがひどく、コントロールを失ってしまいました。最後まで走りきって、初めてのピットストップも経験したいと思っていたのですが、本当に残念です」と落胆した。決勝を1周も走ることができずに終え、痛恨のインディカーデビューレースとなってしまった。

第2戦セント・ピーターズバーグもストリートコースで、琢磨は予選11番手からスタートするが、フロントタイヤがグリップを失って25周目にタイヤバリアに激突。2戦連続リタイアとなった琢磨は、常設のロードコースである第3戦アラバマで初の完走を目指す。このコースは、開幕前の合同テストで総合7位に入っており、予選では初めて最終ラウンドに進出して6番手グリッドを獲得。しかし、決勝ではアクセルケーブルが切れる不運に見舞われてしまい、初完走は果たしたものの22周遅れでのゴールとなった。

そして、琢磨にとって初のオーバルレースとなったのが第5戦カンザス。予選11位を獲得して、レースでは6番手まで追い上げるなど、オーバルでも充分に戦える実力を示す。だが、残り14周というところで、5番手を走行していた武藤英紀と接触して、ともにリタイアに終わる。つづく第6戦は、シリーズ最大のレースとなるインディ500。予選で痛恨のクラッシュを喫して、31番手グリッドから決勝をスタート。一時6番手まで浮上するもピットイン時のアクシデントで後退を余儀なくされ、2周遅れの20位に終わった。その後も不本意なレースはつづき、第7戦テキサス、第8戦アイオワともにウォールの餌食(えじき)となってしまった。

ヨーロッパ型のコースにはない、オーバルでのレースは学ぶことが多く、アクシデントも多かった ヨーロッパ型のコースにはない、オーバルでのレースは学ぶことが多く、アクシデントも多かった

第9戦ワトキンス・グレンは、得意なロードコースということもあり予選最終ラウンドへと進出。そして第12戦ミッドオハイオのロードコースでは、この年のベストグリッドとなる予選3位を獲得。F1で戦ってきただけに、ロードコースの予選ではトップチームを上回るすばらしいパフォーマンスを披露。だが、なかなか決勝での結果に結びつかないのが、本人としてももどかしかったようだ。

琢磨が得意としているのは、やはりF1同様のロードコースであり、安定した速さを見せている 琢磨が得意としているのは、やはりF1同様のロードコースであり、安定した速さを見せている

母国レースとなったインディジャパンでは、プラクティスの5周目にオイル漏れでクラッシュを喫する。だが、多くのファンが見守るなか予選10番手からスタートして12位でフィニッシュ。これが、デビューイヤーのオーバルにおける自己ベストとなった。ロード、ストリートのベストは第11戦エドモントンの9位で、年間ランキングは21位に終わった。

2年目の2011年シーズンも、KVレーシング・テクノロジーから参戦することとなった琢磨。だが、1年目との違いはチームメートに2004年のチャンピオンであるトニー・カナーンが加わったことだ。カナーンの起用は開幕戦セント・ピーターズバーグから功を奏し、彼自身が3位表彰台を獲得しただけでなく、琢磨も自己ベストとなる5位でフィニッシュ。幸先良いスタートを切り、デビューレースで決勝を1周も走らずに終えた地での第4戦ブラジルでは、23周にわたりトップを快走するすばらしいパフォーマンスを披露。予選10番手からスタートした琢磨は、インディカーのレインタイヤは初体験ながらレースをリード。最終的には、チームがピットインのタイミングを誤ってしまい、8位フィニッシュとなる。しかし、この琢磨の快走は優勝の二文字が具体的に見えてきた出来事だったといえる。また琢磨は、オーバルのレースでも着実に進化を遂げていた。第6戦テキサスでは予選4位、決勝5位とオーバルでの自己ベストを大幅に更新。

雨に見舞われた第4戦ブラジルでは、一時トップを快走するもチームの戦略ミスで8位に終わった 雨に見舞われた第4戦ブラジルでは、一時トップを快走するもチームの戦略ミスで8位に終わった
オーバルとロードでポールポジションを獲得

参戦25戦目となった第8戦アイオワでは、インディカー・シリーズで日本人ドライバー初のポールポジションを獲得。インディ500が今年100周年を迎えた、伝統のシリーズでの快挙であった。「思い描く最高の走りとマシンだったので、うれしいです」と歓喜した琢磨。日本人がインディカー挑戦を開始した1990年から20年以上を経て手にしたポールポジションが、オーバルだったという点も大きい。

オーバルのアイオワでは、日本人ドライバーとしてシリーズ初のポールポジションを獲得した オーバルのアイオワでは、日本人ドライバーとしてシリーズ初のポールポジションを獲得した

喜びはそれだけにとどまらなかった。昨年、自己ベストフィニッシュを記録していた空港特設コース、第10戦エドモントンではロード&ストリートコースでの初ポールポジションを獲得。名門チーム・ペンスキーやチップ・ガナッシを下しての快挙であり、トップドライバーが次々と琢磨のもとへ祝福に訪れた。このエドモントンで予選トップに立てた要因を琢磨は、「今回、誰も走ったことがないコースだったのが良かったのでしょう」と語る。7年目を迎えたエドモントンは滑走路の改修で、今年からコースレイアウトが大幅に変更されていたのだ。

「同じ条件であれば、僕たちのチームもチップ・ガナッシやチーム・ペンスキーと対等にわたり合えるスピードを出すことができることを証明できました」

シティ・センター・エアポートが舞台のエドモントンで、2回目となるポールポジションを獲得 シティ・センター・エアポートが舞台のエドモントンで、2回目となるポールポジションを獲得

今年のインディジャパンはロードコース開催のため、ドライバー全員が初挑戦となるだけに優勝への期待が高まる。そんななか、第11戦ミッドオハイオでは自己最高となる4位でフィニッシュした。

琢磨とともに優勝を目指すKVレーシング・テクノロジー・ロータスのチームスタッフたち琢磨とともに優勝を目指すKVレーシング・テクノロジー・ロータスのチームスタッフたち
ライバル&関係者が語る Takuma Sato
ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)
「琢磨はとても速いと思う。今年の予選はとてもうまくやっているので、彼らのチームがレースでも安定してきたら、倒すのはすごく難しくなるだろう。このシリーズで勝つには、絶対にミスは許されない。厳しいコンペティションだからね。エドモントンで僕はミスをおかしてウォールに接触してしまい、琢磨にポールを奪われたんだ!」
ウィル・パワー(チーム・ペンスキー)ロード/ストリートコースで圧倒的な速さを誇るパワー。昨年はランキング2位を獲得している
エリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)
「彼のF1での経験が今年の予選に生かされていると思う。しかし、インディカーで勝つにはたくさんのコンビネーションが重要だ。第一に速いマシンが必要で、予選で好ポジションを獲得し、レースではパーフェクトなドライビングが要求される。本当に簡単なことではないが、琢磨は参戦2年目ながらよくやっていると思うよ」
エリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)2001、2002年に2年連続でインディ500を制した実力派。昨年のインディジャパン優勝者
ライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)
「性格もいいし、すばらしいドライバーだと思う。F1での経験が生かされており、琢磨はコンペティターとしても申し分ない。それだけに、彼とのバトルはいつもチャレンジングだ。インディカーで勝つには、ドライビングが優れているだけでは難しく、ピット作業や戦略なども含めたチームワークがとても重要になってくる」
ライアン・ブリスコー(チーム・ペンスキー)2005年からインディカー・シリーズへ参戦。昨年はドライバーズランキング5位を獲得
スコット・ディクソン(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング)
「琢磨はさまざまなフォーミュラで成功を収めてきただけに、才能は明らかだ。実際、彼はインディカーに参戦してから何度もトップクラスのスピードを見せ、ポールポジションも獲得している。あとはトップグループを安定して走れれば、勝利を収めることができるはず。そろそろ、日本のファンが期待する結果も出るんじゃないかな」
スコット・ディクソン(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング)2003、2008年のシリーズチャンピオン。2009年は2位、2010年は3位と上位ランキングの常連
ダリオ・フランキッティ(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング)
「彼はポールポジションを2回獲得しているので、勝つだけの速さはあると思う。僕が、いつも勝つために重要だと思っていることは、チームスポーツだということ。ファクトリーで準備をし、大勢のスタッフとともに週末のレースに挑んでいる。勝つためには、そのすべてがうまく回れば、自然と勝つことができると思うよ」
ダリオ・フランキッティ(ターゲット・チップ・ガナッシ・レーシング)2007、2009、2010年のシリーズチャンピオン。第11戦終了時点でランキングトップに立っている
ダニカ・パトリック (アンドレッティ・オートスポーツ)
「琢磨は紛れもなくトップクラスのスピードを持っており、ポールポジション獲得などの結果に表れてきている。私もインディジャパンで初優勝するまでに長い時間がかかったが、とにかく経験を積まないと勝てるようにはならない。日々の生活でのハードワークと、レースに集中する気持ちが強ければ、近いうちにきっと勝てるはず」
ダニカ・パトリック (アンドレッティ・オートスポーツ)2008年のインディジャパンでシリーズ史上初の女性ドライバー優勝を果たした実力派
トニー・カナーン(KVレーシング・テクノロジー・ロータス)
「チームメートになって琢磨とはいい友だちになれたし、ドライバーとしてもすごく尊敬している。彼はとても速いので、毎戦負けないように自分自身をプッシュしている。今年、ブラジルで琢磨は優勝までもう一歩の活躍を見せた。9月のインディジャパンでも、同じような走りを披露するはずだから、ファンは期待していいと思うよ」
トニー・カナーン(KVレーシング・テクノロジー・ロータス)2004年シリーズチャンピオン。ツインリンクもてぎでのレースは、CART時代も含め今年で14年目
ジミー・バッサー(チームオーナー)
「最初はF1との違いにかなり戸惑ったと思う。とくにオーバルにはね。でも、彼は時間をかけて努力して、しっかりと結果を出している。オーバルとロードコースの両方でのポールポジション獲得は、インディで勝てるスピードを持っている証拠だ。あとはチーム全員がミスをしないことと、ほんの少しの運が必要だろうね」
ジミー・バッサー(チームオーナー)KVレーシング・テクノロジーの共同オーナー。1996年にはCARTシリーズチャンピオンに輝いた
インディカー参戦数:28戦 インディカー獲得ポイント:426点

※2011年8月14日現在

2010
  • KVレーシング・テクノロジー
    • 獲得ポイント
    • 214点
    • ドライバーズ・ランキング
    • 21位
Rd. 開催地 予選 / 決勝
1 サンパウロ 10 / 22
2 セント・ピーターズバーグ 11 / 22
3 アラバマ 6 / 25
4 ロングビーチ 19 / 18
5 カンザス 11 / 24
6 インディアナポリス 31 / 20
7 テキサス 11 / 25
8 アイオワ 7 / 19
9 ワトキンス・グレン 5 / 15
10 トロント 18 / 25
11 エドモントン 13 / 9
12 ミッドオハイオ 3 / 25
13 インフィニオン 17 / 18
14 シカゴランド 10 / 26
15 ケンタッキー 14 / 27
16 ツインリンクもてぎ 10 / 12
17 マイアミ 9 / 18
2011
  • KVレーシング・テクノロジー・ロータス
    • 獲得ポイント
    • 238点
    • ドライバーズ・ランキング
    • 10位
Rd. 開催地 予選 / 決勝
1 セント・ピーターズバーグ 11 / 5
2 アラバマ 11 / 16
3 ロングビーチ 22 / 21
4 サンパウロ 10 / 8
5 インディアナポリス 10 / 33
6 テキサス(第1レース) 4 / 5
6 テキサス(第2レース) 25 / 12
7 ミルウォーキー 5 / 8
8 アイオワ 1 / 19
9 トロント 19 / 20
10 エドモントン 1 / 21
11 ミッドオハイオ 9 / 4
12 ニューハンプシャー 8 / 7
13 インフィニオン 8月28日開催
14 ボルチモア 9月4日開催
15 ツインリンクもてぎ 9月18日開催
16 ケンタッキー 10月2日開催
17 ラスベガス 10月16日開催

※8月14日時点