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ART Grand Prix代表 セバスチャン・フィリップが語る
世界に挑む2人の日本人ドライバー

後編:2人の日本人ドライバーについて

後編:2人の日本人ドライバーについて

――松下信治選手をどう見ていらっしゃいますか?

フィリップ:
「ノブ(松下信治)に才能があることは言うまでもない。最初に出会ったときから、すばらしい速さをみせてくれた。予選やレースでも結果を出してきた。昨年のハンガリーや今年のモナコ、バクーでの予選でもね。どんなサーキットでも、速さが発揮できることを証明している。そして、今後さらにノブが上に行くために必要なのは、安定性だろう」

後編:2人の日本人ドライバーについて

――今の松下選手に安定性が足りないのは、ドライビングというより、心理的な部分が大きいとお考えですか?

フィリップ:
「それは、分からない。いろいろな歯車が少しずつ噛み合ってない印象はある。昨年から今年にかけて、ノブが大きなステップアップを果たしたことは間違いない。けれどもまだ、細かいミスが完全になくなるところまではいっていないようだ。開幕戦のスペインで結果を出せず、モナコもフリー走行でいきなりクラッシュしてしまった。しかし、そのミスをレースではきっちりリカバーした。バクーは明らかに最速ドライバーだった。しかしそのバクーでもミスを犯し、それが想像もしなかった厳しいペナルティーにつながってしまった。厳しい裁定だったと思うが、多くのドライバーのレースが台無しになったことを思えば、仕方がなかったと思う。この結果、出場停止処分を受けたノブが、精神的に大きなダメージを受けたことは間違いない。それでもシルバーストーンではベストを尽くした。ほんの些細なことが、大きな結果となって跳ね返ってくるんだ。レースの世界とはそういうもの。もちろん、ノブもそのことは十分承知しているはずだけどね」

後編:2人の日本人ドライバーについて 後編:2人の日本人ドライバーについて

――現時点ではまだ、100%自信を回復していないようですか?

フィリップ:
「そのようだね。しかし彼の潜在能力が高いことは、間違いない。自分を信じられさえすれば、本来の力を発揮できるはずだよ。自分の中でのごくわずかな微調整、それができれば結果は付いてくるのだけどね。昨年のいくつかのレースで、ノブはストフェル(バンドーン)と互角の速さをみせた。あとはその速さを、コンスタントにみせることだ。まだヨーロッパに来て、1年半も経ってないことを忘れるべきではない。最初は英語もほとんどできず、ノブにとってはなにもかもが初めてのことだった。適応能力と、勝ちたいという気持ちが群を抜いていることは間違いない。僕が保証するよ」

後編:2人の日本人ドライバーについて

――福住仁嶺選手についてはいかがでしょうか?

フィリップ:
「正直、ただただ驚いているよ。ヨーロッパに来たばかりのときは、ノブ以上に英語ができず、おまけに最初のアブダビテストでは、1周目でいきなりクラッシュして、どうなることかと思ったよ(笑)。その後のテストはなんとかこなしたし、速さもみせたけれど、安定して走れるようになるには少し時間がかかりそうだというのが、正直な最初の印象だった。

ところが、それからみるみるうちに成長したんだ。チームメートに恵まれたのも大きかった。彼らのデータを見たり、走りを参考にしたり、どんどん吸収していったよ。英語もまたたく間にうまくなっている。走りにしても言葉にしても、うまくなりたい、結果を出したいという気持ちがものすごく強い。レースでも、時に驚くような鋭い走りをみせる。とはいえ彼はまだ原石だ。これからやるべきこと、覚えるべきことは山ほどある。我々も長い目で見守る必要があるし、時間は必要なんだ。実は、(マックス)フェルスタッペンのような若い才能がF1でデビューしたことは、我々下位カテゴリーの指導者たちにも大きな衝撃だった。ある意味、浮き足立ったと言ってもいい。しかし彼のような才能は、例外中の例外と考えるべきだろう。GP2で群を抜く存在だったストフェルでさえ、もし来年F1にデビューできたとしても、すでに24歳だ。若い方がいい、少しでも早い方がいいという風潮があるが、それぐらいの年齢でF1に行くのが、本来あるべき姿だと僕は思っている。

後編:2人の日本人ドライバーについて

だからニレイ(福住仁嶺)も、決して焦る必要はない。彼には、生まれ持った速さがある。そのことに本人は、もっと自信を持つべきだ。速さという先天的な基礎がなければ、いくら努力しても大成しない。しかしニレイは、その基礎を間違いなく持っている。なので、毎レースの結果に、あまり一喜一憂しない方がいい。チームメートがきっちり結果を出したりしていると、つい焦ってしまうし、その気持ちはとてもよく分かるけどね。それはノブも同じだ。2人が今後磨くべき能力は、レースに対する全体的なビジョンだ。マシンが決まって、調子がいいときに勝てるのは、ある意味当たり前のことだ。しかし一流のドライバーは、そうじゃないときでも、きっちり結果を出す。それができるのはほんのひと握りのドライバーだけだが、ノブもニレイもそのレベルに到達できると、私は信じているよ」