2006年 グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピードを訪ねて vol.2
< タイムトライアル 四輪篇 >
 午前9時、今まで静かだった競技車両専用のパドック(駐車場)が、けたたましいエンジン・サウンドに包まれる。あちらでも、こちらでも、100年以上の歴史に彩られた、新旧様々なマシンがエンジンのウォーミングアップを始めたのだ。いよいよ、「Goodwood Festival of Speed 2006」が幕を開ける。
 大型テントを十数張りほども使ったパドックには、歴代のWGPマシンやF1マシンがずらりと顔を揃える。時間の経過とともに訪れる観客は増え続け、人波が絶えることはない。それぞれに楽しみ方は千差万別である。お目当てのマシンのそばに行き、長い時間その場を動こうとしない人もいれば、エンジンを始動したマシンの後ろ側に立ち、エクゾースト・ノートに酔う人もいる。特に目立つのは子ども連れのファミリーの姿。幼い頃から、こんなイベントを日常的に訪れているのだから、この子どもたちが大人になってもクラシック・カーの魅力を忘れられずレースファンになるのは当然だろう。
 
1906年 ダラック
 パドックに並ぶ新旧のマシンの顔ぶれは、まさしく「すごい!」の一言。今回の最古参は、1886年に登場した世界初のガソリン・エンジン付き自動車として知られる「ベンツ・パテント・モートルワーゲン」。ただし、最近リメイクされた“新車”だ。驚くべきは、ホンモノと寸分違わぬレプリカが、ちゃんと走ること。984ccの単気筒エンジンが奏でる音は、自動車のパイオニアとしての風格さえ感じさせる。
 
 レーシング・マシンとして最も旧いモデルは、1906年の「ダラック」だ。モータースポーツ発祥の国であるフランス製だが、“エドワーディアン・モンスター”の異名を持つこのマシンのエンジンは直列4気筒で12.7リッター(1気筒当たり約3 .1リッター)もある。まさにこの時代の力強さを象徴する仕様である。ラジエターの先を尖らせて、一応は空力的なスタイルにしている。このマシンは1914年に英国のブルックランズ・サーキットで、スピード王として知られたサー・マルコム・キャンベルが走らせたマシンだ。
 
 1906年の世界初のグランプリ・レース、ACFグランプリ・レースに、ハンガリー人ドライバー、フェレンツ・シスのドライブで優勝した「ルノーAK 90CV」は、やはり直列4気筒エンジンを搭載していたが排気量は12.9リッターで、ダラックよりもわずかに大きい。こんなマシンでも最高時速160kmで走ったのだ。ラジエターはエンジンの後ろ側、ドライバーの直前にあり、前下がりになったノーズ部分が象の鼻をイメージさせることから、“エレファント・ノーズ”と呼ばれ、当時の自動車スタイリングでは大きな流行となった。その姿は現代の最新型F1マシンの迫力に通じるものがある。

 もう一台、初めてお目見えするマシンは、1911年型のイタリア製「フィアットS74」。これは、出力140馬力を発揮する直列4気筒SOHCの排気量14174ccエンジンを搭載し、一対のチェーンで後輪を駆動した。エンジンのシリンダー内径が150mmに規制されたため、ストロークは200mmもある。モンスターの時代の最後を飾るマシンだ。
 
 1920年代に入り、レーシング・マシンは一気に小型化と流線型の時代を迎える。小型化が進んだのは、レギュレーションが確かなものとなり、同じ性能がより小排気量のエンジンでも実現可能となったこと、流線型の導入は、空気力学の研究が進み、空気抵抗の少ないスタイリングとして流線型が最も適していたことがある。1924年に登場したイタリアの「アルファロメオP2」や1927年にデビューしたフランスの「ブガッティT35C」などは、高効率の小排気量エンジンを採用して小型化されたグランプリ・マシンの典型的なものだ。現在のクラシック・カーの市場では、数千万円から数億円、中には価格など付けられないほどのマシンたちが、事もなげに普通にレーシング・スピードで、サーキットを走って見せてくれるのだから、このイベントは感に堪えない。


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