ROUND19
ブラジル
オートドロモ・ホセ・カルロス・パーチェ
2017.11.09(木)
Hondaは、FIA※フォーミュラ・ワン世界選手権(以下、F1)の第19戦ブラジルGP(開催地:インテルラゴス、11月10日~12日)に向けて準備を進めています。今大会のサーキット情報や、今週末のレースの見どころなどをレポートします。
※ FIAとは、Fédération Internationale de l'Automobile(国際自動車連盟)の略称
長谷川 祐介 (株)本田技術研究所 主席研究員 F1プロジェクト総責任者
「アメリカ、メキシコでの2連戦を終え、今シーズンも2戦を残すところとなりました。次は年間で唯一の南米でのレースとなるブラジルに向かいます。
先日のメキシコGPでは、後方からのスタートだったにもかかわらず、フェルナンドが力強い走りを見せ、チームのために貴重な1ポイントを獲得してくれました。事前から苦戦を予想していただけに、チーム全員が力づけられる結果となりました。
今回の戦いの地となるインテルラゴスは、全長4.3㎞ほどの短いサーキットですが、激しいアップダウンの中に低速・中速・高速とバラエティーに富んだコーナーが配されています。低速コーナーが連続する第2セクターと、ハイスピードで上り坂を駆け抜ける第3セクターが特に重要になってくると考えています。PUとしてはスムーズなコーナリングを実現するために、特にドライバビリティーのセットアップがポイントになります。
このサーキットは1991年にMcLaren-Hondaとしてアイルトン・セナとともに勝利を手にしている場所で、Hondaにとっても特別な思い出があるサーキットですし、ファンの皆さんの記憶に残るようなレースが見せられればと思っています」
フェルナンド・アロンソ
「インテルラゴスは、カレンダーの中でも最高のクラシックコースの一つで、素晴らしい歴史を持ち、数々の有名ドライバーがトロフィーを掲げてきた場所でもあります。アクシデントが起きたり、天候によって波乱があったりと、年間で最もドラマのあるグランプリとも言えるでしょう。
サーキットは過去2戦よりも我々のマシンに合っているはずです。レースでは混乱が起きる可能性が高く、スタートポジションが重要となるので、予選でなるべく上位を目指さなければなりません。コースは本当に楽しく、一周は短いながらも流れるようなレイアウトで、今年型のマシンではさらに速く感じると思います。最終コーナーでいいリズムをつかめると、下り坂のメインストレートからターン1への進入がうまくいき、次のラップに向けて1コーナーを思い切り攻めることができるのですが、こういった部分がコースをエキサイティングなものにしているのです。
厳しい結果になると考えていた米国とメキシコでの戦いを終え、ブラジルとアブダビにはわずかな期待を持って向かうことができます。メキシコでのパフォーマンスは期待以上で、サプライズと言えるものでした。今大会も難しいレースになると思いますし、天候のことも考え、戦略面でもリスクをとらなければなりませんが、予選でいい位置につけられれば、ポイント獲得のチャンスは十分にあるはずです」
ストフェル・バンドーン
「ブラジルで、自分にとって新しいコースを走れるのを楽しみにしています。ここはファンからもドライバーからも有名なコースなので、特に楽しみです。インテルラゴスは、過去に何度もチャンピオンシップ決定の舞台となった場所で、セナやプロストなど偉大な選手たちがF1の歴史に残るような勝利を挙げてきました。
ほかのサーキットと同様に、エンジニアとシミュレーターを使ってたくさんの準備をしているので、金曜の朝にコースへ出るときには万全の状態で攻められますし、レイアウトにも慣れてコースに合わせたセットアップを進められます。これによって、フェルナンドと同じようにFP1からマシンの調整に取り組み、チームに有用なフィードバックができると思っています。
また、このコースではレースで何が起きるか分からないので、予選が重要です。メキシコでは最高のスタートが切れたので、ブラジルでもスタートで大きく順位を上げられれば、チャンスをつかむことができるはずです。トラブルに巻き込まれずに、クリーンなレースができれば、そのメリットを享受できると思います。週末が楽しみで仕方ないですし、ブラジルの熱狂的なファンの作り出す、あのインテルラゴスの雰囲気を味わえるかと思うと、今からワクワクしています」
エリック・ブーリエ McLaren-Honda Racing Director
「シーズン残り2戦に臨むわけですが、インテルラゴスは素晴らしい街であるとともに、McLarenにとっては数々のドラマティックなレースを繰り広げてきた場所でもあります。ゆるやかに波打ったレイアウトを持っていますが、カレンダー中で最も有名なサーキットのひとつであり、マシンとドライバーだけでなく、チーム全体が力を試される場所です。
シーズンの中でも数少ない、展開が読めないレースで、これまでにも波乱が起きています。したがって、我々のメカニック、エンジニア、そして戦略を担当するストラテジストにとっても厳しい週末になるはずですし、天候による影響も考慮しなければなりません。ポイント獲得の分かれ目は、天候に合わせたピットタイミングですが、ギャンブル的な側面もありありますし、それがエキサイティングなレースを演出することになります。
McLarenにとっては、今回のコースのほうが、過去2戦よりも我々のパッケージの強みに合っていると少しだけ期待が持てます。両ドライバーともに準備万端ですし、チーム全員がブラジルの観衆の素晴らしい声援を楽しみにしています。毎年期待してくれる熱狂的なファンの前で、最高のショーを披露し、明るい結果でレースウイークを終えられればと願っています」
名称 | オートドロモ・ホセ・カルロス・パーチェ |
初開催 | 1973年 |
優勝者 | 2016 ルイス・ハミルトン |
2015 ニコ・ロズベルグ | |
2014 ニコ・ロズベルグ |
インテルラゴスは、F1カレンダーの中で最も古く、歴史ある開催地の一つです。1973年に最初のグランプリを開催した際には、全長7.960㎞の超高速レイアウトで、McLarenでチャンピオンとなった同国出身のエマーソン・フィッティパルディ曰く“ジェットコースター”のようなサーキットでした。80年代後半に安全性対策のためにコース短縮と改修が行われ、1990年より新たなレイアウトでブラジルGPの舞台となっています。同サーキットは2つの池の間にある湿地帯に建てられており、Inter(間)+lagos(池)が語源となっています。
前戦のメキシコもそうでしたが、高地と熱狂的な観衆がチームを迎えます。インテルラゴスの標高は800mで、薄い空気がダウンフォースと冷却に影響を及ぼします。また、サーキットの収容人員は8万人と少なめですが、ブラジルのファンは情熱的で、素晴らしい雰囲気を作り出します。
これまでにブラジル人F1ドライバーは30人おり、そのうち3人が複数回のタイトル獲得を果たしています(エマーソン・フィッティパルディ、ネルソン・ピケ、アイルトン・セナ)。同国で一番人気のスポーツはサッカーで、3度のワールドカップ制覇を経験した国の英雄、ペレ氏は2002年のブラジルGPでチェッカーフラッグを担当しました。このときには、優勝したミハエル・シューマッハのゴールにフラッグが間に合わないというハプニングもありました。
McLarenはこれまでブラジルで12勝を挙げており、直近の勝利は2012年。1974年にエマーソン・フィッティパルディが母国GPでのポール・トゥ・ウインを達成しましたが、厳しいレースを制してのものでした。ターン1でロニー・ピーターソンに先行されたフィッティパルディは、ピーターソンがパンクでピットインするまでリードを奪い返せず。レースは大雨によって予定の40周から8周短縮され、クレイ・レガツォーニ、ジャッキー・イクスに先着して勝利を手にしました。
また、1991年は、同国のヒーロー、アイルトン・セナが優勝。このとき、彼の駆るMP4/6はギアが6速でスタックしていましたが、ウイリアムズのリカルド・パトレーゼからの猛追をなんとかしのぎ切りました。レース後のセナは疲労困憊し、マシンから自力で降りられないほどでした。
全長 | 4.309㎞ ※カレンダー中3番目の短さ。 |
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2016ポールポジション | ルイス・ハミルトン 1分10秒736 |
2016ファステストラップ | マックス・フェルスタッペン1分25秒305(67周目) |
ラップレコード | 1分11秒473 (ファン・パブロ・モントーヤ、2004年) |
エンジニアリング | 傾斜のあるコーナーが多く、フロントのロックが問題となる。例えば、ターン1への進入では、コーナリング開始地点から下り坂となっているので、左フロントタイヤがロックしやすい。また、ターン11~15は左コーナーが連続し、燃料タンク内のバランスが偏るため、予選時に燃料供給が途切れてパワー不足に陥る可能性がある。 |
ドライビング | 縁石をうまく使えるかがカギ。ターン8をはじめ、多くのコーナーでエイペックスの縁石を使うことによってラップタイムが向上する。コース上で最大のオーバーテイクポイントはターン1。難易度の高いコーナーでもあり、ロングストレートの直後で進入速度が速い上、下り坂になっているのでコースオフしやすいこともバトルの行方に影響する。 |
マシンセットアップ | ダウンフォースを多めに設定。指標となるのはターン3で、2017年型マシンでは全開走行が可能かもしれず、その場合チームは最高速を高めるためにダウンフォースを削るだろう。 |
グリップレベル | 高い。2年前に再舗装が行われ、いいコンディションを保っている。コース上のバンプも改善されており、これまでよりも車高を低く、足回りを硬めに設定できるようになっている。 |
タイヤ | スーパーソフト(赤)、ソフト(黄)、ミディアム(白) ※この組み合わせは今季9回目 |
ターン1までの距離 | 190m |
最長ストレート | 650m ※ターン1へ向かう直線 |
トップスピード | 時速320㎞(ターン1への進入時) |
スロットル全開率 | 62% |
ブレーキ負荷 | 低い。ブレーキングポイントは6カ所で、そのうち2カ所のみでハードブレーキング。一周のうちでブレーキを使用するのは15%にすぎない。 |
燃費 | 1周あたり1.49㎏を消費。カレンダー中でも低め |
ERSの影響 | 高い。ERSの使用箇所は多いが、ブレーキングが少なく回生ポイントは多くない。 |
ギアチェンジ | 42回/1ラップ、2,982回/レース |
周回数 | 71ラップ |
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スタート時間 | 現地時間14時(日本時間月曜午前1時) |
グリッド | ポールポジションはコース外側で、レーシングライン上にあるためアドバンテージは大きい。ターン1への距離がかなり短く、スタート直後の進入で接触が頻繁に起きる。 |
DRS | ゾーンは2つ。ターン1と4へ向かうストレート。 |
ピットストップ | 昨年のレースではウエットコンディションによってイレギュラーな展開となり、優勝したルイス・ハミルトンはウエットタイヤで3スティント、3位のマックス・フェルスタッペンはウエットとインターミディエイトで6スティントと戦略が分かれた。今年ドライコンディションになった場合には、ピレリが硬めのコンパウンドを選択しているので1ストップが予想される。 |
ピットレーン | 380m。1回のストップでのタイムロスは約20秒。ピット入り口がストレートの真ん中にあり、進入時に白線をまたがないように注意しなければならない。 |
セーフティカー | 出動率は70%。接触やクラッシュなどが多いコースであり、多くのレースでセーフティカーまたはバーチャルセーフティカーが導入されている。 |
注目ポイント | 天候。開催地サンパウロは「テラ・ダ・ガロア=霧雨の地」と呼ばれ、コンディションが変わりやすく、エキサイティングなレースを演出する。 |
見どころ | コースレイアウトと気象条件があいまって、展開が読めない、白熱のレースが繰り広げられる。また、コースが丘陵地帯にあることから、どこからも見晴らしが良く、観衆にとっても見やすいサーキットである。 |