ROUND18
メキシコ
アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲス
2017.10.26(木)
Hondaは、FIA※フォーミュラ・ワン世界選手権(以下、F1)の第18戦メキシコGP(開催地:メキシコシティ、10月27日~29日)に向けて準備を進めています。今大会のサーキット情報や、今週末のレースの見どころなどをレポートします。
※ FIAとは、Fédération Internationale de l'Automobile(国際自動車連盟)の略称
長谷川 祐介 (株)本田技術研究所 主席研究員 F1プロジェクト総責任者
「残念な結果に終わったUSグランプリを終え、次は国境を跨ぎメキシコに向かいます。まずはこの場を借りて、今回のメキシコの地震により、犠牲となられた方々に哀悼の意を表するとともに、被災者の方々に対して心からお見舞い申し上げます。
F1のカレンダーに復活してから3年目を迎えるメキシコGPでは、ファンはいつも熱狂的ですし、ラテン独特の陽気な雰囲気の中でレースをすることを楽しみにしています。また、我々の同僚であるHonda de Mexicoの皆さんからの温かいサポートをもらえることも、いつも心強く感じています。
今回のレース会場となるエルマノス・ロドリゲス・サーキットは、標高約2,300mの高地にあり空気が薄いため、PUからパワーを引き出す上で独特のセッティングが必要となるという点で、ほかのサーキットとは大きく異なる特性を持っています。
また、長いストレートを持つサーキットレイアウトですので、それを考慮しながらどのようにエンジンパワーをマネジメントするかという部分で、我々にとっては非常に難しい戦いになることを想定しています。ただ、他チームにとっても条件は同じですし、昨年までの2年間で得たデータも活用しながら、難しい状況下で最大限の力を引き出すべく、マクラーレンと一緒に戦略を立てていきます」
フェルナンド・アロンソ
「先日地震で被害を受けたメキシコに向かい、難しい状況に置かれている皆さんへできる限りのサポートをお見せするのは、とても大切なことです。
メキシコシティのファンの皆さんは、コース上の至るところで温かい声援を送ってくれ、特にアリーナセクションでは信じられないほどの歓声を浴びるなど、そのサポートは世界で一番です。私にとっては母国語であるスペイン語でコミュニケーションが取れるのもうれしいです。メキシコという国も、そこで暮らす人々も大好きなので、喜んでもらえる戦いを披露したいと思います。
オースティンで起きた問題によってグリッド後方からのスタートになる可能性があり、厳しいレースウイークになるかもしれません。コースはオーバーテイクが難しく、トラフィックに悩まされることも多くあります。ただ、ポジティブな面もあり、米国でのフリー走行で多くの部品をテストして、いい評価が得られたので、それをメキシコで実戦投入できればと願っています」
ストフェル・バンドーン
「大きな災害に遭った皆さんへお見舞いを申し上げるとともに、全力でサポートしていくことを思いながら、メキシコシティへ向かっています。
ロングストレートがあり、標高も高いという特性が、McLaren-Hondaにとって厳しい戦いを強いることになるかもしれません。私はオースティンで決勝前にパワーユニットを交換したので、メキシコではペナルティーがなければと願っていますが、現在精査を行っているところで、なにが必要になるかは金曜まで分かりません。
メキシコシティへは2年前に来ましたが、すべての体験がとてもよかったです。街の中心部に滞在しましたが、本当にいい都市でしたし、コースにあふれるすばらしい雰囲気を覚えているので、再訪できるのを楽しみにしています。ファンの皆さんは最高で、特にスタジアムセクションは多くの人が詰めかけ、とてもクールな光景が見られます。今はエンジニアとシミュレーターを使って準備に励んでおり、金曜日にコースを初走行できることにワクワクしています」
エリック・ブーリエ McLaren-Honda Racing Director
「まず初めに、私個人から、そしてチーム全員を代表して、9月にメキシコで起きた大地震の被害に遭われた皆さまへ、お見舞いを申し上げます。メキシコシティがカレンダー入りしてまだ日が浅いですが、大好きな街ですし、今週末は我々の皆さんへのサポートと連帯をしっかりと示すとともに、驚くべき早さで進んでいる復興と、メキシコの友人たちによるすばらしいホスピタリティーにスポットライトを当てる、いい機会になればうれしいです。
勝利を約束することはできませんが、我々は、オースティンでそうだったように、困難な状況であっても全力を尽くして戦います。フェルナンドは先週末に発生したパワーユニットの問題によってペナルティーを受けるかもしれないものの、彼はグリッド後方からでも気持ちのこもった戦いをする準備ができていることは疑いようもありません。ストフェルにもなにが起こるか分かりませんが、彼にとっては初走行となるコースで、可能な限りチャンスを高められるようにしていきます。
メキシコシティは高温多湿であることに加え、標高がエンジンの冷却と出力に影響するため、どのチームにとっても難しいコンディションになります。過去2年間、ここでレースをした経験から、そうした特性について多くを学んでいるので、それらをいい方向に活用したいです。ポイントスタンディングで大幅な浮上ができるとは考えていませんが、決してあきらめず、できる限りのベストを尽くしてこの厳しい2連戦を締めくくりたいと思います」
名称 | アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲス |
初開催 | 1963年 |
優勝者 | 2016 ルイス・ハミルトン |
2015 ニコ・ロズベルグ | |
1992 ナイジェル・マンセル |
メキシコにおけるF1の歴史は、60年代前半にペドロとリカルドのロドリゲス兄弟によって開かれました。2人ともドライバーとしてF1に参戦し、メキシコでのファンが拡大。それが1963年の非選手権レースとしてのメキシコGPの開催につながりました。当時の開催地であるマグダレーナ・スポーツ・シティ・サーキットはその後1979年までカレンダー入り。その後、「アウトドローモ・エルマノス・ロドリゲス」と名を改められ、1986~92年の7年間にわたって開催され、2015年から再びカレンダーに加わりました。
標高2,200mは、年間を通じて最も高く、チームはエンジニアリング面で大きなチャレンジを強いられます。また、ピット前のメインストレートは1.2㎞に及び、ターン1でのオーバーテイクに向けた駆け引きが見られるなど、好レースを演出しています。
今大会もチケットはすでに完売。満員の大観衆が独特の雰囲気を作り出し、特に4万人収容のスタジアムセクションでは大きな盛り上がりを見せます。ちなみに、このエリアはレース以外にコンサートでも活用されており、過去にはローリング・ストーンズやマドンナが公演を行いました。
昨年のレースでは、3位に3人のドライバーが指名されるという珍事がありました。3番手でフィニッシュラインを通過したマックス・フェルスタッペンに、コーナーカットがあったとして5秒ペナルティーがレース後に科され、セバスチャン・ベッテルが繰り上がって表彰式に参加。しかし、その後ベッテルにも危険走行による10秒ペナルティーという裁定が下され、最終的に5番手でチェッカーを受けたダニエル・リカルドが3位の座を手にしました。
マクラーレンは、これまでメキシコで3勝を挙げており、そのうち2勝は1988年と89年にHondaエンジンとともにつかんだものです。また、Hondaは1965年のメキシコGPでF1初勝利を達成しています。
全長 | 4.304㎞ ※カレンダー中2番目の短さ |
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2016ポールポジション | ルイス・ハミルトン 1分18秒704 |
2016ファステストラップ | ダニエル・リカルド 1分21秒134(53周目) |
ラップレコード | 1分20秒521 (ニコ・ロズベルグ、2015年) |
エンジニアリング | 標高がエンジン出力とマシンの冷却に影響するため、対策がカギとなる。標高2,000mでは海抜0mに比べて酸素量が約75%にまで減少し、ICE(内燃機関)の出力に影響を与える。また、マシン内部のシステムやブレーキを通り抜ける空気の量も減るため、冷却面の影響も避けられない |
ドライビング | ダウンフォースが少なくなる特性上、オーバーランなどミスをしやすい。また、ターン1~3、4~5、13~15のように相関性のあるコーナーが多いのでスムーズなドライビングが求められる。難所はターン1へのブレーキング。直線ではモンツァと同程度のスピードが出るが、減速に必要なダウンフォースが少ないため。また、ラップ終盤のスタジアムセクションは低速コーナーが多くタイムを左右するが、ターン16をうまく抜けて1.2㎞のメインストレートでスピードを乗せるためのポイントでもある |
マシンセットアップ | ダウンフォースを高く設定しなければならない。高地で空気が薄いため、シンガポールのマリーナ・ベイ市街地サーキットと同程度のダウンフォースレベルになるが、マシンの出力はモンツァと比較して約10%しか減少しない |
グリップレベル | 中程度。アスファルトは2年前に舗装されたためにグリップが比較的高いが、ダウンフォース量が少ないのでマシンは暴れやすくなる |
タイヤ | ウルトラソフト(紫)、スーパーソフト(赤)、ソフト(黄) ※この組み合わせは今季9回目 |
ターン1までの距離 | 800m ※カレンダー中最長 |
最長ストレート | 1.314km ※ターン1へ向かう直線 |
トップスピード | 時速345㎞(ターン1への進入時) |
スロットル全開率 | 47% |
ブレーキ負荷 | 高い。ブレーキングポイントは12カ所あり、そのうち3カ所でハードブレーキング。しかし、空気の薄さと冷却の問題により、ブレーキへの負荷は高くなる |
燃費 | 1周あたり1.45㎏を消費。カレンダー中でも低め |
ERSの影響 | 高い。長いストレートと高地という組み合わせが、ERSにとって年間で最も過酷な環境となる |
ギアチェンジ | 44回/1ラップ、3,124回/レース |
周回数 | 71ラップ |
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スタート時間 | 現地時間13時(日本時間月曜午前4時) |
グリッド | ポールポジションはレーシングライン上にあるが、少ないダウンフォースがドライバーにとって一番の問題であり、ターン1への距離も長いので、アドバンテージは少ない。 |
DRS | ゾーンは2つ。ターン1と4へ向かうストレート。 |
ピットストップ | 昨年のレースでは表彰台に登壇したドライバーはすべて1ストップ。今年ピレリは1段階ソフト側のコンパウンドを持ち込むが、今季型タイヤの耐久性は増しているので、30周前後でタイヤを交換する1ストップ戦略が見込まれる。 |
ピットレーン | 650m。1回のストップでのタイムロスは約18秒 |
セーフティカー | 2015年にカレンダーへ復帰してからの出動率は100%。過去2年間はセーフティカーもしくはバーチャルセーフティカーがレース結果に影響を及ぼしている |
注目ポイント | ターン3での攻防。1つ目のDRSゾーンであるメインストレートでマシン同士が接近し、2つ目のDRSゾーンへ続くターン3でさらに近づけるかがオーバーテイクのカギとなる |
見どころ | メキシコのファンは情熱的で、雰囲気は衝撃的ですらある。ドライバーズパレードの際には大歓声とともにさまざまな色に染まるスタンドが見られる。特に、4万人のファンがひしめくスタジアムセクションはひと際盛り上がり、フェルナンド・アロンソは「まるでフットボールスタジアムにいるみたいだ」と評した |