ROUND12
ベルギー
スパ・フランコルシャン
2017.08.24(木)
Hondaは、FIA※フォーミュラ・ワン世界選手権(以下、F1)の第12戦ベルギーGP(開催地:スパ・フランコルシャン、8月25日~27日)に向けて準備を進めています。今大会のサーキット情報や、今週末のレースの見どころなどをレポートします。
※ FIAとは、Fédération Internationale de l'Automobile(国際自動車連盟)の略称
長谷川 祐介 (株)本田技術研究所 主席研究員 F1プロジェクト総責任者
「つかの間のサマーブレイクを経て、後半戦の開始であるベルギーに向かいます。
長い伝統を持つスパ・フランコルシャンは、高速コーナーと長いストレート、激しいアップダウンを持つ、マシンに厳しいコースです。また、世界で最も難しいコーナーの一つと言われ、マシンからはまるで壁のように見える高速コーナー、“オー・ルージュ”を代表として、ドライバーにとっても高い技術と度胸を試されるサーキットでもあります。
McLaren-Hondaは前戦のハンガリーGPで今季初のダブルポイント獲得を果たし、その後のインシーズンテストでも後半戦に向けて多くの貴重なデータを収集できるなど、前半戦をいい形で締めることができました。
スパ・フランコルシャンは我々にとってタフなサーキットであるとは思っていますが、ハンガリーで得た勢いを維持し、後半戦をいい形でスタートできればと思っています」
フェルナンド・アロンソ
#FA14 MCL32-03
「サマーブレイクが明けるのを待ち遠しく思っていました!休みでリフレッシュし、エネルギーを充電してから後半初戦に臨むのは、すばらしい気分です。家族や友人と充実した時間を過ごしつつ、トレーニングもしっかりと行ってきました。マシンに戻るのが本当に楽しみです。
スパはカレンダーの中でもすばらしいサーキットの一つで、ドライバーの多くがお気に入りのコースに挙げています。数々の名場面が生まれ、その名声に値するサーキットだと思います。なかでも、“オー・ルージュ”は他には例がない特殊なコーナーです。マシンからの視点は低いのに傾斜は急で、上っていくときには空しか見えない、信じられないような光景が広がるのです。
シーズンが進むにつれて我々は競争力を増しているので、後半戦の開幕でもポイント圏内でフィニッシュできればと思っています。1ラップの4分の3でスロットルを開けるコースであり、マシンとドライバー双方に厳しいサーキットなので、エンジニア、メカニックらチーム全員に厳しいチャレンジが強いられます。ここで結果を出すためにはハードワークが必要なことはみんな分かっていますが、全長が長くオーバーテイクポイントも多いコースですから、週末の間全力でプッシュしてチャンスをつかみます」
ストフェル・バンドーン
#SV2 MCL32-04
「F1ドライバーとしてベルギーGPを迎える日を、長い間待ちわびていました。どのドライバーにとっても、ホームGPは特別な週末ですから、とてもワクワクしています。母国の大観衆を背に戦うのは最高ですし、家族や友人も応援に来てくれます。
多忙な前半戦を終えて休暇を楽しみにしていましたが、数日でマシンに戻りたくなってしまいました!それでも、つかの間の休息でこの数カ月を振り返り、よかったこと、悪かったことを分析できたのはよかったです。ハードなトレーニングもしたので、スパにはより強くなって戻れると思います。
シーズン序盤は僕にとってもチームにとっても苦しい時期でした。完走を阻むような問題もいくつか起きましたし、それによって僕自身もマシンを理解するのに時間がかかってしまったように思います。しかし、ここ最近では、ファクトリーでチームやエンジニアとやってきたハードワークの成果が表れています。取り組んだことすべてがいいステップですし、それが明るい兆候として出ています。改善の余地はまだまだありますし、ここからさらによくなるはずです。だから、今後数戦がいい結果になることを期待しています」
エリック・ブーリエ McLaren-Honda Racing Director
「サマーブレイクが明けてレースの世界に戻るのは、いつも気持ちがいいものです。エネルギーを充電するとともに、大切な人との時間を過ごしたことで、再びレースへの意欲が満たされています。スパ・フランコルシャンでのレースは、チームにとっていつも特別ですが、今年はそれがより強くなるでしょう。
まず、ベルギー出身のストフェルが、F1ドライバーとして初めてのホームレースを迎えます。また、スパは、McLarenの創立者であるブルース・マクラーレンが1968年にグランプリ初勝利を飾った地でもありますが、それに加えて翌週の8月30日がブルースの生誕80年という記念日にあたり、特別な節目となります。日曜日、私たちは彼の偉業を称えるとともに、誇りに思うことでしょう。
前半戦は浮き沈みが激しく、苦労したことは確かです。ただ、シーズン終了までの目標ははっきりしており、それに向けて水面下で努力を重ねてきた成果を披露する場は、まだ9戦も残されています。シーズンは長いので、全力でプッシュしてポイントを得るチャンスは多くあります。続けてきた進化が実になり、熱狂的なベルギーのファンの皆さんに、楽しいレースウイークをお見せしたいと思います」
名称 | スパ・フランコルシャン |
初開催 | 1950年 |
優勝者 | 2016 ニコ・ロズベルグ |
2015 ルイス・ハミルトン | |
2014 ルイス・ハミルトン |
スパ・フランコルシャンは、世界で最も多く憧れを集めるサーキットの一つです。高速セクションの連続するレイアウトは、平均時速233㎞とシーズン中最速の部類に入り、マシンとドライバーに厳しい試練を与えます。
なかでも、象徴的なのが、F1で最もスリリングなコーナーと言える「オー・ルージュ」です。左にやや曲がりながら進入し、右に切り返して丘を駆け上がる形のロングコーナー。約58mの高さを時速310㎞で上るため、ドライバーには進入時2G、右への旋回中は4.6Gの力がかかります。
F1世界選手権が始まった1950年に開催されたサーキットのうち、今年もカレンダーにあるのはわずか4つですが、スパはその一つで、シルバーストーン、モナコ、モンツァと並ぶ伝統のサーキットです。コース全長は7.004㎞でカレンダー中最長。2番目に長いバクーとも約1㎞の差があります。
今大会で、スパ・フランコルシャンでのベルギーGP開催は50回目となります。当初は一周14.863㎞という超ロングコースでした。このレイアウトで行われたのは1970年が最後で、ペドロ・ロドリゲスが平均時速241.3㎞で優勝。これは現在でもF1史上6番目の速さです。
その後、1983年に現行のレイアウトに近い、大幅にコースが短縮されたスパでグランプリが開催されるようになりました。ここから31レースが行われていますが、このうち28レースでチャンピオン経験者(勝利後にタイトルを獲得した選手も含む)が優勝。サーキットの偉大さを物語る結果です。
McLarenにとっては、1968年にブルース・マクラーレンによってグランプリ初優勝を果たした特別な場所でもあります。以降、McLarenはベルギーで通算14勝を挙げ、直近では2012年にジェンソン・バトンが勝利しています。2000年には、ミカ・ハッキネンがレースリーダーのミハエル・シューマッハに攻めかけると、ケメルストレートで周回遅れのマシンごとオーバーテイク。時速300㎞以上で3台が並ぶという、F1の歴史に残る見事なオーバーテイクを披露して勝利をつかみ取りました。
また、1998年にはウエットレースとなり、2番手を走行していたデビッド・クルサードが1周目のラ・スルス出口でスピン。ガードレールにヒットすると、後続もそこに突っ込み、13台がクラッシュして赤旗中断となりました。
全長 | 7.004㎞※カレンダー中最長。 |
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2016ポールポジション | ニコ・ロズベルグ 1分46秒744 |
2016ファステストラップ | ルイス・ハミルトン 1分51秒583(40周目) |
ラップレコード | 1分47秒263 (セバスチャン・ベッテル、2009年) |
エンジニアリング | 高速コーナーとロングストレートで構成されるスパでは、高速走行時の安定性とトップスピードがカギとなる。グリップが増した2017年型のマシンでは、より少ないダウンフォースとすることが可能になると見られており、トップスピードはさらに速くなると思われる。 |
ドライビング | セクター1と3ではスロットルを踏み続けなければならない。オー・ルージュ、ブランシモンは長年にわたって全開で抜けるコーナーとして知られていたが、今年はターン10のプーオンも出口の縁石を使えば全開が可能になると思われる。また、ターン5、6、7の3連コーナーも難所。それぞれのクリッピングポイントをとらえないとスロットルを戻さざるを得ず、特にターン7ではその後に続くストレートでのスピードに影響が出る。 |
マシンセットアップ | ダウンフォースを低く設定。セクター1と3では多くの区間をフルスロットルで抜けるため、ストレートエンドでのスピードが重要になる。今年は車幅が広くなっているため、チームはトップスピード維持を目的に、さらにダウンフォースを削ることになるだろう。 |
グリップレベル | 中程度。アスファルトはスムーズで滑りやすく、高速ではマシンの生み出すダウンフォースが増加する。コース上には3つのハードブレーキングゾーンがあり、スピードが緩んでダウンフォースが抜ける際のブレーキ安定性が重要である。 |
タイヤ | ウルトラソフト(紫)、スーパーソフト(赤)、ソフト(黄) ※この組み合わせは今季6回目 ターン1までの距離:265m(カレンダー中最長はバルセロナの730m) |
最長ストレート | 2.015km ※ラ・スルスからレ・コームへ向かう区間。カレンダー中2番目の長さ |
トップスピード | 時速360㎞(ターン5への進入時) ※カレンダー中3番目 |
スロットル全開率 | 70% ※カレンダー中最大はモンツァの75% |
ブレーキ負荷 | 低い。ブレーキングポイントは9カ所あるが、ハードブレーキングは3カ所のみ |
燃費 | 1周あたり2.27㎏を消費。カレンダー中でも高め |
ERSの影響 | 低い。一周が長くブレーキングでエネルギー回生をする機会が多い |
ギアチェンジ | 48回/1ラップ、2112回/レース |
周回数 | 44ラップ |
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スタート時間 | 現地時間14時(日本時間21時) |
グリッド | ターン1への距離が短く、グリッドによるアドバンテージはあまりない。ポールポジションはレーシングライン上にないが、右側でターン1のイン側にあたる。 |
DRS | ゾーンは2つ。ターン1へ向かうストレートと、ターン5へ向かうストレート。 |
ピットストップ | 昨年はケビン・マグヌッセンがオー・ルージュでクラッシュしたことで、9周目に赤旗中断となり、戦略に大きな影響を与えた。優勝したニコ・ロズベルグは2ストップを採用し、1スティントでソフト、2スティントでミディアムタイヤを使用した。今年はピレリがより柔らかいコンパウンドを持ち込んでいるため、チームが金曜のフリー走行でタイヤを評価するまで戦略は不透明。 |
ピットレーン | 390m。1回のストップでのタイムロスは約20秒。ただし、ピットレーンはヘアピンであるラ・スルスをショートカットする形になっているため、タイムロスは少ない。 |
セーフティカー | 出動率は80%と高い。スパでのアクシデントはほとんどが高速で起こるため、パーツが飛び散りやすく、その清掃に時間を要するほか、天候によってセーフティカー導入となる可能性もある。1997年にはスタート前に豪雨となり、F1で初めてのセーフティカースタートとなった。 |
注目ポイント | ターン10。2つのクリッピングポイントを持つ、180°の左コーナーで、昨年の通過スピードは時速290㎞。グリップを増した今季型マシンではさらなる高速化が期待される。ドライバーはここを素早く抜けるために強い意志でスロットルを開け続けなければならない。 |
見どころ | 予測のできない天候変化。「スパ・ウェザー」と呼ばれるほど、天候がレースに影響を与えることも多い。広大な敷地にまたがるコースのため、一部はドライでほかはウエットというコンディションになることもある。ただし、スパ・フランコルシャンではどんな天候であってもオーバーテイクが可能で、それが数々の記憶に残るレースを生み出す舞台たる所以である。 |