ROUND10
イギリス
シルバーストーン・サーキット
2017.07.13(木)
Hondaは、FIA※フォーミュラ・ワン世界選手権(以下、F1)の第10戦イギリスGP(開催地:シルバーストーン、7月14日~16日)に向けて準備を進めています。今大会のサーキット情報や、今週末のレースの見どころなどをレポートします。
※ FIAとは、Fédération Internationale de l'Automobile(国際自動車連盟)の略称
長谷川 祐介 (株)本田技術研究所 主席研究員 F1プロジェクト総責任者
「今季10戦目となるイギリスGPは、2017年シーズンの折り返しであり、シーズンのハイライトともなるレースです。F1の歴史の中でも最も長い伝統を持つグランプリの一つですし、チームとドライバーに対して最も厳しいサーキットでもあります。
レースが行われるシルバーストーン・サーキットは、複数のストレートを高速コーナーで結んだ難しいレイアウトで知られています。タイヤや燃費にも厳しい上に、スロットルの全開時間が長いパワーサーキットですし、英国特有の予測不可能な天候も加わることになるので、マシンにとってもパワーユニットにとってもタフなレースになることを予想しています。
オーストリアGPの結果は望んだようなものではなかったものの、パフォーマンスについては前向きな手ごたえを得ていますし、今週末のイギリスGPにもつなげられるものだと思っています。
さらなる前進のために開発を続けていますし、今まで以上に高いモチベーションで臨んでいます。
最後に、今回のグランプリはMcLaren-Hondaにとってのホームグランプリですし、その意味でも忙しいものになると思っています。
我々が英国で拠点を置くミルトン・キーンズからも近く、多くの熱狂的なファンや同僚、家族が応援に訪れます。彼らにいいレースを見せられるよう、ホームでのポイント獲得に向けて全力を尽くします」
フェルナンド・アロンソ
#FA14 MCL32-03
「シルバーストーンは毎年楽しみにしているサーキットです。誰もが真の“ドライバーズサーキット”だと知っていますし、素晴らしい歴史と温かいファンの声援もありますから、どのドライバーにとっても特別なグランプリです。McLarenのドライバーにとってはホームグランプリとなり、英国のファンの皆さんから情熱的な応援を受けるので、その想いは一層強くなります。
このサーキットでのチャレンジが本当に楽しいですし、難しいコースでタフなレースになるので、ここで好結果が出せれば名誉に感じます。先週のオーストリアでは不運に見舞われました。今回はホームレースなので、前回よりも運が向いてくればと思います。ここで巻き返せることを願っていますし、いつものように激しく戦い、レースで何ができるか見極めていきます。
高速ながらグリップの高いシルバーストーンの特性で、今季型のマシンがどのようなパフォーマンスを見せるのか、ワクワクしています。特に高速セクションが楽しみです。コーナーで我々のマシンの強みを最大限発揮し、チームにできる限りいいリザルトを持ち帰れるようにできればと思います。スタートでのトラブルに巻き込まれないことと、レースに向けてセッションごとに勢いを増していけるよう、信頼性の問題が出ないことが重要です」
ストフェル・バンドーン
#SV2 MCL32-04
「英国にあるチームの一員としてイギリスGPに出場するのを、心から楽しみにしています。McLaren-Hondaは世界中で素晴らしい応援をしてもらえていますが、シルバーストーンの雰囲気は格別になります。これまでチームとともに何度も英国でレースをしてきたので、私にとってここはまるで第二の地元のようです。
ドライブするのが本当に楽しいコースです。特にラップ序盤はとても高速で難しいのですが、終盤のインフィールドセクションではまた違った技術やマシンの反応が求められます。我々のマシンがそこでどんな挙動を見せるのかを確認するのが楽しみですし、ライバルたちよりも優位に立てていればと思います。
GP2時代にシルバーストーンの表彰台には2度立っていますが、最高の気分でした。パッケージの強みを最大限引き出せるよう、日曜日に向けて順調に進み、再びポジティブな週末が過ごせることを願っています。マシンの感触はよく、我々は明らかに進歩しているので、地元ファンの前でそれを見せられるように時間を活用していきます」
エリック・ブーリエ McLaren-Honda Racing Director
「McLaren-Hondaの全員にとって、イギリスGPはカレンダーの中でも特に重要なレースの一つであることは間違いありません。それは、我々が単に英国のチームだからというだけでなく、ほかの場所では見られないほどの熱狂的な大観衆のサポートがあるからです。
シルバーストーンは数あるコースの中でも突出したサーキットです。コプスやベケッツ、ストウといった難コーナーによって、チャンピオンたちには試練を与え、ファンには壮大な素晴らしいレースを提供してきました。高速でチャレンジングなコースでは、マシンとドライバーともに厳しく試されます。
MCL32がその試練をクリアするのは容易ではありませんが、シルバーストーンで毎年大きな声援を送ってくれる英国のファンに会えるのを楽しみにしていますし、そのサポートが間違いなく我々を引き上げてくれるはずです。これまで同様、懸命に取り組み、ホームのファン、同僚、パートナー、ゲストの皆さんにいいレースをお見せしたいと思います」
名称 | シルバーストーン・サーキット |
初開催 | 1950年 |
優勝者 | 2016 ルイス・ハミルトン |
2015 ルイス・ハミルトン | |
2014 ルイス・ハミルトン |
シルバーストーンとF1は、その歩みを同じくしてきました。飛行場跡に設立されたシルバーストーン・サーキットは、F1世界選手権の初年度となった1950年に開幕戦を開催。現在に至るまで、F1カレンダーの中でも中心的なグランプリとしての役割を担ってきました。
コースレイアウトは何度か変更されたものの、開設からの67年間、一貫して高速コースという特性は変わっておらず、F1マシンが全開で攻める姿を堪能できます。昨年のポールポジションラップは、平均時速237.521㎞。レギュレーション変更のあった今年はさらなる速度向上が見込まれます。
イギリスGPを冠して開催されたサーキットは、シルバーストーンのほかに、エイントリーとブランズハッチの3つ。このほか、英国では1993年にヨーロッパGPとしてドニントンパークで開催されたことがあります。
また、シルバーストーンではF1以外にも多くのレースが行われ、四輪のWEC(世界耐久選手権)や二輪のMotoGPのほか、多数の英国内選手権も開催。英国にとってはモータースポーツの聖地とも呼べるサーキットです。
ファンの雰囲気は最高で、F1への情熱と深い知識でグランプリを盛り上げます。また、グランドスタンドから漂うバーベキューの香りも、独特の雰囲気を醸し出すのに一役買っています。
数々の逸話を残してきたシルバーストーンでのグランプリですが、1973年のレースは衝撃的でした。1周目を終えてホームストレートに戻ってきたジョディ・シェクターがピットウォールにクラッシュし、そこへ後続の7台が次々に衝突。レースは赤旗中断となりました。幸い、深刻なケガを負った選手はおらず、再開されたレースではMcLarenのピーター・レブソンが優勝しました。
また、1977年にMcLarenのジェームズ・ハントがポール・トゥ・ウインを飾ったレースでは、ジル・ヴィルヌーヴが同じくMcLarenのサードドライバーとしてF1にデビュー。結果は11位だったものの、4位に入ったチームメートのヨッヘン・マスと予選ではわずか0.2秒差となるなど、印象的な走りを披露し、後の躍進につなげました。
これらの勝利を含め、McLarenはこれまでイギリスGPで14勝。直近では2008年に勝利を挙げています。
ちなみに、イギリスGPで優勝を果たした同国出身ドライバーは11名。スターリング・モス、ピーター・コリンズ、ジム・クラーク、ジャッキー・スチュワート、ジェームズ・ハント、ジョン・ワトソン、ナイジェル・マンセル、デーモン・ヒル、ジョニー・ハーバート、デビッド・クルサード、ルイス・ハミルトンと、そうそうたる顔ぶれが並んでいます。
全長 | 5.891㎞ ※カレンダー中4番目の長さ。 |
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2016ポールポジション | ポールポジション:ルイス・ハミルトン 1分29秒287 |
2016ファステストラップ | ファステストラップ:ニコ・ロズベルグ 1分35秒548(44周目) |
ラップレコード | 1分33秒401 (マーク・ウェバー、2013年) |
エンジニアリング | 高速サーキットであるため、ダウンフォースが増した2017年型マシンがその力を発揮しやすいコースと言える。これまでスロットルを戻したり、ブレーキを踏んだりしていたコーナーでも全開で抜けられる箇所が増える見込みで、エンジニアはコーナリングのグリップとストレートスピードの両立に苦心する。 |
ドライビング | ターン10から13にかけての“マゴッツ”、“ベケッツ”と呼ばれる高速S字区間でのスピードに、今季型マシンの特性が最もよく現れる。シミュレーションではどちらもブレーキを使うことなく抜けられるため、ドライバーは全開でのコーナリングにチャレンジするが、速度を保つためにはセンチ単位でのライン取りが必要となる。 また、今季型マシンは加速の反応がよいため、ターン18の“クラブ”コーナーの出口のように、3速ギアで抜けて加速しながら脱出するコーナーでは、アクセルを踏みすぎるとマシンがリアを失ってスピンを喫することになる。 |
マシンセットアップ | 中程度のダウンフォース。ストレートが多いためダウンフォースをつけすぎるとタイムが伸びないは、“クラブ”、“アリーナ(ターン4)”、“ルフィールド(ターン7)”といった低速コーナーでのパフォーマンスも考慮してセッティングしなければならない。 |
グリップレベル | 高い。路面のアスファルトは使い慣らされ、摩耗しており、そこに今季型マシンのダウンフォースが組み合わされて高いグリップレベルとなる。 |
タイヤ | スーパーソフト(赤)、ソフト(黄)、ミディアム(白) ※この組み合わせは今季3回目 |
ターン1までの距離 | 420m(カレンダー中最長はバルセロナの730m) |
最長ストレート | 780m ※ターン15へ向かう直線 |
トップスピード | 時速320㎞(ターン15への進入時) |
スロットル全開率 | 66% ※カレンダー中最大はモンツァの75% |
ブレーキ負荷 | 中程度。大きなブレーキングポイントは3カ所。ターン3の“ヴィレッジ”、ターン6の“ブルックランズ”、ターン16の“ヴェイル”。ドライバーにとっては、ストレートでブレーキが冷えた状態から“ヴェイル”のような低速コーナーへ突入するのが難しい。ここではブレーキング前に45秒間もブレーキを使わない時間がある。 |
燃費 | 1周あたり2.4㎏を消費。カレンダー中でも燃費に厳しいコース。 |
ERSの影響 | 中程度。高速コースながら一周の距離が長いが、3つのブレーキングポイントでエネルギー回生ができる。 |
ギアチェンジ | 48回/1ラップ、2496回/レース |
周回数 | 66ラップ |
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スタート時間 | 現地時間13時(日本時間21時) |
グリッド | ポールポジションはコース左側で、走行ライン上にあるため路面もクリア。ポールシッターにとっては、ターン1へ向かうレーシングライン上なので、ドライコンディションであれば全開で抜けていける。 |
DRS | ゾーンは2つ。ターン6の“ブルックランズ”へ向かうストレートと、ターン15の“ストウ”へ向かうストレート。 |
ピットストップ | 今季はダウンフォースが増してコーナリング時の設置力が向上しているため、タイヤへの負荷も大きい。昨年のレースではピレリがミディアムタイヤでの上限を28周と推奨し、完走17台中14台が2ストップ作戦を採用。今季はより硬いコンパウンドが導入されており、20周目前後のピットインによる1ストップ作戦も可能かもしれない。 |
ピットレーン | 489m。1回のストップでのタイムロスは約23秒と比較的長め。 |
セーフティカー | 出動率は60%。ランオフエリアが広くコース上にマシンが止まることはあまりないが、高速での接触によるデブリが発生しやすい。 |
注目ポイント | ターン9の“コプス”。入り口はかなりタイトなのに出口は開けており、コーナーの頂点でかなりのスピードが出る。今季のハイダウンフォースマシンでは、8速に到達し時速約300㎞以上で抜けていくと見られている。 |
見どころ | 技術的な観点では、シルバーストーンの風が重要なポイントになる。もともと飛行場だったため丘の頂上に位置しているが、今季型のマシンは横風の影響に弱い。 |