ROUND09
オーストリア
レッドブル・リンク
2017.07.06(木)
Hondaは、FIA※フォーミュラ・ワン世界選手権(以下、F1)の第9戦オーストリアGP(開催地:スピルバーグ、7月7日~9日)に向けて準備を進めています。今大会のサーキット情報や、今週末のレースの見どころなどをレポートします。
※ FIAとは、Fédération Internationale de l'Automobile(国際自動車連盟)の略称
長谷川 祐介 (株)本田技術研究所 主席研究員 F1プロジェクト総責任者
「レッドブル・リンクは、オーストリアの緑豊かな山々の合間に位置する美しいサーキットです。コーナーがわずか9つしかなく、シーズンの中で1周のラップタイムが最も短いトラックですが、いくつかあるハイスピードコーナーでのミスは命取りになりますし、ドライバーには高い技術が求められます。
また、パワーユニット(PU)について言えば、このサーキットがある700mと言う標高が問題になります。高地で空気が薄いために、ターボなどへの影響を考慮したセッティングが必要ですし、エネルギーの回生効率についても平地とは条件が変わるので、その意味でPUへの負担が大きいサーキットと言えます。したがって、効率的なエネルギーマネジメント戦略がキーになってきます。
先日のアゼルバイジャンでは、McLaren-Hondaにとっての今シーズン初ポイントを獲得し、チームに明るい雰囲気が広がりました。また、金曜日にフェルナンドのマシンでテストを行い、パワー向上を確認できたスペック3のPUを、オーストリアで2台のマシンに搭載します。バクーで得られたデータを元にさらにマッピングを熟成し、競争力の強化を図ることができていると思うので、今週末のパフォーマンスを見るのを楽しみにしています。
直前まで開発の手を止めることなく、ベストな形で週末に臨みますので、皆さんにいいレースを見せられればと思っています」
フェルナンド・アロンソ
#FA14 MCL32-03
「バクーではレースを心から楽しむことができました。我々のパフォーマンスは、マシンパッケージの強さを示しただけでなく、メカニック、エンジニア、ストラテジストらチーム全員が戦う姿勢を持っており、どんな状況でもチャンスをものにする準備ができていることも証明できました。2ポイントは、あれだけ過酷な週末を乗り切った報いとしては少ないかもしれませんが、レース後にも言ったように、これをさらなる前進への力としていきます。
今週末のオーストリアGPは、ここ数戦のようなパワー型のサーキットではなく、我々のマシン特性がスピルバーグのコーナーに合っているので、見通しは明るいです。全開でプッシュできると思います。
また、マシンも進歩しており、Hondaはアゼルバイジャンのフリー走行でテストしたスペック3のPUを導入してくれます。マシンの持つ力すべてを引き出し、ポジティブな週末になることを楽しみにしています」
ストフェル・バンドーン
#SV2 MCL32-04
「すばらしいサーキットで開催されるオーストリアGPが楽しみです。ここには多くのオーバーテイクポイントがあり、接近戦による予想外の結果が待ち受けています。また、ロングストレート中心のカナダやバクーと違い、ここは我々のパッケージに合っていると思います。
前戦でポイントを獲得できたことは、チームのモチベーションや士気にとってとてもよかったので、オーストリアではさらに進歩できるよう願っています。毎回のレースでアップグレードを持ち込んでおり、今週末はサーキットとの相性もよさそうなので、トラブルなく過ごすことで勢いを増していけると思います。
もちろん、今が望んでいた位置ではありませんが、オーストリアでの好結果がチームにさらなる力を与えてくれるはずです」
エリック・ブーリエ McLaren-Honda Racing Director
「遠征となるフライアウェイレースを終え、ヨーロッパに戻ってパッケージの開発に取り組めるのはいいことです。アゼルバイジャンのレースは非常に盛り上がり、さまざまな話題も呼びましたが、オーストリアでも再びスリリングなレースをお届けできればと思います。このサーキットでは接近戦となるいいレースになるでしょうし、モントリオールやバクー、そして次戦のシルバーストーンのようなロングストレート主体のコースよりも、我々のマシンに合っていると思います。
実際に、昨年のレースではジェンソン(バトン)が雨の予選で3番グリッドを獲得し、レースでも6位に入賞しました。我々はシーズンを通じて開発の手を止めていませんし、アゼルバイジャンの結果は心から祝えるものではありませんが、方向性は間違っておらず、チャンスがあればいつでも活かせることを示したと思います。
オーストリアGPに照準を合わせて開発してきたものがありますし、Hondaのスペック3のPUも投入されます。中団グループの中で戦い、さらにもう一歩前進できればと思います」
名称 | レッドブル・リンク |
初開催 | 1970年 |
優勝者 | 2016 ルイス・ハミルトン |
2015 ニコ・ロズベルグ | |
2014 ニコ・ロズベルグ |
オーストリアにおけるF1の歴史は1964年にツェルトベク飛行場の特設コースで行われた非選手権のグランプリで始まりました。その後、常設サーキットであるエステルライヒリンクがオープンし、1970年から87年まで選手権を開催。同地は90年代半ばにヘルマン・ティルケ氏のデザインによってコースが改修され、A1リンクの名を経て現在のレッドブル・リンクという名称に変更されました。
美しい山岳地帯の中にあるサーキットには、最大65mの標高差があります。全長こそ短いものの、昨年のポールポジションラップは平均時速229㎞と高速で、チャレンジングなコーナーを持つコースとして知られています。ラップタイムはカレンダーの中で最短で、昨年PPのルイス・ハミルトンが記録した予選タイムはわずか1分7秒922。その2か月前にダニエル・リカルドがモナコで記録したポールラップより6秒も短いものでした。
オーストリアのF1ファンは情熱的で、知識も豊富。同国出身のワールドチャンピオンであるニキ・ラウダとヨッヘン・リントは今でも人気が高く、サーキットにはそれぞれの名が冠されたコーナーが設置されています。
McLarenはオーストリアGPで通算6勝を挙げており、直近では2001年にデビッド・クルサードが優勝しています。なかでも最も印象的なのは、1984年のニキ・ラウダによる母国GP制覇でしょう。平均時速223㎞を記録し、2位に入ったブラバムのネルソン・ピケに23秒差をつけて圧勝しました。
2015年には1周目のターン2でフェルナンド・アロンソとキミ・ライコネンが大クラッシュ。ライコネンのマシンがアロンソのマシンに乗り上げましたが、幸いにも両ドライバーともケガはありませんでした。
過去にF1で表彰台に上ったオーストリア人ドライバーは4人(ヨッヘン・リント、ニキ・ラウダ、ゲルハルト・ベルガー、アレックス・ブルツ)。その中でチャンピオンになったのはリント(1970年)とラウダ(1975年、77年、84年)のみですが、ベルガーにはF1での優勝経験があります。また、4人のうちラウダ、ベルガー、ブルツはMcLarenに所属していました。
全長 | 4.326㎞ ※カレンダー中4番目の長さ。 |
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2016ポールポジション | ルイス・ハミルトン 1分7秒922 |
2016ファステストラップ | ルイス・ハミルトン 1分8秒411(67周目) |
ラップレコード | 1分8秒337 (ミハエル・シューマッハ、2003年 ※A1リンク時代) |
エンジニアリング | 海抜700m近い場所にあり、今季初めての高地でのレースとなるため、パワーユニットへの負担が大きい。酸素が薄いため、ターボが重要となり、MGU-Hからエネルギーを得ることも難しくなる。路面は2年前に再舗装されてスムーズになっており、足回りが硬めのセットアップも導入しやすくなっている。 |
ドライビング | ターン9の“リント・カーブ”は下り坂にある高速の右コーナーで、出口がブラインドになっており、脱出時の縁石使用は必須。しかし、縁石を使いすぎるとマシンにダメージを負うリスクもあるので、正確さがカギになる。昨年の大会ではトラックリミットを示す“ソーセージカーブ”という太い縁石によってサスペンションを壊すドライバーが続出した。 |
マシンセットアップ | 硬めのサスペンションとミドルダウンフォースにより、ドライバーは「まるでゴーカートのよう」に感じるという。 |
グリップレベル | 良い。スムーズな路面と最も柔らかいコンパウンドのタイヤ設定によりメカニカルグリップが増し、チームは空力性能を最大限に引き出すことができる。 |
タイヤ | ウルトラソフト(紫)、スーパーソフト(赤)、ソフト(黄) ※この組み合わせは今季5回目 |
ターン1までの距離 | 185m(カレンダー中最長はバルセロナの730m) |
最長ストレート | 868m ※ターン1へ向かう直線 |
トップスピード | 時速310㎞(ターン1への進入時) |
スロットル全開率 | 66% ※カレンダー中最大はモンツァの75% |
ブレーキ負荷 | 中程度。ブレーキングポイントは3カ所 |
燃費 | 1周あたり1.7㎏を消費。カレンダー中の平均程度 |
ERSの影響 | 大きい。燃料に余裕があるため |
ギアチェンジ | 54回/1ラップ、3834回/レース |
周回数 | 71ラップ |
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スタート時間 | 現地時間14時(日本時間21時) |
グリッド | ポールポジションはコース左側で、グリップの高いレーシングライン上。グリップのアドバンテージは大きいが、ターン1まで上り坂で非常に短い。 |
DRS | ゾーンは2つ。ターン1へ向かうピット前のストレートと、ターン4へ向かうストレート。 |
ピットストップ | 昨年勝者のルイス・ハミルトンは2ストップを選択。しかし、2位と3位のマックス・フェルスタッペンとキミ・ライコネンは1ストップで、フェルスタッペンはソフトタイヤで56周を走行するなど、戦略の幅は広い。 |
ピットレーン | 242m。1回のストップでのタイムロスは約20秒。 |
セーフティカー | コース外のランオフエリアが広いため、セーフティカー出動の可能性は低い。しかし、2015年のアロンソとライコネンのクラッシュでは、6周のセーフティカーランがあった。 |
注目ポイント | ターン7の“ラウダ・コーナー”。下り坂のアプローチがドライバーの勇気を試すだけでなく、もし脱出時にスピードを乗せすぎればソーセージカーブを乗り越えて、マシンにダメージを受ける可能性もある。 |
見どころ | 低速コーナーと長いストレートが組み合わされたレイアウトで、多くのバトルが見られる。大きなオーバーテイクポイントは、ターン1、2、4の3カ所。これに加えて、起伏の多さによってドライビングの難度も増す。 |