ROUND07
カナダ
ジル・ヴィルヌーヴ・サーキット
2017.06.08(木)
Hondaは、FIA※フォーミュラ・ワン世界選手権(以下、F1)の第7戦カナダGP(開催地:モントリオール、6月9日~11日)に向けて準備を進めています。今大会のサーキット情報や、今週末のレースの見どころなどをレポートします。
※ FIAとは、Fédération Internationale de l'Automobile(国際自動車連盟)の略称
長谷川 祐介 (株)本田技術研究所 主席研究員 F1プロジェクト総責任者
「カナダGPは、シーズンの中でも最も活気があり人気のあるレースの一つで、ファンも毎年温かく迎えてくれます。いつも素晴らしい雰囲気の中でレースをすることができますし、Hondaカナダの同僚たちからのサポートもあり、私たちにとっては毎年スペシャルなレースの一つです。
モナコではジェンソンがスポット参戦としてカムバックしましたが、今回はインディで偉大な挑戦を終えたフェルナンドが、我々のもとに戻ってきます。ルーキーとしての勝利を狙った挑戦は残念な形で終わってしまいましたが、それでも彼の才能が特別であることをアメリカでも証明してくれました。歴史あるレースで優勝争いを演じ、オーバルを主戦場として戦うドライバーに負けない走りを見せてくれたと思います。
ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットは、その美しい風景とは裏腹に、パワーサーキットとして知られています。そのような特徴に加えて、多くのストップ&ゴーコーナー、荒い路面、長いストレートなど、我々にとっては今回も難しいレースになると思っています。
ただ、今週末がどんなにタフなろうとも、前を向いてチャレンジを続けていくのみです」
フェルナンド・アロンソ
#FA14 MCL32-03
「ここ最近は、北米で過ごす時間が長かったので、カナダでのレースも楽しみにしています。インディ500は、ほかと比べようのないくらい素晴らしい体験でした。F1とは全く異なるドライビングスタイルとサーキットレイアウト、そしてマシンを経験できたことにも感動しました。ただ、私は再び“普段の仕事”であるF1へ戻る準備も万全です。
例年、カナダGPを楽しんでいます。マシン、ドライバーともに負担が大きい独特なサーキットで、本物のレーサーであるかが試されるコースです。インディ参戦中も日々モナコGPのニュースをチェックして、ストフェルとジェンソンの好結果を把握していました。新たなアップグレードの感触が良く、信頼性も向上しているということだと思うので、カナダでさらに一歩前進できることを願っています。
ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットのレイアウトは、いわゆるパワーサーキットで、マシンパワーと直線スピードに成績が左右されます。モナコのような低速でコーナーの多いコースほどは、我々のマシンとの相性が良くないと思いますが、MCL32へまた乗れることにワクワクしています。チームメンバーと再会し、今度は左回りだけでないコースに戻れるのですからね!」
ストフェル・バンドーン
#SV2 MCL32-04
「モナコでは、チーム全員にいろいろなことが起きました。マシンの感触は本当に良く、限界までプッシュできるパッケージだと感じましたし、チームへポイントを持ち帰れるかもしれないと思っていただけに、リタイアは残念でした。チームが毎戦ハードワークをして作り上げてくれたアップグレードによって、シャシーは明らかに進歩しています。ですから、コース特性の異なるカナダでそれがどうなるか楽しみです。
ここでレースをした経験がなく、私にとっては未知のサーキットですが、シミュレーターでかなりの量を走り込みました。厳しいコースで、多くの人が“ドライバーズ・サーキット”という理由が分かったような気がします。やらなければいけないことが多く、忙しいサーキットなので高い集中力が要求されます。“ウォール・オブ・チャンピオンズ”はそれを象徴するようなコーナーです。レースに向けた準備やセットアップなどは、モナコと対極ですが、こういった特性のサーキットを実際にドライブできることに興奮しています。
レースはブレーキ、エンジン、そしてドライバーに厳しいものになると思いますし、セーフティカーの出動もあり得るので、戦略とセットアップについてもよく考える必要があります。フェルナンドはここでの経験が豊富なドライバーなので、チームに帰ってきてくれるのは、私にとってもいいことだと思っています。簡単なグランプリではありませんが、モナコと違ってオーバーテイクのチャンスが多いので、混乱が起きればチャンスが増えると思います」
エリック・ブーリエ McLaren-Honda Racing Director
「モナコとインディアナポリスでのレース両方に力を注ぎ、McLaren史上最も忙しかったと言える週末を終えましたが、カナダGPへ気持ちを切り替えなければなりません。モナコでは人気者のジェンソンが復帰し、特に予選で力強いパフォーマンスを発揮しました。彼の腕は少しも衰えていないことを証明してくれたと思います。ストフェルも週末を通じて素晴らしい走りで、モナコのような手ごわいサーキットでも十分に戦える力があることを示してくれました。ポイント獲得を期待したものの、残念ながら叶いませんでした。しかし、現在進めている開発作業がいい傾向を示しているので、いい形でカナダへ向かうことができる思っています。
そしてもちろん、マクラーレン・ホンダ・アンドレッティでインディ500に挑戦していたフェルナンドが、チームに戻ってくることも、とても楽しみです。この数週間で彼が成し遂げたことは驚くべきもので、チームの誰もがフェルナンドと再会し、その印象的なパフォーマンスを称えるのを待ちわびています。
毎年、McLaren-Hondaのチーム全員が、モントリオールでの日々を楽しんでおり、カレンダーのなかでもお気に入りのレースであることは間違いありません。グランプリ中はダウンタウンエリアに滞在しますが、街の雰囲気は素晴らしく、いつも温かい歓迎を受けます。カナダの人々は、我々と同じくレースが大好きですし、レースも展開が読めずエキサイティングなことで評判です。
McLarenはここで数々の勝利を手にしてきましたが、なかでも有名なのは6年前のジェンソンの勝利でしょう。4時間以上に及ぶレースで、まさに予想不能なカナダのレースを象徴するものだったと思います。また、悪名高き“ウォール・オブ・チャンピオンズ”は、多くのマシンと、ドライバーのプライドを打ち砕いてきました。こうした過酷なサーキットが、ドライバー、エンジニア、メカニックに対して、ほかでは見られない挑戦を強いるのです。
ジル・ヴィルヌーヴ・サーキットは高速コースで、タイトなシケイン、限られたランオフエリアとハードブレーキングが存在します。この特性は、我々のパッケージが持つ強みと合わないかもしれませんが、さらなるパフォーマンスを引き出すために開発したパーツを持ち込み、毎戦限界までプッシュして戦うのみです。まだまだ道のりは長いですし、このサーキットは自分たちのパッケージが苦手とする環境ではありますが、持つ武器を最大限に活用し、コース上で訪れるすべてのチャンスをものにしていきます」
名称 | ジル・ヴィルヌーヴ・サーキット |
初開催 | 1978年 |
優勝者 | 2016 ルイス・ハミルトン |
2015 ルイス・ハミルトン | |
2014 ダニエル・リカルド |
カナダGPは、今年で50周年という節目を迎えます。第1回は1967年8月、トロント近郊にあるモスポートで開催されました。それ以降、ケベック州のモントランブランでの開催を経て、1978年に現在のモントリオールが会場として定着しました。モントリオール初開催のグランプリでは、地元のスタードライバー、ジル・ヴィルヌーヴが優勝。そして、1982年に同選手が悲劇の事故死を遂げたのをきっかけに、同地は「ジル・ヴィルヌーヴ・サーキット」と改名されました。
セント・ローレンス川にある人工島・ノートルダム島にあり、1976年のモントリオール五輪でボート競技の会場となった同地は、美しい風景と温かい雰囲気で人気を博しています。パドック内には五輪コースが残っており、グランドスタンドもコースからかなり近い位置に設置されています。今年はモントリオール市の375周年を祝い、街全体が祭りの中で開催される特別な一戦となります。
コースにはロングストレートが多く、シーズン最初の高速コースでの戦いとなるため、マシン・ドライバーへの負荷は大きくなります。時速300㎞を超える箇所が、1周に4つあり、直線スピードとブレーキングが重視されるサーキットです。
McLarenは1968年にカナダGPで初勝利。デニス(デニー)・ハルムとブルース・マクラーレンが1-2フィニッシュを果たし、これがチームにとってF1での3勝目でした。これ以降、チームはカナダで通算13勝を挙げており、直近では2012年に優勝しています。
1988年には、アイルトン・セナとアラン・プロストが1-2で制覇。3位に約51秒差、4位以下をすべて周回遅れにする圧勝劇となり、16戦15勝を挙げたシーズンを象徴するようなレースとなりました。
また、ジェンソン・バトンが優勝した2011年は、雨による中断を挟み、レース時間が4時間以上に及びました。そんな長丁場の決着は最終ラップ。バトンがセバスチャン・ベッテルをパスして勝負を決めました。
全長 | 4.361㎞※カレンダー中5番目の短さ。 |
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2016ポールポジション | ルイス・ハミルトン 1分12秒812 |
2016ファステストラップ | ニコ・ロズベルグ 1分15秒599(60周目) |
ラップレコード | 1分13秒622(ルーベンス・バリチェロ、2004年) |
エンジニアリング | 低速コーナーとロングストレートが組み合わさる、ストップ&ゴーレイアウト。ブレーキへの負担は大きく、時速300㎞以上からのブレーキングが4カ所あり、競争力を発揮するためにはコーナー立ち上がりのトラクションも欠かせない。ダウンフォースレベルは中から低程度で、ベルギーGPの行われるスパ・フランコルシャンに似ている。 |
ドライビング | 公道を利用したコースであるため、2週前のモナコと同様にランオフエリアが狭い部分がある。ドライバーはシケインで縁石を使って攻めるが、タイヤを乗せすぎるとタイムロスの原因となる。難所は最終シケインとなるターン13&14。最初のコーナーで時速150km、脱出時には時速200㎞と高速で駆け抜ける。コーナーでのショートカットを防ぐためにサイズの大きな縁石が設置されており、速度オーバーでここにヒットすると、縁石が“ウォール・オブ・チャンピオンズ”と呼ばれる壁への発射台と化す。この壁の名は、これまで数々の名ドライバーがクラッシュしたのにちなんでおり、ジルの息子ジャック・ヴィルヌーヴ、デーモン・ヒル、ミハエル・シューマッハ、ジェンソン・バトン、セバスチャン・ベッテルと、錚々たる顔ぶれが餌食となっている。 |
マシンセットアップ | ダウンフォースは中~低程度。高いトップスピードが求められるが、ブレーキングでのパフォーマンスとコーナー出口でのトラクションも欠かせない。 |
グリップレベル | 低い。あまり使われていないコースのため、特にレースウイーク前半は弱い。さらに、コースはかなりバンピーで、ドライバーのミスを誘発する。 |
タイヤ | ウルトラソフト(紫)、スーパーソフト(赤)、ソフト(黄) ※この組み合わせは今季4回目 |
ターン1までの距離 | 260m(カレンダー中2番目に短い) |
最長ストレート | 1160m ※ターン12へ向かう直線。カレンダー中最長は中国の1170m |
トップスピード | 1160m ※ターン12へ向かう直線。カレンダー中最長は中国の1170m |
スロットル全開率 | 67% ※カレンダー中最大はモンツァの75% |
ブレーキ負荷 | 高い。ブレーキングポイントは7カ所だが、すべて高速からの強いブレーキングであり、シーズンを通して最もブレーキへの負担が大きいサーキットの一つ。 |
燃費 | 1周あたり1.8㎏を消費。カレンダー中でも高め |
ERSの影響 | 大きい |
ギアチェンジ | 56回/1ラップ、3920回/レース |
周回数 | 70ラップ |
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スタート時間 | 現地時間14時(日本時間翌月曜日3時) |
グリッド | ポールポジションはコース左側だが、レーシングラインは右側にある。しかし、最初のブレーキングゾーンとなるターン2は左コーナーなので、ポールシッターがイン側に位置することになる。 |
DRS | ゾーンは2つ。ターン1へ向かうピット前のストレートと、ターン12へ向かうバックストレート。 |
ピットストップ | 昨年勝利したルイス・ハミルトンは1ストップ作戦を採用。24周目のタイヤ交換だった。一方、2位のセバスチャン・ベッテルは2ストップ。今季はタイヤが硬いコンパウンドになっているため、1ストップが予想されるが、金曜のフリー走行で実際に走行してみるまでは分からない。 |
ピットレーン | 400m。1回のストップでのタイムロスは約22秒。 |
セーフティカー | 出動率は80%と高い。コース前半がバリアに囲まれているため、わずかなミスでもクラッシュにつながる。過去18戦中13戦でセーフティカーもしくはバーチャルセーフティカーが稼働。1973年のモスポートでのレースで初めてF1におけるセーフティカー出動が記録されており、カナダGPは発祥の地と言える。 |
注目ポイント | ターン2と3。コース中最もスピードの低いコーナーだが、多くのアクションが起こる。ただでさえ接触しやすい場所である上に、今季のマシンはこれまでより車幅が広くなっており、オープニングラップではマシン同士も近いのでアクシデントの可能性がある。また、ターン2は1つ目のDRSゾーンの直後でもあるので、ブレーキングによるオーバーテイクも頻発する。 |
見どころ | 毎回予想できない展開で見るものを惹きつける。コース上にはオーバーテイク可能な箇所が3つあるほか、ミスをしやすい箇所も多いため、想定外のドラマが生まれる可能性を秘めている。 |