OWNER'S  REPORT

杣夫の末裔 さん

(20代/男性/愛媛県)
2010年2月21日 投稿
PCからの投稿

車種名:インサイト
タイプ/グレード:(ZE1/5MT)
購入年度:2009
[総合評価]
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インサイトインサイト
テーマ1 走行性能
モーターアシストでエンジンが低回転時でもトルクがあるという点を差し引いても、ディーラーに引き取りに行って走らせ始めた途端、この車が恐ろしく軽く空力が良いという事はすぐ実感できた。車両の安全性が担保されているという前提の下では、軽いというのは全面的に正義である。NSX譲りの総アルミボディによる軽さは燃費だけでなく走行性能にも大きく寄与している。ブレーキ、サスペンション、タイヤにかかる負担が小さくなるだけでなく、エンジンパワーが無くても、スイスイと軽快かつ機敏な挙動で走行することが出来る。軽いだけでなく重心も低いため、そこら辺の峠に走りに行って走っても、転がり抵抗の小さいタイヤなのに鳴かす事は普通の速度では無理である。
 
また、何故かペダルがS2000よりもヒールトゥしやすいレイアウトになっている。極端なハイギアセッティングとも相まって、ややきつい上り下り複合勾配が続くような道ではバッテリーを節約しつつ、気持ち良く走るために踵を多用している。サスペンションセッティングも軽快なスポーツ走行向けとなっており、回頭性も普通のコンパクトカーの領域では無い。微塵もそのような宣伝文句は無かったと思うが、この車はハイブリッドライトウェイトスポーツと言って良い仕様である。ただ、流石に路面がウェットだと少し厳しい面も顔を出す。リアトレッドがフロントより100mm狭いのもあるだろうが、Rのきついコーナーはオーバーステアが顔を出す。軽量で慣性が小さく、ローパワーなので修整は容易だが、この辺りはスポーティーの領域を脱していない。

アルミボディゆえに劣化はしにくいだろうし、私がミスをするか、事故でももらわない限り永く通勤を楽しくしてくれる事だろう。ハイブリッドカーの電池は使用しないと劣化するようだし、大切に動かなくなるまで乗り続けようと思う。
テーマ2 外観
発売当時、リアホイールにスパッツが付いているのが特徴で、フェイスはシビックの移植か程度に思っていたのだが、この車も実際の車両を見て驚いた。風洞実験室でクレイモデルを削って試行錯誤したと言われる外装は、複雑怪奇と言って良いほど緻密な面構成になっている。
特に成形自由度の大きい樹脂材が使用されているフロントフェンダー周りの空力デザインはえげつなささえ感じる。ボンネットもドアもリアサイドパネルもアルミ材で非常に軽いのだが、ドア‐リアサイドの面妖な曲面構成を見るに、これはどうやって成形したのだろうかと首を捻る事になった。フロントガラスだけでなく、サイドウィンドウも微妙な曲面構成になっており、リアゲートの巨大なガラスウィンドウにも空力を考慮したであろう意匠が施されている。

空力目標値を設定してその為に設計されたとされるエクステリアだが、結果的に直近で見るとその構成はインダストリアルデザインとしても優美であり、価値のあるものだと思う。
デザインスタディは明らかにCR-Xの系譜の延長線上にあるものだが、この車の魅力的な空力デザインが業界に与えた影響は他メーカーのハイブリッドカーを見るにつけ、少なくなかったのではと推測する。

最後に塗装であるが、これもNSXやS2000と同じ塗料を用いて施されているのだろうか、深みがあり美しい。奇しくも先に手に入れたSと同じくシルバーストーンメタリックであるが、環境に応じてその表情を魅力的に変化させる素晴らしい色だと思う。
テーマ3 燃費/経済性
燃費については、5MTモデルなので使い手の技量によって数値は変動するだろうが、私の場合は1回の給油で1000km(タンク40L)走れる為、月の給油が1回で済むようになり、手間が削減できて助かっている。
バー表示の瞬間燃費計が視認性の良いメーター中央下部に付いている為、必然的に燃費走行を意識するようになるのだが、暖気が済んだ後のリーンバーンによる定速走行の燃費の伸びは脅威的なものがある。第一世代のHVながら、おそらく当分の間郊外型の巡航走行用途では燃費世界一であり続ける事だろう。夏場ならモード燃費の90%を実現する事ができると思う。

燃費の源泉の一つである軽自動車用の3気筒エンジンにモーターを組み込みモディファイしたであろうユニットはピークパワーこそ並であるが、モーターと連動して振動を相殺するシステムなどが搭載されており、リーンバーン(希薄燃焼)ユニットとして洗練されたフィーリングと効率化を達成している。
これを採算度外視の総アルミボディに積み、更に到底量産向きとは思えないエアロデザインのボディが覆っている。リーンバーンゆえ、窒素酸化物対策で触媒にもコストがかかっており、ステアリング骨格やオイルパンはマグネシウム合金製である。ユーザーにとっては普通車としては維持費が安いが(ぶつけると板金無理だが)、メーカー側の視点に立てば、その中身は投げ売りの経済性完全無視と思われる。技術プロモーションとしての面を差し引いても、よくこんなコストの高そうなものを、あんな低価格で売ってたものだと今更ながらに呆れてしまう。既に第一弾の時点でただのエコカーじゃ終わっていない。
ご購入される前にこのクルマにどんなイメージをお持ちでしたか?デザイン、性能等で期待されていたことを含め、お聞かせください。
insight(ZE1)の存在は1999年の発売された時から知っていた。しかし当時は、変わったデザインでやたら燃費の良い車があるという程度の認識だった。よく覚えているのは、車の総合雑誌でこの車がスポーツカーカテゴリに分類されていた事があって、『2ドア、2シーターのクーペデザインとはいえ、このエンジンスペックでスポーツはないだろう。いい加減な分類してるなぁ』という感想を持った事である。
学生の私はスポーツカーに強い憧れを持っていたが、概ねエンジンスペックばかり見ており、車両をトータルバランスで図るという視点が決定的に欠如していた。まさか10年経って、10代の頃の物を見定める力の未熟さを痛感する事になるとは思いもしなかった。

この車について認識を改める契機となったのは、S2000を購入した事であった。Sを購入してからその走りの素晴らしさにのめり込み、同時に生産背景について様々な資料を読み漁って更に知ろうとしたのだが、それは同時にNSXやinsight(ZE1)の知識を深める事にも繋がり、ZE1がとても魅力的な造りである事が分かった。
そうしている内にSの生産が終了し、更にショックな事にTDラインが解散するという発表が飛び込んできた。色々悩んだ結果、S2000は休日専用のとっておきとし、しばらくオートマのコンパクトカーで通勤していたのだが、退屈で仕方が無かった。我慢して次の楽しそうな車が発売されるのを待つかと思っていた時、近県でinsight(ZE1)しかも5MTの出物があった。ドライブついでに試しに見物してこようと出掛けた私は、何故かその2時間半後、契約書に判子をついていた。