NSX-R FACT BOOK
NSX-R 2002.5.23


ボンネットフードにエアダクトを設けた
マイナスリフト発生の空力的メカニズム。
リアでは、ウイングタイプのスポイラーによって効率よくマイナスリフトを得ることができます。しかしフロントでは、あまり大きな空力パーツを装着すると、最低地上高やアプローチアングルをキープできなくなります。また、空気抵抗の増加による加速性能の低下など、市販車でのマイナスリフト実現のためには、さまざまな困難な課題を克服しなければなりません。
そこで、ボディ下面をフラットにして下面の流速を落とさずにスムーズに流し、マイナスリフトを得る手法を選択。最低地上高、アプローチアングルをともに確保しながら、前面投影面積の増加を最小限に抑える方法です。ただし、それまでボディ下面に抜いていたラジエーターの通過風をいかに排風するかという課題が新たに発生。
その課題を、ミッドシップのレイアウトの特性を活かし、ボンネット上にエアダクトを設置して、そこから排風することでクリアしました。さらに、フロントアンダーカバーの左右に縦フィンを装着し、ボディ下面の空気がホイールハウス内へ流入することを抑制。また、エアダクトを通過する空気がホイールハウス内に流れ込むことを防ぐために、エアダクトの左右に隔壁を設置。加えてフロントバンパーの開口率を低減し、空気の流入自体を可能な限り抑制しました。これにより、ようやくボディ下面とボンネット内の流れをスムーズにし、目標としたマイナスリフトを発生させました。
その結果、大きな空力的な付加物を装着せず、ベースとなるNSXのスタイリングを活かすことで、空気抵抗を低く抑制。最高速の伸びを犠牲にせずにマイナスリフトを実現しました。
また、クルマが回頭し角度を持った瞬間の揚力も、アンダーボディの縦フィンがチンスポイラー的な役割を果たし、効果的に低減することを実車風洞の計測で確認。この特性は、過渡特性の向上にも大きく寄与しています。


●実車風洞実験


●ボディ下面の説明図




軽量化と美しさのために採用したシンプルな
カーボン製空力パーツで、高度な耐久性にチャレンジ


ボンネットフードにエアダクトを設けるアプローチは、フードに穴を開け、エッジを樹脂パーツなどで整えることでも成立します。
しかし、ボンネットのラインの美しさを保ち、速さを純粋に求めるNSX-Rとしてふさわしいシンプルさと、徹底した軽量化のためにカーボンを採用。リアスポイラーも、空気抵抗を低減しながらマイナスリフトを得る繊細な形状を美しくシンプルに表現するために、カーボンの一体成形としました。

両パーツとも、航空機の製作などで定評のあるオートクレーブ製法を採用。カーボン繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを積層し、加圧した窯で熱を加えて成形する手法です。
また、ボンネットフードはカーボンの層に加え、アラミドファイバーというちぎれにくい繊維の層も積層。万一の衝突時に飛散しないよう配慮しています。積層の際、繊維の方向を45°ずつずらし、中心層の上下でずらした角度が対称になるように積層するなど、全方向で強度を均一化しています。

ひとつの部品を積層し終えるのに、時間は約9〜10時間。積層後バギングフィルムで包んで真空化し、窯に入れ2〜3気圧に加圧しながら加熱。時間は2〜3時間。窯に入れてから、温度を上げるのに約1時間、冷ますのに約5時間。高温で液化する樹脂からエアをていねいに抜き、強固なCFRP(カーボン・ファイバー・レインフォースド・プラスチック)構造体を形成させます。



ボンネットフードは、外板部分と内側のフレーム部分は別々に成形します。実績のある接着剤を用い、接着剤の厚みを約0.5mm以下に管理する独特の手法で接着。母材を上回る優れた強度を実現しています。リアスポイラーは、中空構造の一体成形。パーツメーカーと共同開発を行い独自の製法により実現しました。
また、通常のカーボン空力パーツではあまり重視されない耐久性をも徹底追求。すべての商品性において、金属ボディ外板同等の耐久性を実現しました。下地処理を中心に塗装にもこだわり、両パーツとも5コート5ベイクの塗装を実施。特にボンネットフードでは、うっすらとカーボン繊維が凸凹に浮き上がって見えるよう、塗装にこだわりました。
●カーボン部分の塗膜の構造図



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