NSX-R FACT BOOK
NSX-R 2002.5.23


新NSX-Rで圧倒的な速さを求めるにあたり、高速領域の旋回限界と、ブレーキングやコーナーへのターンインなど、クルマに挙動を与えたときの扱いやすさを空力によって追求する、「空力操安」という新たな技術的アプローチを導入。高速での旋回限界を高めることに加え、操縦のしやすさ、すなわちコントロールクオリティを高め、
クルマの性能を引き出しやすくしました。これにより、中・低速で、アンダーステアを抑えるシャシーセッティングを可能にし相反する高速と低速の操縦性を高次元で両立。あらゆるサーキットでの圧倒的な速さを獲得しました。


マイナスリフトという空力のファクターで、
高速域の操縦性を高める「空力操安」の原理。
高速時、通常のクルマには、車体を持ち上げようとする揚力(リフトフォース)が働きます。それを空力的なアプローチにより低減。車体を路面に押し付けるよう、負の値まで揚力を低減させたのがマイナスリフトです。マイナスリフトによって高速でクルマが路面に押し付けられたとき、クルマには3つのメリットが生じます。
まずひとつは、クルマが路面に押し付けられることでタイヤにかかる垂直荷重が増えてグリップ限界が上がるため、コーナリングスピードを高められることです。次に、タイヤの垂直荷重が増えると、コーナリングパワーも上昇します。コーナリングパワーとは、タイヤの応答のシャープさを示すもので、これが上がると、ステアリングレスポンスがよくなるだけでなく、外乱に対するクルマの収斂性が向上します。
●垂直荷重とコーナリングフォースの概念グラフ
タイヤにかかる垂直荷重が増えると、コーナリングフォースのレベルが上昇する。つまり、ワンランク上のタイヤを装着したような効果が期待できる。

3つめは、クルマがロールしたりピッチングしようとする挙動がマイナスリフトにより抑えられることです。これにより、限界での荷重の抜けが起こりにくくなり、操作に対する挙動安定性が高まります。また、限界付近の挙動がリニアになり、コントロールしやすくなります。
つまり、マイナスリフトによってクルマを路面に押し付けることは、コーナリングスピードなどクルマの絶対的な性能、すなわちダイナミックパフォーマンスを高めるだけでなく、応答レスポンスと限界挙動の安定性などコントロールクオリティを大きく高めることに寄与します。
これが、マイナスリフトという空力のファクターで操縦性を向上させる「空力操安」の考え方です。


●マイナスリフトによる挙動の抑制イメージ
コーナリング時のロールや、ブレーキング・加速時のピッチングのモーメントは、マイナスリフトによって減少する。荷重抜けが起こりにくく、挙動が安定。マイナスリフトによって限界が高まりながら、ステアリング操作、ブレーキやアクセルペダルの操作が、より安定した挙動の中で行えるようになる。



サーキットでの徹底的な走り込みを行い、
マイナスリフトの大きさと前後バランスをセッティング。
限界性能に加え、コントロールクオリティを向上させるマイナスリフト。そのセッティングは、ハンドリングのリニアリティをテーマに行いました。
高速走行時の操舵力や、ステア特性の変化を抑え、低速時と同じようにリニアな感覚で操舵できるようにすることをめざしたのです。
クルマを真上から見たときの横方向の動き、つまりヨーイングにもとづくハンドリング特性は、前後のタイヤが発生するコーナリングパワーによって左右されます。したがってコーナリングパワーを増大させるマイナスリフトは、その発生のさせ方によってはハンドリングを大きく変化させてしまいます。テーマとした、リニアリティに富んだハンドリングを実現するには、空力が問題にならない低速での前後バランスを維持することが有効です。
低速では、クルマの前後重量配分がタイヤにかかる垂直荷重を決め、コーナリングパワーを決定づけています。
したがって高速時も、タイヤの垂直荷重バランスを、マイナスリフトによって静止時の前後重量配分と同じにすれば、低速時同様のハンドリング特性を得ることができます。
こうした理論にもとづき、サーキット、高速テストコース、風洞実験の3極でのインタラクティブな開発を実施。前後重量配分と同等のマイナスリフトの前後バランスを基本とし、細かなチューニングを行うことで、低速から高速までほぼ変化のないハンドリングリニアリティを獲得しました。
高速ブレーキングおよび加速時のピッチング、ターンインやコーナリング中のロールが抑えられ、きわめて無駄のない挙動となります。限界からの滑り出しもリニアで、高速時の操舵力の低下も抑制。優れたコントローラビリティを実現しました。
こうした高速域のハンドリング特性の格段の向上により、中・低速のタイトコーナーを鋭く曲がる弱アンダーステアのサスペンションセッティングが可能となったのです


●マイナスリフトの前後バランスイメージ図 (定常直進走行時)

前後重量配分と同じバランスでマイナスリフトを発生させることで、低速から高速までステア特性の変動を抑えられる。
これにより、高速時のステアリング操作に対するクルマの挙動のリニアリティが向上する。つまり、より確かな操作を行え、クルマの速さを引き出しやすくなる。
 
北海道・鷹栖プルービンググラウンドでのテスト風景



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