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NSXの生産が2005年に鈴鹿製作所に移ったことを受け、NSXリフレッシュプランもフィロソフィーごと鈴鹿サービスセンターに移り、すでに多くのオーナーのNSXを手掛けている。ただ、専任の技術者1名がリフレッシュ整備にあたっていたことと、パーツの手配に時間を要する状況であったため、これまでは入庫まで約1年6ヵ月の待ちであった。さらに、入庫してからもパーツの状況によっては、出庫まで6ヵ月から1年を要することもあった。
そこで今回、リフレッシュ専任の技術者を2名加え、パーツについてもHondaとして長期供給する体制を整備。パーツの納入時間についても意志を入れ、可能な限り短縮する。めざすは、現在約1年6ヵ月の入庫待ちを、6ヵ月まで縮める取り組み。誕生以来17年を経過したNSXのリフレッシュへのニーズの高まりに応えていく体制強化である。
これまでひとりでNSXリフレッシュプランを担ってきた市川智之に加え、このたび新たに加わったのは、2人の若い技術者である。
ひとりは山本照久。専門学校で整備を学び、趣味ではプロダクションカーレースを楽しむクルマ好き。Hondaに入社してからは、サービスマニュアルの制作を手掛けたり、完成車検査に携わった。完成車検査のために、ドライバートレーニングを受け、テストコースを走行する資格を持っている。
Hondaの究極のスーパースポーツであるNSXの整備を行うメンバーを社内公募していると聞いてすぐさま手を挙げた熱血漢である。
もうひとりは寺田裕。ホンダ学園を卒業後、鈴鹿サービスセンターで一般整備を手掛けたのち、NSXの担当となった幸運な技術者だ。
2人が異口同音に口にするのはNSXの整備が特別であるということ。NSXに触ると、NSXが手作りの工芸品であることをつくづくと感じるという。
たとえばボディ関連パーツの取付け。成型の難しいアルミを、製造工程で丹念に磨き込みながら組み立てられたNSXは、一台一台調整のポイントが違うという。したがって、画一的な手法はなく、一台一台そのクルマなりの調整を加えなければきれいに組み上げられないのだ。
また、ボルトを締め付ける際、彼らはいっさいエアツールを使わない。その理由は、アルミ部材と結合させるボルトの山を傷めないためだ。通常の規格もののボルト＆ナットは抵抗なくすんなり回るが、NSXのものは防蝕塗装を施していることもあり、回すときに少し抵抗があるという。その抵抗が、問題ないものか、あるいはボルトの山を齧っているのかを手の感触で確かめるためエアツールは使えないのだ。そのため、一日の整備を終えると腕がパンパンになるという。
サスペンションの組み付けも特別の注意が必要で、サスペンションのビームに至るまできちんと位置決めの穴にしっかりと合わせて組み上げないと、適切なアライメントが出ない。アライメントを測定しているときも、少し調整しただけで数値が大きく変わるので、繊細かつ正確な調整が必要となる。そうした点をきちんとやらないと、ハンドリングに影響が出るという。また、TYPE Rのリアのアッパーアームなど、単体で脱着しようとするとブッシュが硬いため上に反り上がってしまい非常に苦労するという。結局サスペンションを全部外して組み上げてからボディに取付けた方が早い。
さらに、大きなトルクが掛かるリアハブなど、一般のクルマの1.5倍くらいのトルクで締め付けられている。GTレースなどで人が体重をのせて締め付ける大きなレンチがあるが、あれを用いるくらいの世界だという。
そうした作業の難しさに加え、リフレッシュは修理ではないため、クルマの状態を見ながらどこをどのように整備したらいいかを見極めなければならない。入庫してからテストドライバーに走行してもらったインプレッションをもとに、機能的にどの部分をどのように整備するかプランを立てるが、触りながらさらなる改善点を見つけていく。もちろん、大きなメンテナンスは販売店を通じてオーナーとの相談のもとに作業を行うか決定する。そうしたやりとりもあるため、リフレッシュには多大な時間がかかるのだ。
しかし、NSXリフレッシュプランに携わる技術者たちは、そんな変化に富んだ毎日を心から楽しんでいる。そして、一台のNSXに長い期間携わるため、どうしても自分が担当したNSXに愛着がわく。整備が終わると、オーナーのよろこびにやりがいを感じながらも、実は彼らの心はほんの少しの寂しさにつつまれているのだ。
NSXは、こうした技術者の手によってリフレッシュされ、オーナーのもとへと帰っていく。
