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vol.1 Honda MotoGP 2013シーズン分析 トップへ

「ファクトリーオプション」のマシンで戦うライダーたち

Honda勢からは、ファクトリーオプションの「RC213V」でマルク・マルケス、ダニ・ペドロサ、アルバロ・バウティスタ、ステファン・ブラドルが、オープンカテゴリーの「RCV1000R」でニッキー・ヘイデン、青山博一、スコット・レディング、カレル・アブラハムが、それぞれエントリーをしている。
バレンティーノ・ロッシの「今年が勝負の年だ」と言わんばかりに鬼気迫る走りが印象的なヤマハ勢、アンドレア・ドヴィツィオーゾがチームの牽引役としてマシンの熟成を行い、確実な進化が見られるドゥカティ勢と、戦うべき相手は多い。
果たして、Honda陣営の仕上がりについて、中本さんはどう見ているだろうか?


宮城:マルケスはセパンサーキットの9コーナーから11コーナーのあたりでの『開けっぷり』はすごい。トレーニング中に転倒してけがをしてしまいましたけど、彼については2年目にして、既になにも心配することはないんじゃないかという気さえしますね。
ダニは、ひとつでも多く勝ち星を重ねてほしいですね。
中本:勝ち星もそうだけど、なんとしてでもチャンピオンを獲得してほしい。ダニは、あの身体の小ささから不利になってしまうシチュエーションを十分に認識しているので、今まで以上に、まじめに体力トレーニングに取り組んでますね。20分走って5分インターバル、というのをワンセットとして、3本行う。さらに、これをやったあとに、通常のテストを行う。去年までだと、ロングランをやって「おしまい」というパターンが多かったのだけど。
宮城:なるほど。確かに。セパンテスト2回目の最終日も、残り20分くらいでもう一度コースインしていってましたよね。アタックし続けているのがありありと分かります。彼に残された課題は……僕は、「まじめすぎる」ところにあるんじゃないかと思うんですよね。
中本:うん。
宮城:4コーナーとか最終コーナーで、ミスをしたときにちょっとリカバーまで時間がかかる。特にロッシなんかは、こういう表現がいいのかはわかりませんけど、ちょっとすっとぼけた感じで走っていっちゃう。たぶん、あとから「あそこでミスしただろう」と聞いても「お前が見てたから、ちょっと派手に走ってやったんだよ」とでも言いそうです(笑)。
でも、ダニはまじめなんでしょうね。失敗したことをしっかりそのまま受け入れて、「ここを解決しなくては」って考え込んでしまうように見えるんですよ。
中本:彼は確かに、そういうところがあるよね。
宮城:速さは抜群だし、昨シーズンの戦いぶりを見ても、悪条件下での強さも磨かれつつある。「ベストを尽くす」ことに加えて、「想定外の事態からもすばやくリカバリーする」術を身につければ、さらに一歩強くなれるんじゃないかというのが、僕の考えなんですけどね。
マルケスについてはいかがですか?ちょうど1年前のテストでは、とにかく最高峰クラスのマシンに慣れさせようと、制御系もあまり使わずに、「素」のRC213Vを体験させていましたよね。1年経って、彼はチャンピオンです。声のかけ方も違ってくるんじゃないですか?
中本:ぜんぜん違わないよ。相変わらずテストの合間には、我々とバカな話ばっかりしている(笑)。2年目のジンクスのようなものにはまらなければいいなと……。それだけですね。心配なのは。
宮城:ブラドルは、ちょっとフィジカルの面が気になったといえば気になりました。マルケスが涼しい顔をしているのに、彼はものすごく汗をかいているし、手がテーピングでぐるぐる巻きなのが印象的で。ちょっと力が入りすぎているんじゃないか……というようにも見えるんですが。
中本:ああ、テーピングはすごいよね。アンドレア(・ドヴィツィオーゾ)なんかもそうだけどね。汗のかきかたについては、そんなに心配していないかな。乗れていないときほど汗をかきやすい……という傾向はあるにせよ、2位に入ったラグナ・セカのときもすごかったからね。走り方とはあまり関係ないかな、と見てはいます。
彼の場合、バンクさせている時間が長くて、タイヤのエッジへの負担が大きい走り方なのが課題といえば課題。今シーズンから投入された新スペックのタイヤは耐熱性が向上している一方で、エッジのグリップはこれまでのものほど強力ではないですからね。LCRは、今年から独自でビデオ撮影をして、他のライダーとの比較みたいなこともやりだしたみたいだから、走り方をうまくアジャストしていけるといいですね。
宮城:日本でも大人気のバウティスタはどうでしょう?彼のアグレッシブさは見ていて楽しいし、速さもあるのだけど、ペースが上がってくるほど、ラフになるのが気がかりです。
中本:よくなってきているね。ただ、どうしても「250乗り」が抜けきらないのがちょっと気になるところ。
宮城:今回も、2コーナーの切り返しで頭を振って荷重移動していましたからね。
リズムの取り方もあるのかもしれないけど、そのあとのアプローチを考えると、ここはもうちょっと丁寧に走った方がいいんじゃないかと……。
中本:セパンの2コーナーは、ある意味「捨てる」コーナーだと思うんだよね。3コーナーから4コーナーでタイムを稼ぐために、1コーナーと2コーナーは、丁寧に走らなくちゃならない。
宮城:タイトコーナーって、息を止めてがんばっても、実際にはあまりタイムに影響しないじゃないですか。ここをきっちり丁寧に回って組み立てを考えた方が、実際にはタイムが出る。
中本:教えてやってよ(笑)。彼にも、もっとがんばってもらいたいからね。
宮城:いや、これはあくまでもデータに基づかない、僕の個人的な「分析」ですのでね(笑)。


さて、2014年のMotoGP開幕まであとわずか。レギュレーションの大きな変更にともない、陣営間でのちょっとした不協和音のようなものも聞こえてこないではない。
ライダー同士のやりとりを始め、少々の「ゴシップ」めいたものはレースに彩りを添えるものとして我々を楽しませてくれるが、マシンやテクニックといったものとは異なる「政治的」な話題が長引くというのは、避けていきたいところであるし、その点についてはいずれの陣営も同じように考えていることだろう。早期にだれもが納得できる形での解決を望みたいところだ。
とはいえ、世界最高峰の二輪ロードレース、MotoGPが今シーズンもエキサイティングなものになるであろうことは、疑いの余地がない。
よりパフォーマンスが均一に近い状態となることから、バトルもこれまで以上に白熱したものになるだろうし、あらゆるライダーにチャンスが生まれて、観る者を楽しませてくれるだろう。私も、これまで以上にレースの行方を注意深く見守りながら、皆さんに興味深い解説をお届けしていきたいと考えている。
ぜひ、今シーズンのMotoGPにご注目いただきたい。

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