800ccマシンのラストイヤーとなった2011年。翌年からはレギュレーション変更により、エンジン排気量が1000ccに引き上げられることが決まっており、4年にわたって成熟を重ねてきたHonda RC212Vは、最後の進化を世界中に見せつけるべく、大きな期待を抱き、シーズンは幕を開けるかに思われた。
しかし、思いもよらぬ出来事が日本、さらには世界を揺るがす。開幕戦のカタールGPが行われる約1週間前の3月11日、東日本大震災が日本を襲い、その4日後には、4月に予定されていた日本GPが、10月に延期されることに決まったのだ。
そんなシーズンの序盤、大きな輝きを放ったのは、オーストラリア人ライダーのケーシー・ストーナー。2006年にHonda LCRでMotoGPクラスデビューを飾ると、07年にドゥカティに移籍してチャンピオンを獲得。そしてこの年、満を持してHondaに復帰すると、開幕から早くも快進撃をみせていた。
開幕戦をポール・トゥ・ウインで飾ったストーナーは、5月の第3戦から日本GP前までの12戦連続で表彰台を獲得。チームメートで、前年のRepsol Honda Teamを牽引したダニ・ペドロサが第4戦で骨折し、以降3戦の欠場を余儀なくされている間も、ストーナーは圧倒的な速さをみせつけて、その第4戦から3連勝を達成するなど、日本GP前までにランキング2位のホルヘ・ロレンソ(ヤマハ)に44点もの大差をつけ、シーズンの趨勢は決まりかけていた。
その陰で、Hondaのエースの座をストーナーに奪われた格好のペドロサは、第8戦でケガから復帰すると、続く第9戦でシーズン2勝目を挙げ、日本GP前の3戦では連続2位を獲得し、猛烈に復調をアピールしていた。
2006年にRepsol Honda Teamに加入して6年目、07年からは4年連続でHonda勢の最上位となり、Hondaのエースとして衆目が一致する存在だったペドロサ。一方、Repsol Honda Team加入初年度ながら、そのポテンシャルの高さを遺憾なく発揮し、2012年のHondaの顔として大きな輝きを放っているストーナー。この2人が万全の状態で迎える日本GPは、チーム内の覇権争いという点でも大いに注目を集める一戦となった。
東日本大震災からおよそ半年が経過したものの、まだ完全には傷が癒えぬ日本。Hondaは母国の復興支援のため、1996年まで500ccクラスにフル参戦し、自身も被災した伊藤真一をTeam HRCから送り出し、さらに、LCR Honda MotoGPからは、Hondaのテストライダーを務める秋吉耕佑が出場。Hondaは8人のライダーにRC212Vを託し、もてぎに送り込んだ。
この気持ちがライダーに乗り移ったかのように、初日のフリー走行では、トップのペドロサを筆頭に、2番手にストーナー、3番手にRepsol Honda Teamのアンドレア・ドヴィツィオーゾ、4番手にTeam San Carlo Honda Gresiniのマルコ・シモンチェリと、2011年シーズンでは初めて、Honda RC212Vが上位4番手までを独占。翌日の予選では、ストーナーがペドロサからトップを奪い返し、MotoGPの歴代記録に並ぶシーズン10度目のポールポジション(PP)を獲得。ペドロサは、ソフトタイヤがマッチせず4番手に沈むも、レースタイヤを試すなど、決勝に向けて虎視眈々と牙を研ぎすましていた。
同じチームにいる最大のライバル同士が、日本を舞台に熱い火花を散らす――。
決勝は、PPスタートのストーナーがホールショットを奪い、レースをリードした。一方のペドロサも負けていない。4番手から巻き返しを期すペドロサは、だれもが目を見張るほどの抜群のスタートから、オープニングラップであっという間にストーナーの後方の2番手につけた。この瞬間、やはりレースはRC212Vを駆るHondaの両エースのバトルになるかと思われた。
しかし、両者ともに普段の安定感が見られない。ペドロサは、2周目にチームメートのドヴィツィオーゾに抜き返されて3番手に落ちると、トップを快走していたストーナーは、5周目の90度コーナーでブレーキングミス。まさかのコースアウトで約10秒をロスし、一気に7番手まで落ちてしまう。
荒れ気味の展開の中、レースの行方は、Repsol Honda Teamの第3の男、ドヴィツィオーゾの手に委ねられるかに思われた。しかし、さらなる波乱が待ち受けていた。トップに立ったドヴィツィオーゾは、ジャンプスタートのペナルティーを科せられ、早々に優勝争いの圏外となってしまったのだ。
ストーナー、ドヴィツィオーゾというチームメート2人のミスにより、6周目には先頭に立ったペドロサ。そこからは、ケガをして思うようにいかなかったシーズン前半の悔しさを晴らす走りを披露した。後ろにつけていたロレンソとの差を徐々に広げていくと、レース中盤の11周目には1分46秒090のファステストラップを記録。東日本大震災の影響で、路面の約70%が改修され、新しくなっていたとはいえ、前年にヤマハのヴァレンティーノ・ロッシが記録したレース中のベストラップを約1.3秒も上回っていた。
レース中盤以降は、完全にペドロサの独壇場。周回を重ねるごとに、2番手のロレンソとの差を3秒、4秒と広げていき、24周のレースで悠々とトップチェッカー。シーズン3勝目を挙げ、ここまで7勝を挙げていたストーナーに対し、Hondaの母国で一矢報いる形となった。また、Hondaとしても2004年に玉田誠が優勝して以来、7年ぶりの母国GP制覇。さらに、ラストイヤーとなったHonda RC212Vにとって、最初で最後の日本GPの勝利となった。
ペドロサの快走に湧く中、一時は7番手までポジションを落としていたストーナーは、混戦となっていた3番手争いの集団を12周目に抜け出し、トップを走るペドロサと比べてもそん色のないペースで周回を重ねたが、2位ロレンソには届かず。また、スポット参戦で注目を集めた秋吉は12位、伊藤は13位とどちらも完走し、立ち直りつつある日本に大きなエールを送る形になった。
この結果、日本GPを終えて3戦を残し、トップのストーナーと2位ロレンソの差はあまり縮まらず40点。残り3戦。さらに、次戦はストーナーの母国オーストラリア。ストーナーのチャンピオン獲得に向けて、万全のお膳立てが整い、すべての環境が味方になりつつあることがはっきりした一戦であった。
Hondaの市販車CBR600RRをベースに開発した専用エンジンを全車が使用するMoto2クラスは、日本GP前までに3連勝し、ランキングトップに6点差に迫る2位につける18歳のマルク・マルケスが、その勢いのままにPPを獲得。ポイントリーダーのステファン・ブラドルは8番手と出遅れた。
決勝は、そのマルケスと、ホールショットを奪ったアンドレア・イアンノーネの壮絶なバトルとなるも、イアンノーネが抑えきり今季3勝目。マルケスは2位ながら、ブラドルが5位となったため、ポイントスタンディング上で1点上回り、総合首位に浮上。トップ争いの裏では、シーズン3度目の表彰台と初優勝を、母国で狙っていた高橋裕紀が無念の転倒を喫し、30位に沈んだ。また、Moto2の下位クラスである125ccクラスは、翌年からMoto3と名称が変わり、レギュレーションが改められることが決まっており、63年続いた125ccクラスとしては最後の日本GPとなった。
日本GPから2週間、多くのファンの期待に応え、ストーナーは母国オーストラリアでタイトルを決めた。それと同時に、Hondaのコンストラクターズタイトル獲得も決まり、残る2戦でRepsol Honda Teamがチームタイトルを目指すことになったが、続く第17戦マレーシアGPでTeam San Carlo Honda Gresiniのマルコ・シモンチェリ選手が事故により逝去。ここで、チームタイトル獲得も決まったが、大きな悲しみに包まれた中での3冠となった。
1位 | ヨハン・ザルコ | デルビ | 39分49秒968 |
2位 | ニコラス・テロール | アプリリア | 39分55秒868 |
3位 | ヘクター・ファウベル | アプリリア | 40分03秒573 |
4位 | マーベリック・ビニャーレス | アプリリア | 40分06秒159 |
5位 | サンドロ・コルセテ | アプリリア | 40分13秒390 |
6位 | ジョナス・フォルガー | アプリリア | 40分13秒629 |
7位 | アルベルト・モンカヨ | アプリリア | 40分14秒002 |
8位 | アドリアン・マーティン | アプリリア | 40分14秒139 |
9位 | ダニー・ケント | アプリリア | 40分39秒086 |
10位 | アレッサンドロ・トヌッチ | アプリリア | 40分41秒361 |
1位 | アンドレア・イアンノーネ | SUTER | 43分25秒007 |
2位 | マルク・マルケス | SUTER | 43分27秒006 |
3位 | トーマス・ルティ | SUTER | 43分28秒693 |
4位 | ステファン・ブラドル | KALEX | 43分29秒320 |
5位 | シモーネ・コルシ | FTR | 43分29秒654 |
6位 | アレックス・デ・アンジェリス | MOTOBI | 43分29秒820 |
7位 | ブラッドリー・スミス | TECH 3 | 43分35秒527 |
8位 | ドミニク・エージャーター | SUTER | 43分35秒732 |
9位 | エステベ・ラバト | FTR | 43分36秒394 |
10位 | ミカ・カリオ | SUTER | 43分37秒810 |
1位 | ダニ・ペドロサ | Honda | 42分47秒481 |
2位 | ホルヘ・ロレンソ | ヤマハ | 42分54秒780 |
3位 | ケーシー・ストーナー | Honda | 43分05秒861 |
4位 | マルコ・シモンチェリ | Honda | 43分11秒031 |
5位 | アンドレア・ドヴィツィオーゾ | Honda | 43分11秒172 |
6位 | ベン・スピーズ | ヤマハ | 43分25秒085 |
7位 | ニッキー・ヘイデン | ドゥカティ | 43分26秒648 |
8位 | コーリン・エドワーズ | ヤマハ | 43分32秒504 |
9位 | 青山博一 | Honda | 43分36秒555 |
10位 | ランディ・デ・ピュニエ | ドゥカティ | 43分46秒503 |