2006年、990ccレギュレーション最後の年にMotoGPクラスでチャンピオンを獲得したHondaは、07年からスタートした800ccレギュレーションに対応して、V4エンジンのRC212Vを投入した。しかし、ライバルも高い実力を蓄えており、Hondaはチャンピオンに手が届かないまま2シーズンを送っていた。
この年、日本GPはシリーズ序盤の第2戦、4月末の開催となった。それまで続いたシーズン終盤での開催と違い、マシンセッティングやライダーとのコンビネーションなど、まだまだ不確定要素も少なくない時期の開催だ。
また、この年からタイヤがブリヂストンのワンメイクとなり予選専用タイヤは廃止、電子制御サスペンション/ラウンチコントロールシステム/セラミックブレーキの禁止、さらにはレースウイーク金曜日の午前中に行われていたセッションが廃止されるなど、レースを取り巻く環境に大きな変化が見られた(金曜午前のセッションは2010年終盤から復活した)。
各チームとも例年にない条件でテストやマシンセッティングを行ったが、そのシーズン前のテストでダニ・ペドロサが転倒し左足と左手首を負傷してしまったのだ。06年からMotoGPクラスへステップアップしたペドロサは、Hondaのエースライダーとして4年目のシーズンを迎え、チャンピオン獲得にいよいよ意欲を燃やす──そんな矢先のトラブルだった。
開幕戦カタールGPではケガが完治せず、力走するも11位。もう1人、前の年からMotoGPクラスにステップアップし、新たにペドロサのチームメートとなったアンドレア・ドヴィツィオーゾは5位と、こちらはひとまず悪くないスタートを切っていた。そして、さらにマシンを詰めていきたい状況での日本GPだったが、あいにくの雨模様。
土曜日の予選は雨のために中止となり、3クラスともフリー走行の総合順位でグリッドが確定した。MotoGPクラスでは、ディフェンディング・チャンピオンであるヤマハのバレンティーノ・ロッシがポールポジションとなり、ドゥカティのケーシー・ストーナー、ヤマハのホルヘ・ロレンソと続き、Honda勢は7番手ドヴィツィオーゾ、9番手トニ・エリアス、11番手にペドロサの順で続いた。
予選でタイムを詰めてポジションを確定できなかっただけに、決勝でどのような展開になるか予想の難しい状況だ。限られた時間で誰がベストなセッティングを見つけているかは、決勝で明らかになると思われた。
決勝は、午前中に降っていた雨が上がり、青空が広がる好コンディションとなった。ポールポジションにいたロッシは好スタートを決めると、2番手以下をいきなり引き離していく。そして、ペドロサはスタートで一気に順位を上げて、ロレンソとともにロッシを追うポジションにつけていた。
レース前半はトップを行くロッシを、ロレンソ、ペドロサ、ドヴィツィオーゾが追う展開に。Honda勢の出足は悪くない。むしろブレーキングでロレンソがロッシに肉薄する場面もあり、ロッシのマシンセッティングが完全ではないような印象を与えていた。
9周目にロレンソがロッシを捕えると、ファステストラップを叩き出しながらこれを引き離していく。すると今度はなんと、ペドロサがレース後半でロッシに襲いかかったのだ。
バックストレート直後の90度コーナーでペドロサがロッシを抜くと、すぐにロッシが抜き返す。さらに1コーナーでロッシのインに飛び込むペドロサ。その走りにはケガの影響をみじんも感じさせない。レース後半に展開された2人のバトルは、この日のハイライトとなった。
レース終盤になると、一度はこう着状態だった2人の戦いは再びヒートアップする。またしても90度コーナーのブレーキングでペドロサはロッシのインを突いて前へ飛び出す。そこから4コーナーまでペドロサがロッシを抑えるが、5コーナーで再びロッシが2位のポジションを奪い返す。
そして、20周目。ロッシがスパートを開始し、トップを行くロレンソを追う。ベストラップを記録しながら徐々にその差を詰めていくロッシ。だが、さすがにケガのせいもあるのか、それ以上ペースの上がらないペドロサ。
レースは、この日、誰にも邪魔されることなく快走を続けたロレンソがトップでチェッカーとなった。ロレンソと2位ロッシの差は1.3秒。そこから2.4秒遅れての3位となったペドロサだが、シーズン初表彰台をつかみケガによる不調をぬぐい去ったかに見えた。そして、トップから9.2秒遅れのドヴィツィオーゾは2戦連続の5位。一時はペドロサを追うポジションに肉薄し、Repsol Honda Teamのランデブー走行を演じたのである。
05年に続き06年も日本GPで優勝し、250クラスのトップライダーとなった青山博一にも例年以上の注目が集まるレースとなった。前年に所属していたチームが解散してしまい、なんとか年度末に所属チームが決まったものの、スペアマシンもない体制でシーズンが始まったからだ。
また、250クラスはこの年を最後に、4ストローク600ccに移行するため、2ストローク250cc最後のシーズンとなった。
予選ポールポジションはジレラのマルコ・シモンチェリ、青山は2番手、アプリリアのアルバロ・バウティスタが3番手と、青山とライバルが並ぶ。そして決勝は、アンダーブリッジやところどころに川は残っているもののほぼドライの路面コンディション。
スタート直後、青山がトップで1コーナーに飛び込むが、オープニングラップはシモンチェリのリードでレースは始まった。その後方で青山とアプリリアのガボール・タルマクシが2位争いを展開、青山はコーナーを流れた水の痕に乗って大きく滑るなどスリリングなシーンを見せたが、ファステストラップを刻みながらシモンチェリを追う。
そして、レース中盤にさしかかる8周目に、シモンチェリが縁石にタイヤをヒットさせて振られると、すかさず青山がトップに立つ。はためく日の丸と、響く大歓声。
だがレース終盤になると、バウティスタが青山に詰め寄り、残り7周でテール・トゥ・ノーズに突入。安定した走りで逃げきろうとする青山。残り6周、ついに90度コーナーで青山をパスしたバウティスタは、そのままファステストラップを記録しながら逃げきった。
青山は2位とはいえ、レース内容はその後の活躍を予想させるに十分なものだった。3位は約17秒遅れてアプリリアのマティア・パシーニ。4位、5位にもアプリリアが並び、その集団に食いついて6位となったのが、自費参戦となったHondaの青山周平だった。
周平は2位となった青山博一の弟で、予選17番手からの6位入賞でHonda勢の2番手となった。また、富沢祥也が10位に入賞し、日本人ライダーが母国のGPで大活躍するレースとなった。
結局、青山博一は、シーズンを通じて安定したスピードを発揮。その後も2勝するなどランキングトップとなり、最終戦バレンシアGPでタイトルを獲得した。250クラスの日本人選手としては8年ぶり、Hondaとしては05年のペドロサ以来4年ぶり、そして最後の250世界チャンピオンに輝いたのである。
1位 | アンドレア・イアンノーネ | アプリリア | 42分23秒716 |
2位 | フリアン・シモン | アプリリア | 42分25秒062 |
3位 | ポル・エスパルガロ | デルビ | 42分28秒755 |
4位 | ステファン・ブラドル | アプリリア | 42分30秒620 |
5位 | マルク・マルケス | KTM | 42分36秒777 |
6位 | サンドロ・コルテセ | デルビ | 42分38秒557 |
7位 | ホアン・オリベ | デルビ | 42分40秒136 |
8位 | ヨナス・フォルガー | アプリリア | 42分40秒199 |
9位 | ドミニク・エジャーター | デルビ | 42分51秒216 |
10位 | ブラッドリー・スミス | アプリリア | 42分54秒075 |
1位 | アルバロ・バウティスタ | アプリリア | 44分06秒488 |
2位 | 青山博一 | Honda | 44分12秒377 |
3位 | マティア・パシー二 | アプリリア | 44分28秒320 |
4位 | ガボール・タルマクシ | アプリリア | 44分32秒394 |
5位 | アレックス・デボン | アプリリア | 44分37秒273 |
6位 | 青山周平 | Honda | 44分40秒276 |
7位 | ルーカス・ペセック | アプリリア | 44分43秒460 |
8位 | トーマス・ルティ | アプリリア | 44分47秒506 |
9位 | カレル・アブラハム | アプリリア | 44分48秒137 |
10位 | 富沢祥也 | Honda | 44分59秒351 |
1位 | ホルヘ・ロレンソ | ヤマハ | 43分47秒238 |
2位 | バレンティーノ・ロッシ | ヤマハ | 43分48秒542 |
3位 | ダニ・ペドロサ | Honda | 43分51秒001 |
4位 | ケーシー・ストーナー | ドゥカティ | 43分52秒929 |
5位 | アンドレア・ドヴィツィオーゾ | Honda | 43分56秒445 |
6位 | マルコ・メランドリ | カワサキ | 44分17秒793 |
7位 | ロリス・カピロッシ | スズキ | 44分19秒994 |
8位 | ミカ・カリオ | ドゥカティ | 44分26秒654 |
9位 | ジェームス・トーズランド | ヤマハ | 44分30秒344 |
10位 | クリス・バーミューレン | スズキ | 44分30秒483 |