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トライアル世界選手権

藤波貴久 20th Anniversary

ケガとの戦い、そして復活へ

昨年9月に右ヒザの前十字靭帯を手術されました。それから約半年、復帰へ向けてどのように取り組んで来られたのですか?

手術は、他のアスリートも受けるようなもので、断裂してしまった靭帯の代わりとして、太ももの方から靭帯を移植しました。回復に向けて、執刀医を含めたドクター3人と、理学療法士、パーソナルトレーナーという5名チームで話し合いながら、リハビリプログラムをこなしてきました。
手術後5カ月間は全くバイクに乗れなかったので、前半2カ月間は上半身を鍛えました。手術して2カ月半後に自転車がこげるようになると、ジムでのトレーニングを始めるなど、徐々に負荷を上げてきました。
バイクに乗れるようになってからも、いきなり全開でトレーニングをするわけではなく、自分の身体の状況を見ながら、治療チームと密に話し合って負荷を強めたり弱めたりしてという感じですね。
その後、ローカルの大会に出たりはしていたのですが、4月上旬に行われたXトライアル・デ・ナシオン※1が、復帰後初めての世界レベルの大会出場になりました。
今は、世界選手権の開幕戦、日本GPに向けて状態を上げていっているところです。

※1 トライアルの国別対抗戦。今回は、日本代表として藤波選手と全日本チャンピオンの小川友幸選手が出場

話を伺うと、ここまで順調にきているように感じるのですが……

いや、すべてが順調にきたわけではないんです。
まだヒザは治療中の段階ですし、骨など靭帯以外の部分の状態も手術前と同じくらいか、それ以下というところで、まだ完調とは言えない状態です。
ただ、「開幕戦でトップフォームに戻す」という目標をチーム全員で共有して、それに向かって一歩ずつ進んでいますし、そこでいいレースをお見せするために、取り組んでいるところです。

治療中、どんなことが大変でしたか?

やはり、バイクに乗れなかったことですね。
僕は2歳の頃からずっとバイクに乗ってきたのですが、5カ月間も乗れないというのは、ここまでの人生で初めて。やはりバイクに乗ることが好きですし、毎日でも乗っていたいので、それができないということがすごくつらかったです。
そして、もう一つは、今回の手術によって、Xトライアル※2の欠場を決めたとき。
僕の中では、レースを欠場するというのはありえない話。出られないくらいなら引退したほうがいいくらいの覚悟でやっています。昨年の終盤も厳しい状況ながら、欠場だけはするまいと取り組んでいました。Xトライアルは今までずっと出場していた大会で、最初は手術をしても1月に復帰するという考えでした。でも、やはり術後3カ月で復帰するのは無理があって、チームからも4月での復帰に焦点を合わせるようにとアドバイスがあり、決断しました。

※2 1〜3月にインドア会場で行われる世界選手権。世界中から選抜された8名のライダーのみに出場がオファーされる

そのXトライアルでは、会場に姿を見せていました。自分が欠場したレースを見るのはつらかったのでは?

チームメートのトニー※3が出場していましたし、彼にお願いされたこともあって、アドバイスなどして彼を助けるために会場に行きました。
そのときには気持ちの切り替えができていたので、レースを見ていても冷静でしたね。ただ、会場で関係者やファンの皆さんに「いつ復帰するの?」とか「今回は出られないの?」と聞かれるのは少しつらかったです。

※3 トニー・ボウ選手…藤波選手と同じRepsol Honda Teamに所属し、現在世界選手権8連覇中のトップライダー。2015年のXトライアルでも9年連続でチャンピオンを獲得した

そして、先日のXトライアル・デ・ナシオンに出場されました

インドアの大会でしたし、足への負担も大きいので、無理はしないように臨みました。結果もよくなかったですし、まだまだ本調子ではなかったです。でも、お客さんの歓声を受けたときには、自然と「自分は戻ってきたんだ」という気持ちが沸きましたね。

この治療期間で得たものはありますか?

肉体改造ができたことですね。バイクに乗れない間、上半身のトレーニングを徹底的にやったんです。普段はなかなかできないことでしたが、この効果をすごく感じています。今までよりも上半身が強くなった実感がありますし、耐久力も増しました。