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監督

金石勝智 / 中嶋悟

ドライバーやレースエンジニアなどのように担当がはっきりと決まっているポジションとは対照的に、チーム監督の役割はチームごとに異なるほか、チームオーナーであるかどうかもその立場に微妙な影響を与える。今回はチームオーナーとして設立した自分のチームで監督を務める中嶋 悟と金石勝智のふたりに話を聞いた。

“チームを築く”

―― 金石勝智さんがレース界に足を踏み入れることになったきっかけはどのようなものでしたか?

金石勝智(以下、KK):従兄弟にあたる金石年弘のお父さん、つまり僕の叔父がカートショップを経営していて、小学校5年生か6年生のころに勧められてレーシングカートに乗ることになりました。もともと僕自身が乗り物に興味を持っていたことも理由のひとつです。

―― レーシングドライバーのなかには「カートで走り始めた初日にコースレコードを打ち立てた」というような逸話が残っている人もいますが、金石さんの場合はいかがでしたか?

KK:いやあ、本当にそんな簡単にいくのでしょうか?(笑) 僕自身は、最初にカートに乗ったときは決して速くなかったうえに、走行ラインを変えた拍子に後ろからやってきた速いカートに追突されました。それで、ちょっと怖いと思いましたが、自分の親に「たった1回しか乗っていないのに、事故にあったからというだけで辞めるのはよくない」と諭されまして、その後も続けることになりました。

―― やがて金石さんはカートの全日本選手権でチャンピオンになり、4輪レースの全日本F3選手権、当時は全日本F3000選手権と呼ばれていたスーパーフォーミュラの前身にとんとん拍子でステップアップしていきました。

KK:いちおうF3000に上がるまではすべて当時の最年少記録を塗り替えていました。ただし、僕の場合は人との巡り合わせや環境に恵まれたおかげで順調にステップアップできたのだと思っています。

―― 現役時代を振り返って、レースの魅力って何でしょうか?

KK:やっぱり自分が優勝して、周りの人たちから祝福してもらえると本当に嬉しいですよね。逆に調子が悪いときには、普段は一緒に夕食をとる監督やチームオーナーに同行せずに、部屋のなかでひとりこもっていたこともずいぶんありました。

―― では、現役時代にいちばん嬉しかったことは何ですか?

KK:鈴木亜久里さんが主宰するスーパーアグリから当時のフォーミュラニッポンに出場して初優勝したときです。やはりフォーミュラレースは、いちばん速いドライバーが勝つものですから、その意味でも本当に嬉しかったですね。

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“お互いを高め合うのがチーム”

―― 金石さんがリアルレーシングを設立したのはなにがきっかけでしたか?

KK:ちょうど亜久里さんがチームを設立した当時、僕はその様子を間近で見ていて、まずは格好いいなと思ったのがきっかけですね。また、僕自身も長い間レース界にお世話になってきたので、それに対する恩返しという思いもありました。さらにいえば、ドライバーと同じようにチームやチームオーナーにも世代交代がやってくるはずとも考えていました。

―― 金石さんが目指す理想のチームとは、どのようなものですか?

KK:レーシングチームにはチームオーナー、エンジニア、メカニック、ドライバーと、いろいろな立場の人がいて、それぞれの考えや思いを持っています。ただし、チームとして実力を発揮するのであれば、スタッフ全員の力関係がバランスしていないといけない。たとえば、自分がドライバーのときには「あのパーツを新品に変えてくれればもっと速く走れるのに……」と思いながらも、チームがそれを認めてくれなかったこともあります。とはいえ、ドライバーの言い分ばかり聞いていると、それはそれでバランスが悪くなります。それらの意見を公平に聞いて判断を下せば、スタッフ全員の力を最大限発揮できるようになるのではないかと思って、バランスのいいチーム作りに取り組んでいます。もっとも、まだそれは実現できていませんが……。

  • 理想のチームとはスタッフが一丸となること

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  • エンジニアと共に戦況を見つめる

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―― ただし、今シーズンに入ってからチームの実力は着実に向上しているようにも見えます。

KK:今年、田坂泰啓エンジニアが加わって、チームの流れがよくなったように見えるという話はよく聞きますが、僕自身は、ひとりが入っただけでチーム全体が大きく変わったという印象は持っていません。ただし、田坂エンジニアは経験が豊富なので、その話を聞いたスタッフが新たな考え方を自分自身で生み出したり、作業にいままで以上に余裕が生まれたということはあったかもしれません。

―― 田坂エンジニアは「塚越広大選手は本当に速いドライバーで、彼が勝てないとしたらクルマが悪いからだと考えている」と仰っていました。

KK:それは僕も同じで、塚越選手が勝てないのは僕たちのクルマが悪いからだと思っています。ただし、だからといってドライバーを過度に甘やかすのもよくありません。エンジニアとドライバーの信頼関係が熟成されて、多少アンダーステアやオーバーステアが出ていてもドライバーが「僕が頑張ってなんとかしてきます」というふうになると、本当にチームとして強くなると思います。

  • チームの流れを変えた田坂エンジニアの加入

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“1勝を掴み取る”

―― スーパーフォーミュラでは時に0.001秒が勝敗を分けることもありますが、金石さんにとって0.001秒はどんな意味がありますか?

KK:僕自身が一般の方に説明するときは、マラソンの距離を走りながら100m走のシビアさで勝負が決まるのがレースだと申し上げています。サーキットは1周4kmとか5kmの全長があります。そこを1周走ってきて、コンマ何秒とか、0.0何秒の勝負をしている。逆にコンマ5秒遅かったら監督やエンジニアに怒られるんですよ。1秒遅かったら「もう辞めなさい」とさえいわれる。そんなこと、陸上競技などの普通のスポーツだったらまずないですよね。これがレースの厳しさだと思っています。

―― 今後の目標を教えてください。

KK:やっぱり優勝したいですよね。強いチームというのは、なにがあっても1シーズン中に1勝は挙げる。僕たちはまだそれができていないので、調子がいい状態を安定して続けられるようにしたいと考えています。

―― 勝つことでチーム内の雰囲気も変わりそうですね?

KK:第1戦鈴鹿大会、第2戦岡山大会で続けてQ3進出を果たしたところ、チーム内の雰囲気ががらっと変わって驚きました。やはり調子が悪くてもQ3に進出するくらいの実力がないとチャンピオンは狙えませんよね。

―― 現在のリアルレーシングは着実にそうしたレベルに近づいているように思います。

KK:そうですね、いままでよりは近づいたかもしれませんが、Hondaと力をあわせて、もっともっと頑張らないといけないと考えています。

  • ドライバーは0.001秒の勝負をしている

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  • Hondaと共に勝利をもぎ取る

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大所高所から組織の状態を見極め、長い目で必要な策を講じていくチーム監督の仕事には、ひとりひとりの担当者とはまた違った難しさがあり、異なる能力が求められる。それでも、ドライバーやエンジニアたちと同じ0.001秒の世界でしのぎを削っているのはチーム監督もまったく同じ。まさに、すべてのスタッフが心をひとつにして戦うのがレーシングチームであり、モータースポーツの世界といえるだろう。