モータースポーツ > 全日本スーパーフォーミュラ選手権 > 0.001秒(ミリセカンド) > レースエンジニア 田坂泰啓 / マシュー・ハーヴィー
  • トップページトップページ
  • スーパーフォーミュラについてスーパーフォーミュラについて
  • チーム/選手紹介チーム/選手紹介
  • レースレース
  • 特集特集
  • 年度別アーカイブ年度別アーカイブ

レースエンジニア

田坂泰啓 / マシュー・ハーヴィー

マシンの特性、データロガーが収集した様々な走行データ、そしてドライバーのコメント……。それらを総合し、マシンを最高の状態にセッティングするのがレースエンジニアの仕事だ。そんな彼らの目に0.001秒はどのように映っているのか。最速の座を目指して日々、切磋琢磨するレースエンジニアたちの姿を追った。

“スーパーフォーミュラのレースエンジニアになる”

―― ハーヴィーさんがエンジニアとなって日本のレースに関わるようになったのは、どうしてですか?

マシュー・ハーヴィー(以下、MH):私はオーストラリアの出身ですが、当時開催されていたオーストラリア・ツーリング選手権で一番速いクルマが日本車でした。それで日本のこと、日本のクルマ、日本のモータースポーツに興味を持つようになりました。

―― 日本のどんなところがハーヴィーさんには魅力的なのですか?

MH:日本に関わること、もしくは日本で起きている多くのことは、ちょっとばかり過剰で、強烈で、ややもすると常軌を逸しているように思います。英語でいうとエクストリームという表現が近いかもしれません。そんなところが私は大好きなんです。

  • 念願だったスーパーフォーミュラの現場

    拡大

  • レースエンジニアとしてチームを率いる

    拡大

―― 日本でレースエンジニアとなるまで、どのような道を歩んできましたか?

MH:大学で機械工学を学ぶかたわら、オーストラリアのレーシングチームでジュニアエンジニアとして働くようになりました。その後、ニュージーランドやイギリスのフォーミュラカーレースで勉強した後、オーストラリアに戻ってツーリングカーレースのレースエンジニアになりました。日本に最初にやってきたのは2013年で、このときはGTアジアという選手権に参戦するチームとともに、ツインリンクもてぎで開催されたレースに参戦しました。

―― そのとき、日本にどのような印象を持ちましたか?

MH:先ほどもお話した通り、日本にはある種の異常さがあると私は想像していましたが、いざ成田空港に到着すると、とても静かで落ち着いていることに驚きました。そこから乗った水戸行きのバスも、静かで整然としている。サーキットの近くには小さな小川も流れているし、美しい森もあった。そしてサーキットの設備は文句なしに素晴らしい。ところがレースが終わって東京に出かけると、もう驚きの連続でした。新宿、渋谷、六本木……。もうどんなに歩いても飽きることがありませんでした。実は火曜日に日本を出発する予定だったのですが、その日も東京を歩き続け、結果的に23kmも歩いてしまいました。おかげで、もう少しで飛行機に乗り遅れるところでしたが、そのときの印象があまりに鮮烈で、「いつか絶対に日本でレースエンジニアになってみせる!」と心に誓いました。

  • 機材の製作も行うナカジマ・レーシング

    拡大

  • アライメントを正確に計るための環境

    拡大

―― 日本のレーシングチームで働くようになった直接のきっかけは、どのようなものですか?

MH:以前、エンジニアを務めたことのある外国人ドライバーが日本でレースをしていて、その彼に日本のチームとのコミュニケーションを手伝って欲しいと頼まれ、2014年シーズン終盤に行われたスーパーフォーミュラの2戦に出向きました。このときに知り合った日本のレース関係者を介して、現在働いているナカジマ・レーシングでエンジニアとしての職を得ることができました。2015年のことです。

―― 日本のレース界はいかがですか?

MH:日本に限らず、もともとレース界というのはある意味でエクストリームな世界ですが、日本のレース界はこれに日本人気質が加わるので、ちょっと信じられないくらいエクストリームな世界になっていると思います。シーズン中はレースやテストでとても忙しく、メカニックたちは休む間もなく働き続けています。ただし、私自身はあまり根を詰めて働くとストレスで頭が爆発してしまいそうになるので、夜の7時か7時半にはファクトリーを辞してアスレチックジムに通い、身体を鍛えるとともに心身をリフレッシュしています。その間も働き続けているメカニックたちには本当に申し訳ないと思いますが、私にはどうしてもこういう切り替えが必要なのです。

  • 次戦に向けてマシンをメンテナンス

    拡大

  • 疑問があればすぐにミーティングを行う

    拡大

“スーパーフォーミュラは世界のトップカテゴリー”

―― ハーヴィーさんにとって0.001秒はどのような意味がありますか?

MH:通常の暮らしのなかではまったく意味を持たないくらいわずかな時間です。でも、私にとっては、ときにハッピーとアンハッピーを分ける重大な意味を持つ時間ともなります。たとえば予選のQ2でQ3進出を目指して戦っている時に、0.001秒差でQ3進出を逃したとすると、その理由をあれこれ考えることになります。もしも、あとほんの少しだけ燃料を減らしておいたら、もしもわずかに車高やタイヤ空気圧を変えていたら、と思わずにいられません。あるとき、車高を0.2mm変えたことがありますが、その結果、ダウンフォースの量は6kg変化しました。この6kgのダウンフォースがひょっとすると0.001秒のラップタイムに結び付き、それで勝敗が決まるということもないとは言い切れないのです。

―― レースエンジニアであるハーヴィーさんの目に、現在のスーパーフォーミュラはどのように映っていますか?

MH:非常にレベルが高くて、恐ろしいほど速く、そして目を見張らされるほど美しいマシンが戦うレースです。しかも、素晴らしいドライバーが数多く参戦しています。ファンの皆さんも熱狂的ですし、日本のサーキットは本当にチャレンジング。そしてどのチームも常に最高のパフォーマンスを追求しています。その結果、鈴鹿サーキットのコーナーでは4Gから5Gに達する横Gを生み出しますが、これはあのF1さえ上回るほどの数字です。ですから、もしもここで自分たちの強さを見せつけることができれば、それは世界でトップに位置しているといっても間違いではないくらいです。

  • ハーヴィー氏のセッティングで攻める
    中嶋大祐選手

    拡大

  • サスペンションの調整値をチェック

    拡大

“前半戦で得た経験”

―― 2016年シーズンも後半に入りました。今後の目標をお聞かせください。

MH:昨年までは10位前後の中団に位置することが多くありましたが、今年はその上の順位を狙えるようになっています。私自身が経験を積んで、日本のレース環境を深く理解できるようになった恩恵だと思います。今後も入賞を続け、最終戦の鈴鹿では是非、表彰台を目指して戦いたいと考えています。

  • 入念にデータに目を通し、知見を蓄積する

    拡大

  • チームとして上位へ導くことが使命

    拡大

ドライバーとマシン、つまりソフトとハードの仲介役を務めるレースエンジニアは、スーパーフォーミュラの速さを追求するうえで欠くことのできない重要な存在だ。彼らはどんな小さな要素もおろそかにすることなく、0.001秒の精度でマシンの進化に取り組んでいる。その姿は、激戦が続くスーパーフォーミュラの“いま”をもっとも的確に象徴しているといえるかもしれない。