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team HRC現場レポート

Vol.04

勝利まであと一歩。そして初めてのコースレコード

全日本ロードレース選手権の第4戦菅生大会は、雨が降る寸前の肌寒さと、低い路面温度に苦しめられたレースとなりました。8戦13レースで争われる2018年シーズンは、この菅生大会で4戦7レースを消化、折り返し地点を迎えました。

高橋巧

低い気温と路面温度に泣かされて

トップを走る中須賀克行選手(ヤマハ)を追いかける中、高橋巧がオーバーランを喫したのは25周で争われた決勝レース2の終盤、17周目のことだった。その瞬間、「高橋巧、よく追い上げたけれどあと一歩、届かなかった」と、観客や関係者を含むだれもが思ったことだろう。

高橋巧(以下、高橋)「中須賀さんを追いかけていて、オーバーランと言うか、1コーナーでラインを外してしまったんです。コースアウトまではいかなかったから、なんとか最小限のタイムロスで復帰できました。そのとき、中須賀さんは3コーナーくらいにいたので、もうこれは全開で行くしかないと、転ぶギリギリのところで走りました」

前日に行われたレース1では、高橋はまたも最大のライバルである中須賀克行選手(ヤマハ)に敗れていた。今シーズンの高橋はスタートのうまさが抜群で、ここまで5レース中、4レースでホールショットを獲得している。この日も、フロントロー3番手からスタートした高橋は、好スタートでホールショットを決めた。レース序盤、一時は清成龍一(MORIWAKI MOTUL RACING)、中須賀選手、そして高橋裕紀(MORIWAKI MOTUL RACING)を前に出したものの、バックストレートで高橋裕紀をかわすと3番手でオープニングラップを終了。3周目には清成をパスし、中須賀選手との一騎打ちに持ち込んだ。しかし、そこからジリジリと引き離され、終わってみれば5秒差をつけられてのフィニッシュとなってしまった。

高橋「中須賀さんが速かった。中盤に少しペースが落ちてしまって、なんとかレース後半でペースをつかめたんですが、ときすでに遅しと言うか…」

実はこの菅生大会、この時期の東北地方特有の不安定な天候に悩まされ、高橋は決勝レースに履くタイヤを決めかねていた。菅生大会の2週間前に行われた事前テストでは、決勝用のタイヤを入念にチェック。しかし、レースウイークに天候が崩れ、金曜には雨、土曜は朝から霧雨の降る肌寒いコンディションとなったこともあって、事前テストでは履いていないタイヤにトライしていたのだ。

高橋「事前テストで履いていたタイヤは、この気温と路面温度では性能を発揮してくれないと思って、土曜朝の予選から違うタイヤでトライしたんです。そのタイヤではロングランしたことがなくて、決勝レースでは、序盤はよかったんですが中盤に少しタレてしまって。レース終盤はそこから乗り方を変えたり、いろいろな走り方を試してペースを戻すことができました」

これに関しては、宇川徹監督も高橋の走りを評価していた。

宇川徹(以下、宇川)「中須賀選手には敗れましたけど、2週間前の事前テストでは、マシンを少し新しい仕様にしたこともあって、あまりタイムも出ていなかったんです。事前テストから速く走れないと、決勝でもいい走りはできませんから、このレースは苦戦すると思っていたんですが、なんとか立て直して巧ががんばってくれました。悔しい2位ですけど、中須賀選手が離れてしまったレース終盤はいろいろトライしてましたね。明日のレース2に向けて、いろいろ自分なりにデータを取っていたんだと思います」


ミスを帳消しにしたコースレコード

日曜に行われたレース2。天候は土曜のレース1よりもいくらか良化し、曇り空ながら、路面温度も前日よりやや高めのコンディションとなっていた。ここでも、高橋はホールショットからレースをリード。序盤からぐいぐいペースを上げていく。このレースでもライバルになるであろう中須賀選手は、1周目こそ3番手だったものの、2周目からは高橋の背後にピタリとつけた。このレース2も、2人が3番手以降をジリジリと引き離し、またしても一騎打ちの様相を呈していくこととなる。

5周目のシケインで、中須賀選手が高橋をパス。序盤は高橋が前、その後、中須賀選手に背後につかれて、かわされて引き離されて――という何度も見たシーンがよみがえるが、高橋はパスされても離れることなくかじりついていく。レース中盤には、後方どころか背後にピタリとつけ、ものすごいプレッシャーをかけた。

高橋「このときは、少し中須賀さんの走りを観察していた感じでした。メーカーもマシンも違うけれど、走らせ方とかタイムの出し方を見ながら、僕の方が速いところ、逆に中須賀さんの方が速いところを見極めていた感じです。勝負所はここだな、と決めたポイントも見つかりました」

中須賀選手の背後に高橋、という展開が10周は続いただろうか。いよいよレースが終盤の勝負どころを迎える17周目に、冒頭の高橋のオーバーランが起こってしまう。中須賀選手の背後でずっとコンマ数秒差にいた高橋は、これにより2秒ほどの差をつけられてしまった。1周の平均スピードが150km/hをオーバーするスポーツランドSUGOでは、2秒差は距離にして83mほど。100m近く差をつけられると、ライダーの心理としてはトップを追うのはあきらめ、ポジションキープに走りがちだろう。しかし、高橋は違った。

高橋「中須賀さんが見えたので、そこからは全開でした。追いつかなかったら自分のミスだ、と転ぶギリギリのところで、リスクを負っての走りでした」

高橋の猛プッシュで、一時は2秒ほどの差があった中須賀選手と高橋の差はみるみる縮まり、2周後には1秒以内に迫った。次周には射程距離に、そしてラスト3周でまたも中須賀選手の背後にピタリとはりついてみせたのだ。

高橋「オーバーランから追いついて、勝負どころと思っていたバックストレートで勝負しました。僕のマシンの方がストレートでは走っていたので、そこで抜いて、残り2周を抑えるつもりだったんです」

残り2周で、ついに高橋がバックストレートで中須賀選手を逆転。しかし止まりきれず、バックストレートエンドで痛恨のオーバーランを喫してしまう。ラインを外した数ラップ前の1コーナーとは違い、今度はグラベルまではみ出てしまうほどのオーバーラン。今度こそ、勝敗が決した瞬間だった。

高橋「中須賀さん、本当にスキがない。どこで抜けばいいんだよ、って感じでした。勝負になるのはバックストレート。いったんは抜けたんですが、うまく止まれればと思ったのに止まれなくて、そこで勝負あった感じでした」

宇川監督は、このパッシング劇をこう見ていた。

宇川「中須賀選手と同じペースで走れるまで、ライダーは仕上がって来ました。ただ、そこから抜くのは別問題ですよね。ストレートで抜いてブレーキングで抜かれるか、またその逆か。あと一歩です。チャンピオンを獲った昨年でも、ここまで中須賀選手に迫れていなかったんじゃないですか? ブレーキング勝負ができるまでに前進した、と僕は見ています。大甘なことを言うと、1度目のオーバーランからよくぞ追い上げてくれました」

勝負に出たブレーキングでのオーバーラン。攻めに出た末に限界を超えてしまったことに、宇川監督は高橋の勝負魂を見たのだろう。2レースとも2位、もちろん優勝できなかった悔しいレースなのは間違いないが、負けて悔いなし――そんな心境に近かったのではないだろうか。加えて言えば、1度目のオーバーランから中須賀選手を追いかけた高橋の走りは、スポーツランド菅生の新しいコースレコードを叩き出していた。それぞれのサーキットで自己ベストを更新することは少なくない高橋だが、コースレコードを記録したのは今シーズン初めてだ。

前半戦を終えて、もう一つの目標へ

全日本ロードレース選手権は、これで4戦7レースを消化。6勝の中須賀選手に対し、2位表彰台が5回の高橋は、1勝を挙げた渡辺一馬選手(カワサキ)と同ポイントでランキング3位につけている。新体制のチーム、ニューマシンが与えられたライダーだと考えれば、この成績は十分に及第点を与えられるものだが、Team HRCの面々は悔しさを隠さない。ここから全日本勢は、鈴鹿8耐の準備に入っていく。

宇川「全日本は前半が終わって、いよいよ8耐の準備です。前半戦で勝てなかった分、マシンの課題も見えたし、シーズンイン直前でケガをした巧も、マシンにフィットしてきた。負けた材料を糧に、8耐で勝ちに行きたい。8耐の制覇は、Team HRC復活の大きな目標の一つですからね」

高橋を振りきるのに苦労した中須賀選手は言う。

中須賀「お互いに100%以上を出したいいレースでした。巧君を開花させちゃったかもしれない」

後半戦のスタートは、8月19日(日)のツインリンクもてぎ大会。ここで、8耐を終えてまたひと回り成長した高橋が見られるかもしれない。