VOl.44 三つ巴の戦いとなったSUGO戦
敵の走りを学習してつかんだ勝利

全日本モトクロス2017 Team HRC現場レポート

全日本モトクロス第6戦(8月27日・菅生・スポーツランドSUGO)は、シリーズ後半戦の皮切りとなる重要なレースでした。Team HRCのリザルトは、IA1では山本鯨選手(#400・CRF450RW)が総合優勝(2位/1位)、成田亮選手(#1・CRF450RW)が総合4位(3位/4位)に。今回の現場レポートでは、Team HRCの芹沢勝樹監督に熱戦を振り返っていただきます。

平島将充チーフメカニック

第5戦を終えた段階では、三つ巴のポイント争いが僅差で続いており(山本鯨=209、小方誠=206、成田亮=201)、依然として気が抜けない戦況でした。今大会は8月開催ということで季節的にはタフなんですが、後半戦に向けて一気にスパートをかけました。Team HRCとしては2人のライダ―がともに好成績を挙げて、ライバルを一気に引き離しにかかろうという心構えで臨みました。

今年の8月は雨が多かったですが、菅生で4メーカー合同による事前テストをしたときは、台風の影響で、路面はマディコンディションでした。天候が回復した2日目には、泥を避けながら走行できたので、データ収集という面で不足はありませんでした。

今大会のマシンについては大幅な変更はなかったものの、サスペンションには夏場の勝負で体力を消耗しないように、味付けを施しました。一言で言うと乗り心地重視ですが、ただソフトにするのではなく、一様性を追求しました。サスペンションの一様性とは、ストロークの初期からボトムまで、同じような感触で動くということです。フリクションが少なく、スムーズで違和感がないと言い換えてもいいでしょう。

サスセッティングは、まずフロントを優先します。やはりハンドルグリップから手に伝わる衝撃と、シートを介して尻で感じるリアショックの動きは違うものですし、フロントフォークの感触は腕アガリにも直結しているからです。フロントを先に決めて、リアはそれに合わせてバランスを取るという手順です。

小さなギャップでの作動性と大きな衝撃に対する踏ん張りは、相反する要素に思えるかもしれませんが、それを両立させながら一様性を突き詰めました。なにか新機構を採用したわけではなく、現行のサスペンションをベースに、減衰力の調整でセッティングしました。成田車のKYB、山本車のSHOWA、それぞれの個性がありますので、セッティングの手法は異なりますが、今回求めた特性の方向は同じです。

フレームは藤沢仕様のままですし、エンジンにも変更はありません。PGM-FIセッティングをコース状況に応じて微調整するレベルですね。スタートのプログラムも従来のままです。成田も山本もスタートがうまいので、ハード面で特別なサポートは必要ありませんでした。

  • 山本鯨
  • 山本鯨
  • 山本鯨(手前)、成田亮(奥)
  • 成田亮
  • 成田亮
  • 成田亮
  • 芹沢勝樹監督(左)、勝谷武史コーチ(右)

土曜日のプラクティスから予選まで見たところ、成田は積極的に走っていて順調そうでした。テスト時からマシンのセットアップも着々と進んでいたので、それが走りに表れているようでした。山本には「ラインの引き出しをどれだけ持っているかが勝負になる」ということを日頃から伝えているんですが、プラクティスではそれを実行して、いろいろなラインを探っていました。

予選では山本が飛び出し、小方(誠)選手(カワサキ)を挟んで成田が3番手でスタート。そこからポジションを上げて、最後は山本と成田のワンツーフィニッシュでした。とは言え3位には小方選手がしっかり入っていたので、やはり決勝でもこの3人になるだろうという思いを強くしました。もちろん事前テストで早かった平田(優)選手(ヤマハ)や新井(宏彰)選手(カワサキ)もマークし、観察していました。

コース中で要注意だったのは、ヨーロピアンセクション。進入はカチカチのハードパックで、右に曲がった先はソフトでわだちだらけの難所。その次の右の先がまたカチカチ…。非常に滑りやすいコンディションだったので、常に選手たちを観察しながら最新情報を共有していました。日曜日になると、路面が乾いて硬化するとともにギャップが増えて、さらに難しいコンディションになりました。

ヒート1は、スタートからワンツーでしたね。成田には藤沢で最後までトップを走ったようなスピードがあったし、このまま逃げきれそうな展開でした。山本に関しては、第4戦菅生では様子を見るような消極的なところがあったので、(前に)出たらどんどん行って欲しいと思いました。山本は早めに成田を抜いてトップに立ちましたが、中盤に大坂の手前のコーナーで転倒しました。

あそこはもともと滑りやすいコーナーでしたが、山本はインベタでタイムを詰めていたんです。ところがさらにペースアップを図ったところで、フロントがわだちから外れてしまったようです。トップに返り咲いた成田は、次の周に小方選手に先行されましたが、それで闘争心に火がついたらしく、フープスでは一番速かったですね。

ヒート1で小方選手が勝ったことで、ポイントランキングでは山本と同点首位にになりました。それでも山本には追い付かれたというような悲壮感はなく、成田も含めて、すぐにヒート2への切り替えができました。ヒート1はベストラップを比較しても甲乙つけがたく(小方=1分56秒776、山本=1分56秒855、成田=1分56秒990)、だれが勝ってもおかしくないレースでした。

ヒート2への修正点としては、ハード面では特にありませんでしたが、小方選手対策を話し合いました。彼が勢いに乗ったのは、自分の勝ちパターンを作ったからです。具体的には、スタートで好位置につけて、前を行くライダーのラインを学習してから仕掛ける。トップに立ったら思いきり飛ばし、自分のラインに切り替えて逃げるのです。

こちらの対策としては、小方選手にラインを見せないようにしよう、もし真後ろにつかれたら、一度前に出してみるのもいいかもしれないと確認しました。スタート・トゥ・フィニッシュができれば理想的なのですが、ヒート1のタイムを見ても明らかなように、接戦になることが必至でした。

ヒート2では成田がスタートで出遅れましたが、うまくさばいて上位に来たので、それほど心配はしていませんでした。ところがトップ争いに近づいたところ、ヨーロピアンセクションでコースアウト。ちょっと離されてしまい、リズムを取り戻せなかったですね。ただ平田選手に抜かれたときはすぐに抜き返したし、気持ちのスイッチは入っていました。

  • 山本鯨
  • 山本鯨
  • 成田亮
  • 成田亮

一方トップの山本は、4周目に小方選手を前に出しましたが、あれは本人の判断でしょう。そういうオプションもあることを話したことは確かですが、指示ではありません。山本はラインを見ながら差を詰め、焦りを誘いました。結果として、小方選手の転倒によりトップの座を取り戻しました。クレバーな戦い方だったと思います。

敵のラインを学習するというテーマについては、随所で収穫がありました。一例を挙げれば、ヒート2のフープスが明快でした。手前のヘアピン立ち上がりを1個なめて、小さいテーブルから先のステップアップのような山に乗って、それからフープスをダダダダと行くのが一般的でした。ところが小方選手は、途中から飛び方を変えたんです。テーブルからフープス手前の山を飛び越すようになったのですが、山本も成田もそれを見てコピーしていました。

トップに立って後続を突き放そうとするときには、なにか決定打を持っていないと劇的にタイムを詰めることはできません。小方選手のスパートのしかたを分析していたので、我々は余裕で対応できました。

今大会まで消化した結果、ポイント争いは依然としてし烈です(山本=256、小方=253、成田=239)。首位の山本に対し、成田は17ポイントのビハインドとなりましたが、過去には40点差をひっくり返してチャンピオンになったこともありますし、全く問題ない差だと思います。逆に言うと、ポイントリーダーの山本も決して安泰ではないということです。

 
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