VOl.42 仕様の異なる2つの先行型マシン
それゆえ存在するセッティングとアジャストの難しさ

全日本モトクロス2017 Team HRC現場レポート

全日本モトクロス選手権第4戦(6月4日・菅生・スポーツランドSUGO)におけるTeam HRCのリザルトは、山本鯨選手(#400・CRF450RW)がIA1クラスの総合2位(2位/2位)、成田亮選手(#1・CRF450RW)が同総合4位(4位/4位)でした。今回の現場レポートでは、Team HRCの勝谷武史コーチに第4戦を分析していただきます。

勝谷武史コーチ

今回の菅生を振り返ってみると、ヒート1とヒート2の展開が非常に似ていて、“全く同じだった”と言ってもいい内容でした。スタートでは成田と山本が1-2。序盤の接戦の中で小方(誠)選手(カワサキ)に先行を許す。成田はポジションを落として4位、山本は落ちてから巻き返しての2位。同じパターンが2度続いたということはたまたまでなく、必然的にこうなるしかなかったということでしょう。だからそこには、学ぶべきことがあると思っています。

例えばピンピン(両ヒート優勝)の小方選手とベストラップを比較してみると、ヒート1は小方選手が1分56秒052、山本が1分56秒408、成田が1分57秒386…。ヒート2は小方選手が1分57秒020、山本が1分56秒711、成田が1分57秒373…。それほど差がなかったという見方もできるし、この差でも積み重ねれば大きいとも言えます。

  • 山本鯨
  • 成田亮
  • 勝谷武史コーチ(左)、芹沢勝樹監督(右)
  • 成田亮(手前)、山本鯨(奥)
  • 山本鯨
  • 成田亮

ヒート2では山本の方が小方選手より速かったし、終盤は追い詰めていましたが、逆に言うと序盤でリズムをつかめなかったのが敗因です。成田に関しては、終盤になって極端にペースが落ちてしまいました。3番手を走っているときは1分57秒台で耐えていたのに、4番手になると2分3秒台まで下がっています。ここには“悪くても表彰台を”という、気持ちが途切れる前とあとでの変化が表れているような気がします。成田は気持ちで走るタイプですから、集中力を切らすと負けです。

このところ優勝から遠ざかっているので、フラストレーションを感じてもいるのでしょう。150勝を意識しすぎているのでは、ということも考えられますが、成田はメンタルが強いライダーですからね。僕が見る限り、フィジカルが足りていないだけだと思います。最近の走り方を見ると、座っていることが多くなりました。スタンディング姿勢が取れないのは、一言で言えばトレーニング不足でしょうか。でも、立てないから座っているようでは、ギャップの衝撃をまともに受けたりして、体力を消耗する悪循環に陥ります。

絶好調で開幕を迎えたので、コンディションがピークから落ちているのかもしれません。対策としてはミニキャンプでしょうか。HRCの1年目には、成田のパーソナルトレーナーとして、僕がフルタイムで見ていたんですが、代わりにだれかを雇うとか、自分の意志でやるとか方法はあるでしょう。今シーズンのカレンダーはインターバルがかなりあるので、トレーニングをやり直すにはちょうどいい機会だと思います。

僕の現在の肩書きは、チームのアドバイザーです。テストライダーとしての仕事もあるので、アメリカのアンドリュー・ショートみたいなポジションかもしれません。テストでは成田車や山本車に乗ってセッティングをアドバイスしたり、そのほかにもいろんなマシンに乗ります。この間の広島(第3戦中国大会)のように、スポット参戦の予定もあるので、レースに出るためのトレーニングと練習はしっかりやってきました。

成田車はMXGP(モトクロス世界選手権)仕様の先行型、山本車はAMA(AMAスーパークロス)仕様の先行型なので、エンジンも車体も別物です。そのため、セッティングのアドバイスも簡単じゃありません。特に成田車に関しては、成田と僕と会社の人しか乗っていないし、最先端の仕様なので、MXGPを戦う(ティム)ガイザーや(イブジェニー)ボブリシェフ(ともにTeam HRC)のデータがまだないんです。でも山本車の方は、(ケン)ロクスンや(コール)シーリー(ともにTeam Honda HRC)が乗っている仕様と共通点が多いので、なにかするときに参考データがある。つまり山本車の方がまとめやすく、成田車の方が進んでいるだけに難しさがあることは確かです。

そんな事情があるので、セッティングに迷ったときには、成田の方が苦労するかもしれません。もちろん僕はアドバイザーとして、成田にも山本にも均等に接してコミュニケーションしていますが、僕が推奨するセッティングを成田と山本が100%気に入るかどうかは分かりません。選ぶのはライダー自身で、僕はそこに至るまでの準備をしているだけです。

先ほど言ったように、アメリカでも、ショートが同じような役割を果たしているようですね。例えばロクスンやシーリーがレースを転戦する間に、ショートがテストを繰り返して仕様を絞り込み、それをライダーに渡す。日本でもそうですが、こういう分業が確立されているところがワークスチームの強みだと思います。

レース場でのアドバイスは、マシンセッティングよりもコースの状況や攻略法が中心になります。走行前に下見をして、ギャップや撒水スポットなどの注意点を無線で伝えます。ライン取りについてはいろいろあるんですが、ほかのライダーに読まれたくないので言えません。一般論で言うと、インを押さえるところはイン、アウトで行けるところはアウト、メリハリをつけるように…こんな感じです。

成田と山本には同じアドバイスをしています。情報はチーム全員で共有していますが、どこを選ぶかは本人次第です。各々ライディングスタイルが違いますし、ビデオを見てあっちのラインの方が速いんじゃないかと判断したら、それでも構いません。

  • 山本車
  • 成田車
  • 山本鯨
  • 成田亮
  • 山本鯨(左)、勝谷武史コーチ(右)

今回の菅生は路面がかなり荒れていて、非常に難しかったですね。金曜までに降った雨のせいか、低いコーナーにはわだちがたくさんできていました。そこで感じたのは、公式練習の順番を入れ替えてみたらどうかということ。現状の公式練習の順番では、IB OPENクラスが最初に走ります。軟質路面をIBが先に走るので、IBクラスのラインができてしまう。そのラインをきっかけに皆が走るので、IBクラスのラインをベースにわだちができてしまう。ちなみに第2戦の会場となったオフビレ(オフロードヴィレッジ)では、IBの前にLADIESクラスの走行セッションが組まれていました。

一番先にIAクラスの公式練習を設定すれば、IAクラスのよりきれいなラインができるし、変なかたちのわだちも減るのではないでしょうか。せっかく第4戦では、リッキー・カーマイケル(AMAスーパークロスやAMAモトクロスで活躍)が来日したんだから、朝イチに走ってもらったら結構いいラインができたんじゃないかなって思いました。

マシンセッティングに関するアドバイスもしないわけではありませんが、サスペンションの動きとライダーのコメントに合わせて、1クリック動かす程度でしょうか。エンジンについては、成田だったらコースに合わせて特性をアジャストすることがありますが、山本は変えません。いずれにしても現場では、あまり大きくいじらない方がいいですね。

今回の成果ですが、山本の走りには次につながるものがありました。後半になって小方選手を捕まえていたし、中だるみがなければ勝てていたかもしれません。山本は両ヒートの終盤で、ベストラップを出していますが、もっと序盤からハイペースを発揮できれば有利に戦えたはずです。成田はフィジカル、山本はレース運び。見つかった課題は、藤沢までに克服したいと思っています。

 
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