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2013年3月21日(木)

ロジャー・グリフィス(HPD テクニカル・ディレクター)、INDY開幕直前インタビュー

ロジャー・グリフィス

―2013年に向け、エンジンのレギュレーションがいくつか変更になったのですか?

「そうです。2シーズン目を迎えるエンジンでは、燃料供給システムのレギュレーションが変わり、ダイレクト・インジェクションが使えるようになりましたから、今年はインディカーがダイレクト・インジェクションを使う初めての年になります。そのほかにも、コンロッドに新しい設計が可能になるなどのレギュレーション変更がありましたので、エンジン内部の設計変更が行われています」

―ほかにもエンジンに関連するレギュレーション変更がありましたか?

「はい。各エントラントが1シーズンを5基のエンジンで戦わなければならない点は今年も同じですが、5基目以降のエンジンで走ったレースではエンジンマニュファクチャラーポイントが獲得できないルールに変わりました。勝利は勝利としてカウントされるのですが、エンジンマニュファクチャラーポイントは与えられません。このルールによって、信頼性の大切さが一気に高まりましたね。さらに、エンジン交換までの走行距離設定も長くなりました。昨年は1850マイルでしたが、今年からは2000マイルです」

―レギュレーション変更があり、今年のエンジン開発ではなににフォーカスする必要があったのでしょうか?

「私たちがまず集中したいと考えたのは、信頼性です。昨年のエンジンは、その点で満足のいくレベルに達していませんでした。そこで私たちは、開発を進めるベースとして、まずは高い信頼性を確保することが絶対に必要だと考えました。パフォーマンス向上は、そうしたプラットフォームの上にのみ、成り立つものだからです。まず第一に信頼性を確立し、次にパフォーマンスを進化させ、第3段階としてドライバビリティを向上させる。これは私たちHondaだけが考えて決定した方針ではなく、エンジンを使用するチームと多くの話し合いをして、ドライバーたちにとってなにが重要なのかを彼らから直接聞き、すべてを総合して作った開発計画です。幸いにも昨シーズン中に出たトラブルの種類はそれほど多くなく、2013年用のエンジンを作る上で解決すべき問題は限られていました。原因を徹底的に解明し、設計し直しました。エンジンのレギュレーションが新しくされ、2013年は信頼性がより重要になりましたが、今年のHondaエンジンは極めて信頼性の高いものになっているという自信を、オフの間のテストで手にすることができています」

―レースの数が15から19へ4戦も増えたというのに、使用できるエンジン数は5基で変わらないとは、エンジンにとって大変過酷なルールが採用されましたね。

「そうですね。しかも、今回のオープンテストで全エントラントは、2013年シーズン用のエンジン1基目を使い始めなくてはならないルールになっています。私たちが各チームへと供給したエンジンは、今シーズン用の第1基目で、テストをすべて走った上で、開幕戦からの4レース、セント・ピーターズバーグ、アラバマ、ロングビーチ、そしてブラジルまでをカバーしなくてはなりません。しかし、冬の間にHPDのエンジン・ダイナモメーターでは2000マイルをはるかに超える距離をテストし、トラブルを出さずに済んでいます」

―自ら満足のいく信頼性を確保するだけでも大変そうですが、ライバルメーカーを相手にした性能競争もあります。

「そうです。しかし、レースにおけるエンジン開発では、勝ち続けることができたとしても、常に満足をするということはありません。常に性能アップを目指し続けるからです。昨年の私たちは目標としていた勝利数を挙げることができませんでした。最も重要なレース、インディ500では勝利することができましたが、つまり、私たちは掲げる目標に到達するために、エンジンの性能アップを必ず実現しなければならないのです」

―ドライバーたちのリクエストはどういったものですか?

「彼らはエンジン性能での明確な差より、実際に使用が可能な性能面でのアドバンテージが大事という考え方です。そこで、私たちはエンジンを開発する者として、もちろん性能での明確な優位の確立を目指しますが、ドライバビリティという要素により強くフォーカスしています。シーズンオフに行ったテスト、そして今回の2日間のテストで走ったドライバーたちからは、とてもいい反響が返ってきています」

―ライバルはオーソドックスにツインターボを採用しましたが、Hondaはシングルターボを選びました。1シーズンを戦った今、その選択は正しかったと考えていますか?

「はい。私たちは全くもって正しかったと確信しています。シングルターボで戦うと決定したのは開発に取りかかる前ですから、もうずいぶんと時間が経過しています。その時点からはエンジンを取り巻く環境にいくつかの変化があります。例えば、ターボのスペックについてのルール変更が、昨シーズン序盤のブラジルで行われ、2013年から使われるだろうと考えられていたボディーのエアロキットはいまだに使用開始時期が決定していません。しかし、それらの変化によるプラスとマイナスを総合すると、私たちがシングルターボでいくと決め、進めてきた開発には手応えを感じています。シングルターボとツインターボのどちらが正しい選択なのかは、今後も自分たちの中で検討を続けていきますが、現在の私たちはシングルターボが選ぶべき方式であると考えています」

―2013年に向けたHondaエンジンのチーム体制、ドライバーのラインアップはどうですか?

「7チームにエンジン供給を行いますが、今年もすばらしいラインアップをそろえることができたと考えています。レースを戦う上で、我々サプライヤーとユーザーとの関係は最も重要です。そして、それを良好なものに育て上げるのには時間がかかります。昨年は初めての年でしたから、お互いをより深く知ることに努めました。2年目、3年目はそこから関係を強化していくことができると思います。昨シーズン一緒に戦ってくれたHondaチームのすべてが、今年も私たちと戦うと決めてくれました。彼らは私たちの力を信頼し、一緒にがんばっていく覚悟を持ってくれたということです。そうした関係を1シーズンで作り上げることができたことを、私はうれしく、そして誇りに思います」

―ドライバーの布陣にも満足していますか?

「はい。Hondaチームの間で移籍したドライバーも何人かいましたが、最終的に優秀なドライバーを今シーズンもそろえることができました。2012年度のインディライツ・チャンピオンを獲得できたことも大変うれしいですね。昨年は2011年度のインディライツ・チャンピオンのジョセフ・ニューガーデンを走らせ、今年はトリスタン・ボーティエを迎え入れることになりました。Hondaが掲げる、若く将来性のあるドライバーにチャンスを与えていくというポリシーを実践することができています。彼らこそが未来なのですから、私たちは投資をしなくてはいけないのです」

―チーム体制にはいくつかの変化がありました。

「そうですね。Rahal Letterman Lanigan RacingとSchmidt Motorsports(Schmidt Hamilton MotorsportsとSchmidt Peterson Motorsports)は2台体制へと拡大しました。彼らは昨シーズンが始まる前の時点ですでに2台を走らせたいという考えを持っており、2シーズン目にそれが可能なチーム体制を整えたということです。その一方で、Chip Ganassi Racingは昨年より1台少ない3台体制になりましたが、供給台数から考えても、それはよかったと思います。我々のエンジンを使うそれぞれのチームの体制、そしてラインアップは強力なものになっています」

―昨年はSchmidt Hamilton Motorsportsなど、若いチームが見事な躍進をみせてくれましたが、今シーズンも小さなチームの急成長が期待できそうですか?

「そう思います。例えば、Bryan Herta Auto Sportですが、彼らは昨シーズンのインディ500から私たちのエンジン供給を受けることになりましたが、すぐさま際立った成績を残してくれました。最終戦のフォンタナでは、エンジンにトラブルさえ出なければ優勝ができていたはずです。アレックス・タグリアーニはとても安定感が高く、チームのエンジニアリングレベルも本当に高い。彼らは今年、さらなる進歩を遂げてくれるものと楽しみにしています。Sarah Fisher Hartman Racingも若く新しいチームで、ドライバーも将来を嘱望される若手を起用していますが、チームの核を成しているメンバーは極めて経験豊富で、エンジニアリングの基礎にも確かなものがあります。彼らの作るレーシングカーはとてもすばらしいです。彼らはインディ500では2台目を今年もエントリーさせ、活躍が期待できるドライバーを起用する可能性があります。Honda、そしてHPDは将来有望なチームと協力し、我々とチームがそれぞれ持つ技術力を重ね合わせ、ともに進歩することを目指しています」

―2013年の目標は?

「今年も目標は同じです。一番の目標はインディ500での勝利です。シリーズ最大、あるいは世界最大のレースで勝つことです。インディ500において、私たちは2004年からの連勝を続けています。これは世界で最も長い歴史を持つレース、インディ500において、一つの自動車メーカーとしての最多連続優勝記録で、それを今年も更新したいのです。第2の目標はエンジンマニュファクチャラータイトルの獲得です。昨年も目標に掲げ、達成できなかったものです。インディ500で勝ち、ほかのレースでも昨年以上に勝つことがタイトル獲得につながりますが、より多くのレースで勝つためにはゴールまで走りきるエンジンの信頼性が必要です。全Hondaチームと協力し、Hondaエンジンを搭載するすべてのマシンのパフォーマンスアップを実現させ、彼らが優勝争いをして、表彰台でのフィニッシュを重ねる。そういう戦いをしていきたいと考えています」