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インディカー・シリーズ

新エアロキットについて

今シーズンからインディカー・シリーズではエアロキットが使われます。参戦しているエンジン・マニュファクチャラーがこちらも開発、供給することとなりましたね?

エアロキット導入には紆余曲折がありました。インディーカー・シリーズは2012年から新しいシャシーを使い始めましたが、その際にエアロキットによる戦いもスタートする予定でした。しかし、いくつかの理由によって見送られました。その後、長い時間をかけてシリーズの主催者と、我々出場者たちが協力してエアロキットに関するレギュレーションを深く検討し、今シーズンから採用されるレギュレーションが作り出されました。レギュレーションが決定したのは2014年の1月だったと思います。そして、翌2015年からのエアロキットを投入する意志をHondaとシボレー、エンジンマニュファクチャラー2社が明らかにしたというわけです。

エアロキット導入に向け、Hondaは2012年以前から開発に着手していたのですか?

はい。2012年の開幕時にエアロキットを供給できるよう準備をしていました。しかし、主催者がゴーサインを出しませんでしたから、私たちは開発をスローダウンさせました。レギュレーションもはっきり決まっていませんでしたから、設計も細かい部分にまで行えない状況でした。それでも、2012年までに私たちが行った空力に関する研究は、今回導入した2015年用エアロキットの開発に大いに役立ちました。

2012年シーズンを迎える前と、2014年にレギュレーションが決定するまでの間には、もちろん状況の変化もあったと思います。エアロキット開発はその間も途切れることなく続いていたのでしょうか?

開発は休みなく続けていました。ただ、レギュレーションが明らかになっていないのですから、それがどんなものになるのかを正しく推測する必要があります。私たちはどんなレギュレーションになるのかを考えることに力を入れました。シャシーのベースとなるモノコックは、2012年から使用されているダラーラ製になることは決定していましたから、どの部分の変更が許されることになるのか、どの程度までの自由度が与えられるのか、自ら想定したレギュレーション下で最高の性能を得られるエアロキットを作るべく研究を続けていました。ただし、自分たちの想定が間違っていた場合には研究にかける費用も時間も無駄になってしまいますから、そうした大きなリスクを避け、細かな部分にまで研究を広げていきすぎないようにしていました。不透明な将来のマシンに大きな力を注ぐより、2014年まで使用し続けていたダラーラシャシーの空力に関する研究、分析を深く推し進めることが最終的に自分たちのエアロキットを作る際に役立つ情報になると考えたからです。

2015年仕様のマシンは、コクピット両側のサイドポッド前部フロアに大きな穴が開けられていますね。インディカーがノーズ側から浮き上がってコントロールを失うことを避けるためということですが、大きな穴というアイディアが採用されたのは最近だったと聞いています。開発の途中で大きな変化が必要となったのではないですか?

あの穴は2013年に採用が決まりました。インディカーは、マシンが浮き上がるアクシデントが起きにくいレギュレーションの必要性を強く感じたのです。そこでインディカーはエアロキットを開発中だった私たちに協力を要請してきました。ライバルメーカーはそれを拒みましたが、私たちは、安全性の向上は非常に重要だという考え方から協力することを申し出ました。そして、私たちの研究成果としてフロアに穴を開けることをインディカーに提案し、インディカー、シャシーコンストラクターのダラーラ、そしてシボレーからの合意が得られて採用が決まりました。 さらに、インディカーはもうひとつの大きなレギュレーション変更を、エアロキットの導入まであまり時間がないタイミングで行いまいた。エアロキットマニュファクチャラー2社が提出したデータを見て、新エアロキット装着によるダウンフォースの増大量があまりにも大きいと考えたのです。そこで、ダウンフォースを削り取るようにアンダートレイ後端の「デュフューザー」と呼ばれる部分からサイドウォールを取り払い、アンダートレイのマシン中央部よりに装備されていたストレイク(整流板)の装着も禁止するレギュレーションを追加したのです。ダウンフォースが大きくなり過ぎるとサスペンションにかかる負担が増えますから、設計の変更が必要になります。サスペンションを新しくすることにも多額の費用がかかりますし、新しいパーツを導入するとなれば、出場チームへの経済的負担も大幅に増やしてしまうことになるからです。エアロキット導入は、出場チームに大きな新規投資を求めますから、それ以外の部分でも経済的な負担が大きくなることは避けねばなりませんでした。

2度もダウンフォースを大きく減らすレギュレーション変更がなされては、開発はかなりの路線変更を余儀なくされたのではないですか?

確かにとても大変でしたが、それは仕方のないことです。そして、今回の開幕前テストで明らかになった通り、ダウンフォースを大幅に減らすレギュレーションとなっても、新エアロキットを装着したインディカーは昨年までと比べて速くなっています。

今回走ったのはストリート・コース、常設のロードコース・サーキット、そしてショート・オーバルで使われるエアロキットですが、エアロキットにはもうひとつ異なるバージョンがありますよね?

はい。高速オーバル用エアロキットです。厳密には、そちらの中でさらに2バージョンがあります。インディアナポリス・モーター・スピードウェイで行われるインディ500専用のものと、それ以外のハイスピードオーバルであるテキサスやフォンタナなどで使われるバージョンです。これらの高速オーバル用エアロキットには、ストリート/ロード/ショート・オーバル用のものとは違って、細かなエアロパーツがありません。空気抵抗をできる限り小さくするためには、そうした部品はない方がよいからです。

エアロキットの開発とは、どのようにして行われるものなのでしょうか?

設計にはコンピュータを使い、シミュレーションは2種類を行います。最初のシミュレーションはドライバーが乗り込み、実際に存在するレーシング・コースを走る最先端のシミュレーターで行います。HPDは昨年、インディアナポリス郊外のブラウンズバーグにテックセンターをオープンさせましたが、そこにあるドライバー・イン・ザ・ループ(DIL)シミュレーターは非常に優れた能力を備えており、どんなエアロマップも設定でき、どんなサスペンションセッティングも設定できます。それを使ってドライバーたちからフィードバックを受け、開発の方向性を決めます。その方向性をエアロダイナミシスト(空力のスペシャリスト)に伝えると、彼らは目標として設定されたエアロマップを実現できるパーツ形状を考え出します。次に行うのが風洞実験です。エアロダイナミシストたちが考え出したパーツデザインが、想定通りの性能を発揮するかをチェックします。こうした手順を繰り返し、少しずつ性能を向上させていくのです。

Hondaのエアロキット、その基本となるコンセプトはどんなものですか?

我々が最大の目標として明確に持っているものは、毎年変わらず、インディ500での優勝です。私たちはエアロキットの開発でもインディで高性能を発揮するべきもの、というところに最初から強い意識を置いています。主要パーツにおいても、インディ500とそれ以外で同じデザインとすることがレギュレーションで定められているものは、インディ500での性能確保をまず最初に考えました。ロードコース・バージョンではより大きなダウンフォースが必要ですが、そうするためにインディ500でのパフォーマンスに対してネガティブなデザインは絶対に採用しませんでした。HPD(ホンダ・パフォーマンス・デベロップメント)は他カテゴリでスポーツカーレースに出場しています。その経験が今回のエアロキット設計では大きな力を発揮しました。インディカーはオープンホイールのマシンで、現在のマシンはサイドポッドとホイールガードによって後輪を覆い包むようなデザインになっています。そのため、4輪がボディーカウルの中に収まっているスポーツカーを設計してきた経験が、インディカーでも大いに役立ったのです。

2014年シーズンが終了してから、オフの間にはどのぐらいの実走テストを行なったのでしょうか?

開発中のエアロキットを装着して実際にマシンを走らせるテストは、6回行いました。それがインディカーの定めたレギュレーションの最大日数でした。エアロキットにストリート/ロード/ショート・オーバル用と高速オーバル用の2バージョンがあるのは先ほど説明しました。ロードコース用は多くの異なる条件下で使われます。コースの種類が変われば、求められる性能も違ってきますが、そのすべてのコースで高い性能を発揮させなくてはなりません。そこで、私たちは走行実績を多く持つコースを選んで、実走行テストをしました。何年にもわたって実際にレースを行ってきたコースを使ったということです。比較データが豊富にあれば、問題が発生した場合にその原因究明も素早く行えると考えたからです。テストを行った各コースで少しでも速く走ることはもちろん重要ですが、それ以上に、私たちはデータ同士の連携に注目していました。コースレコードを打ち立てるのが目的ではなく、テストで得られるデータが他のコースでの数字や、シミュレーションのデータと共通している、あるいは関連性が見られることを常に確認し続けました。

完成したエアロキットには満足していますか?

とても満足しています。テストでファンの皆さんに初公開されたロードコース用エアロキットは、非常に多くのパーツによって構成されており、それらは装着してもしなくてもよい自由度が与えられています。組み合わせは無数にあると言っていいほどです。レースを行うコースごとに、私たちはチームに対して推奨コンビネーションを提供します。しかし、それぞれのチームが独自のアイディアでパーツ選択を行うケースも出てくるでしょう。チームの創造力を私たちは尊重します。新エアロキットとともに、私たちが今シーズンに向けて掲げている目標は、昨シーズンより多くの勝利を飾ること、さらにひとつでも多くのレースで優勝することです。その目標を達成するために私たちはHondaチームと一丸となって全力でがんばっていきます。

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