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GP2 & GP3 Series @HFDP

シーズンを終え、見えた現在地と見据えるその先

GP2の松下とGP3の福住。それぞれの2016年シーズンを戦い終えたヤングドライバーにインタビューを敢行。戦いを通して見えてきた今の自分と、今後の目標を聞いた。

――今シーズンの目標とその達成度について

松下:
当初の目標は、トップ3に入る、チャンピオン争いに絡むというものだったので、それは明らかに達成できなかったです。達成度がどうこう言えるような、そんなレベルではない。達成度は、ゼロでした。

こんなふうになるとは、自分でも予想外でした。オフのテストでも速かったし、もっといけると思っていました。開幕してからも、決して悪くはなかった。モナコは勝ちましたし。バクー以降ですね、低迷したのは。ライバルチームも、昨年より確実に速くなっていたし、相対的に僕らはチーム力が落ちていました。メカトラブルも、すごく多かった。あれがなかったら、というレースは結構ありました。レース中、自分のドライビングミスもありました。

バクーでのことは、自分の中ではもうなにも気にしていないです。今では、ああいう体験をしてよかったと思っています。あれでなにも学ばなかったら、バカですよね。得たことはしっかりあったし、それでいいです。いや、本当はよくはなかったですけど(苦笑)。

あのレースで出場停止処分を受けたことがきっかけで、僕自身のドライビングの歯車がすっかり狂ってしまったような、そんなふうに外からは見えるかもしれません。でも僕自身は、全力で自分の力を出しきる、その姿勢自体はなにも変えていません。でも実際にバクー以降は表彰台にも上がれていないので、そんなふうに見られても仕方がないですね。

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――今シーズンで成長したところや得たものは?

松下:
たくさんあります。一つずつ挙げていったらきりがないのですが、一番大きかったのは、気持ちですね。具体的に言うと、昨年はすべてが初めての体験だったでしょう? ですから、いつも焦りがあったんですね。それが今年は、コースのほとんどはすでに一度は走っているという安心感があった。それもあって、落ち着いてレースができていました。

目に見えるパフォーマンスは昨年の方がよかったかもしれませんけど、僕のドライビングスキルとレースウィークのアプローチは、確実に進歩しています。それは結果とは、別ですけどね。なので、そのアプローチとマシンの性能と運がかみ合えば、昨年よりは確実にいい成績を残せていたはずです。

バクーの一件でも成長でき、だから最悪のシーズンとは思っていないです。テクニカルな部分でも、もちろん成長しました。昨年はいいマシンに乗せてもらったおかげで、ほかのドライバーたちと競る走りができた。それが今年は、同じような条件で競い合ったわけです。来年、その辺りの成長を実際に証明できればと。どこからも文句の出ない結果を出していこうと思います。

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――反省点、課題は?

松下:
ありすぎて、とても言えないくらい(笑)。具体的にいくつか挙げると、明らかに自分のミスだったのはバクー(アゼルバイジャン戦)でした。それまでも、例えばモナコのフリー走行でぶつかったこともありました。バーチャルセーフティカー明けでタイヤが冷えているのは承知していたんですけど、思った以上にグリップがなかった。モナコもバクーも、今思えば避けられたし、避けるべきミスでした。特にバクーは、絶対に勝てたレースでしたしね。

その後は大きなミスはなかったのですが、細かいのはいくつもありますよ。あのコーナーでもっとしっかりインを締めていたらよかったのに、とか。もちろん今後、同じ失敗は繰り返さないつもりです。でも限界でレースしている以上、絶対はないですからね。できるだけ減らしていくだけです。少なくともバクーのようなバカなミスは、絶対にしません。今思えばあのときは、完全に頭がかーっとなっていましたしね。勝ちたいという気持ちがあまりに強すぎて、そこに4回もセーフティカーが入ったことで、再スタートの際に平常心を失ってしまいました。

――今シーズン、最も印象に残っているレースは?

松下:
やっぱりバクーですね。もちろんうれしいのはモナコの優勝でしたけど、印象に残ったのはバクーでした。忘れられないですよ、いろんな意味で。あとから、「あんなことをしてしまったけど、あれがあったから今の自分がある」と、笑って振り返れるようにしないといけないですね。

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――GP2というレースや、ライバルについての印象は?

松下:
GP2自体への認識は、特に変わっていないですね。F1を目指す若手が世界中から集まって来る、非常にレベルの高いカテゴリーです。顔ぶれは、昨年からそんなに大きく変わっていなかったですね。ストフェル(バンドーン)が抜けたのは大きくて、それで一層激しい争いになったわけですけど。上位はすぐにF1に乗っても速さをみせられるドライバーばかりだから、苦労するのは当然だと思います。でもそこを勝ち抜かなければ、F1には行けないわけですし。

ライバルの中で、技術的なうまさでかなわないと思うドライバーは特にいないです。でも、こいつ速いなと思うのは、やっぱり(ピエール)ガスリーですね。たった6周しかないのに、パッと走って、とんでもないタイムを出す。そういう速さはピカイチですね。F1テストの際はそれほどよくなくて、なので関係者の評価は今一つらしいんですけど、GP2での一発の速さは群を抜いています。昨年すでに、ストフェルより速かったですしね。終盤の4戦、すべて彼がポールを取ったし。ただストフェルに比べると、レースでの安定性で劣る。でも、ドライバーにとって速さは一番大事なことですから。レースペースは経験である程度どうにかなるにしても、一発の速さは、特にGP2のようにほとんどぶっつけ本番でアタックする場合は、本人の感性が結果を大きく左右する。ガスリーは、そこがほかのドライバーと大きく違うんだと思います。どこまでブレーキを遅らせられるかなんて、ほとんど勘ですから。フリー走行のときとコンパウンドも違うし、コースコンディションも違いますから。限界の見極めと挙動の見極めがずば抜けています。F1は予選の前に、もっとじっくり練習できますけど、そもそもF1で活躍できるドライバーは、みんなガスリーのような速さを持っているわけですしね。

その辺りは今のところ、僕の弱い部分だと思っているので、意識して走るようにはしています。そのおかげで終盤のレースでは、フリー走行や予選で、序盤にトップタイムを出せるなど、ある程度成長はできたと思ってます。

――今シーズンの総括的な自己評価は?

松下:
苦しい一年でしたけど、確実に成長はできたと思います。あとはその実感を、これから結果で示すだけです。示せなければ、夢は実現できない。外からはたいへんそうに見えても、僕はいつも自信を持って走っています。昨年よりも今年、今年よりも来年の僕の方が、自信を持ってチャレンジできると思います。来年もこの機会に恵まれたら、必ずやれる自信はあります。

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――レース以外で印象に残ったことは?

松下:
ヨーロッパでの生活が2年目になるわけですけど、今の僕はパリで独りぼっちになってしまいました。これまで仲良くしていただいた人たちが、偶然なんですけど次々にいなくなってしまって。でも一方で、今年はMcLarenに行く機会が昨年以上に多くて、なので、こうして改めて振り返ってみると、今年はレース漬けの一年でしたね。プライベートで印象に残っていることは、ほとんどなにもありません。でも一人になったから余計に、人との関係は大事だと思うようになりました。身内、友人、お世話になった人たちとの関係を、今まで以上に大事にしないといけないと、思っているところです。

――今シーズンの目標とその達成度について

福住:
目標はレースでの優勝でしたが、それは残念ながら達成できませんでした。ただ開幕戦のバルセロナでいきなり表彰台に上がることができたのは、大きな自信になりました。でもそのあとは、なかなか思うような走りができなくて、結果にもつながらず、苦しかったですね。今までそのようなシーズンを送ったことがなかったので、かなりキツい一年だったという印象です。

昨年もそれに近い一年でしたけど、最終的には勝つことができました。そして、その勢いを持続することができ、開幕戦での表彰台につながったと思います。今年も最後のレースで表彰台に上がれましたが、自分としては全く納得のいかないレースでした。シーズン中も自分のミスからクラッシュしてしまったり、タイヤの使い方がダメダメだったり、とにかく反省すべきところは山ほどあります。もう少しなんとかなったんじゃないかな、と思うレースばかりです。でもそういうことを経験したからこそ、周りが見えるようにもなったと思います。

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――咋年までのレースと、GP3シリーズはどう違いましたか?

福住:
海外のレースというだけで、僕にとってはなにもかもが違うわけですけど…。一番違うのは、やっぱりバトルの仕方ですね。駆け引きが全然違う。例えば昨年のF3だったら、一度スタートしてしまえば、あとは何事もなく終わることが多かった。それがGP3は「ここで仕掛けてくるか」と思うことが、本当に何度もありました。特にスタート直後の1周目、2周目です。そこが順位を上げる最大のチャンスだと分かっているから、ほんのわずかなすきでも突っ込んでくる。

もちろん僕もそういう力を身に付けようとしましたけど、最初は焦って失敗することが多かったです。でもシーズンが進むにつれて、周りがしっかり見えてきた気がします。スタート直後のコース取りは、一時期自分でもすごく気にして練習を重ねて、まだ改善の余地はありますけど、最終戦ではかなりうまくこなせました。

――今シーズン、最も印象に残っていることは?

福住:
フォーミュラでのレースの仕方でしょうかね。フォーミュラカーは真ん中に座って、むき出しのタイヤで競い合うでしょう? 視界は決して広くないんですけど、みんなしっかりスペースを作ってレースをする。走りはアグレッシブだけど、でも無茶じゃない。その辺りはすごくキチンとしていますよね。

そんな中でなによりも印象に残ったのは、フリー走行から予選にかけて、みんなのタイムの改善幅の広さです。一発タイムに、自分の速さをどこまでまとめられるか。一言で言うと、各ドライバーの集中力なのですが、ここで戦っている人たちはすごいなと思いました。なぜヨーロッパのドライバーは、それができるのか。メンタルが強いからなのだと今は思ってます。毎戦毎戦、ここで結果を残さないと次はない、という状況なわけです。僕もそういう環境で、少しずつ鍛えられていった感触は得られています。 今までの僕は、特にカート時代は、一発の速さにすごく自信があったんです。でもGP3に来てから、自分よりはるかに速い人がゴロゴロいる。メンタルの強さ以外にも、マシンの挙動をどれだけしっかり感じられているかですね。今の僕は、フォーミュラではまだずば抜けた速さがない。それをどこまで改善できるか。感覚さえつかめれば、なんとかなると思っています。

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――今シーズンの総括的な自己評価は?

福住:
自信を取り戻さないといけないなと思っています。今年はメンタル的に、やられた一年でした。迷いもあったし、フリー走行がよくても、そこからなかなかタイムを向上できなかったり。ほとんどが初体験のサーキット。そこを45分走っただけで、マシンをまとめ、仕上げないといけないわけです。

この一年を、10点満点で自己評価すると、半分くらいですかね。5、6点、いや4、5点ですね。コース上のパフォーマンスだけじゃなく、英語力や体力面も含めて、まだまだでした。今年こっちに来て、自分の足りないところがはっきり分かりました。なかでも今の自分に一番欠けているのは、精神的な部分だと思います。例えば英語一つとっても、僕はここまで、ほとんどなにも勉強しないで来てしまったのですが、それでも、意志疎通にはそこまで困らないところまでできました。それはうまくいった方の例えなのですが、すべてそういうことだと思うんですね。もちろん走りとか、持って生まれたセンスもあると思いますけど、そこからさらに伸ばしていくときに、メンタルの強さがモノを言うんだろうなと。

なにか悪いことが起きたとき、僕はそこからネガティブな方向にどんどん行ってしまう傾向がありました。それはこの一年でかなり改善された部分ですけど、まだ考えすぎてしまうところがありますね。そういうとき、家族とか友人とか、身近にいる人間のサポートがすごく重要なんだということを、痛感したシーズンでもありました。

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――ライバルであり、友人の存在がありましたね

福住:
なかでもアレックス(アルボン、ARTでのチームメート。タイ人の母を持つイギリス人で、シャルル・ルクレールと最終戦までタイトルを争った)の存在が大きかったですね。レースのない日、彼は家族と住むイギリスに頻繁に出かけるようになって、夏以降は半分居候状態でした(笑)。アレックスがスポンサー探しでタイに行っているときも、僕だけ滞在させてもらっていたぐらいです(笑)。

ここでのホームステイがなかったら、こんなに短期間に英語を喋れるようにはならなかったですね。アレックスは5人兄弟の長男で、とにかく明るい家庭なんですよ。みんな優しくて、レースがうまくいかないときも、この家のおかげで気分転換できました。彼らには、本当に感謝しています。もちろんドライバーとしてもすばらしい才能の持ち主だし、ヨーロッパでずっと揉まれてきただけあって、一発の速さと、安定して結果を出すレーステクニックの両方を、彼は兼ね備えています。

――今年一緒に走ったライバルについての印象は?

福住:
予選だと、シャルル(ルクレール)の短時間で限界を見極める力はすごい。レースでは、シャルルはもちろんですけど、アントニオ・フォコも安定してましたね。例え予選で失敗しても、最終的にきっちり結果を出してくる。そしてアレックスも、決してこの2人に負けていない。とにかくスムーズで、タイヤの持ちのよさも群を抜いていました。頭もすごくいいし、彼から学ぶことは本当にたくさんあります。ただ今年の彼は、レース1がいいと、レース2で必ずと言っていいくらいなにかが起きるんです。本人のミスとかじゃなくて。別にゲンを担ぐわけじゃないですけど、そういうときってあるんですよね、長くレースを続けていると。

シーズンを終え、見えた現在地と見据えるその先

――今年のベストレースと反省点は?

福住:
やっぱり、開幕戦ですね。あんまりあっけなくて、なにが起きたのか自分でもよく分かっていなかったですけど。開幕戦のレース1でいきなり表彰台って、今思うと奇跡でした。今年はGP2もGP3もすごくレベルが高いと言われていたので、信じられなかったです。

もしもう一度やり直せるとしたら、全レースの予選をやり直したいですね。今まで一度も、完ぺきな予選ができなかったので。それにしてもこの一年、あっという間でした。ものすごくいろんなことがありましたけど、全然長くは感じませんでした。

来年もう一度チャレンジすることができれば、もうヨーロッパにも、サーキットにも慣れているわけですから、絶対に結果を出しにいきたいです。そしてあくまで自然体で、優勝争いにコンスタントに絡んでいければいいですね。もちろんその手応えは感じてますし、目の前の目標に全力で挑めば、必ず結果はついてくると信じています。

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