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GP2 & GP3 Series @HFDP

HFDPアドバイザーが語る日本人ドライバーの今

GP2シリーズを戦う松下信治選手とGP3シリーズを戦う福住仁嶺選手には、HFDPアドバイザーとして鈴木亜久里と松浦考亮が、現地でさまざまなアドバイスを行っています。その両名に、2人のドライバーの課題などについて語ってもらいました(取材はドイツ戦終了時点に敢行)。

松下信治選手

鈴木亜久里、松浦考亮

――松下選手の戦いぶりについて、どうご覧になっていますか?

亜久里:
力が入りすぎているかな? 行こう、行こうという思いばかりが先行してしまっているように見えるね。

孝亮:
チャンピオンにならなきゃ、絶対に勝つんだという力みがありますよね。

亜久里:
そのせいか、綺麗に走れていない。

孝亮:
うん、マシンがうまく転がってないというイメージですね。

鈴木亜久里、松下信治選手 松下信治選手

――うまくリズムに乗れてないということですか?

亜久里:
それ以前に、マシンの動きがギクシャクしているね。流れるように走らせないと、レーシングカーはダメなんです。ブレーキの踏み方にしても、アクセルの開け方にしても、スムーズじゃないと。でも今の松下は、ブレーキは無駄に強く踏んで、奥まで突っ込んで、マシンの姿勢が綺麗じゃないところからアクセルを開けようとするから、トラクションがかかりづらい。ほんのちょっとの差の話なんだけどね。

孝亮:
シーズン前半戦が特にそうだったんですけど、いろいろ気負いすぎていましたね。本人もそれは分かっていると思うし、その殻を打ち破れるのは本人しかいないんです。

亜久里:
そうだね。なにがうまくいかないのか、自分がよく分かっているのは確かだと思う。でもミスが修正できない。そのミスのせいで、1セットのタイヤで2回のアタックができない。コーナーではみ出しちゃったりしてね。

孝亮:
タイヤを限界まで攻めすぎている部分があるのかもしれないですね。うまくコーナーを回れたときでも「ズルっとなる」と言っていたんです。ピレリタイアは少しでもズルっとさせると、あっという間に性能が劣化してしまう。そういった難しいタイヤをできるだけうまく、前に前に転がしていかないといけないのに、アクセルを無理に開けたりして、タイヤを傷めてしまうことがあるんじゃないかな。

――ここ数戦が絶好調で、選手権でも上位になったチームメートのセルゲイ・シロトキン選手と比べると、予選一発の速さだけでなく、レースペースでも差をつけられている印象です。それもタイヤの使い方から来ているのでしょうか?

亜久里:
それはどうかな。まだ、彼も安定しているとは言えないし。

孝亮:
レースペースの作り方は、シロトキンの方がうまいですね。松下はレース序盤を慎重にいきすぎて、先行車との差が開いてしまう。それでも、タイヤにはまだ余裕があるから、最後に最速タイムは出すけど、トップに届かなかった、みたいな感じの戦いがありましたね。

亜久里:
昨シーズン終了後のアブダビでのテストでは、松下はすごくうまく乗れていたんだよね。彼本来の、とても綺麗な走らせ方でマシンを転がしていたよ。

孝亮:
松下の本来の姿は、その走りだと思うんです。それが今は、プレッシャーで本来の力が発揮できてない。まあレーシングドライバーというのは、レースのプレッシャー、選手権の重圧とどう付き合っていくかというのが、仕事みたいなものですからね。

亜久里:
それについては僕らも彼に言っているし、もちろん本人も分かってるとは思うんだけどね。

――シロトキン選手は、シーズン序盤までは、速さはあったけど結果が残せなかった。それが中盤以降は、修正して結果を出しています。そういう成長が必要ということですか?

孝亮:
彼の場合は、修正してるというより、たまたまぶつかってないというか(笑)。もともとすごくアグレッシブなドライバーで、周囲もそれが分かってきたんじゃないですか? 彼がインに入ってきたら絶対に引かないから、自分が引かないとぶつかってしまう。そういうイメージができていますよね。松下は単独だと速さをみせるんだけど、接戦になったときにシロトキンのようなアグレッシブさはまだないかもしれないですね。

亜久里:
F1ドライバーだって、F1に来た時点で完成されているわけではないんです。足りないところはいっぱいあって、日々成長するわけでね。もちろん、松下も日々成長し続けている。我々はアドバイザーという立場上、厳しいことばかり言うけど、それは松下の速さや能力を認めているからで、それはモナコでの勝利でも証明されている。松下はまだこれから経験しなければいけないことがたくさんあって、今の壁もその一つ。今はちょっと苦しい状況が続いているけど、この殻を破れさえすれば、本来の速さがスルっと出てくるはずだし、もう一段強くなりますよ。

松浦考亮

福住仁嶺選手

福住仁嶺選手

――一方、GP3シリーズで戦っている福住仁嶺選手の印象はどうですか?

孝亮:
福住仁嶺選手は、まだまだ経験不足なので仕方がない部分もあるんですが、走っているときに“いっぱいいっぱい”の状態なんですね。余裕がないので、ピットに戻って来て、マシンをどうするかというエンジニアとの話し合いが、ちょっとうまくかみ合わない。もちろんエンジニアの質問に対して「こんな感じ」とか答えてはいるんですが、できればピットに戻る前のラップの間に、伝えるべきことを頭の中で整理しておいた方がいいんです。それがまだ、ちょっとできていないですね。タイヤの使い方にしても、中古タイヤで走って、そこからニュータイヤに履き替えたときに、バランスがどう変化するか。それを見据えて、どう対応していくか。その辺りをもっと考えて、エンジニアと話し合った方がいいですね。言葉の問題はかなり努力して、意志の疎通はできるようになっています。せっかくそこまでできるようになったのだから、それを生かして、もっと積極的にエンジニアとコミュニケーションを取ってほしいし、それができればもっと速く走れるようになるはずです。