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DAKAR 2017への道 - PART 2
2017年仕様のCRF450 RALLYの進化について
PART 1

 2017年仕様のCRF450 RALLYの進化について

世界一過酷なパリ・ダカールラリーにおいて、Hondaはかつて4連覇を成し遂げた。そして、24年ぶりに復帰した2013年から4年が経過した。さまざまなことを体験、学習しながら年を重ねてきた現代のダカールラリー。9000kmに迫る走行距離、4000kmもの競技区間、そして長いラリー期間は2週間に及ぶ。ライバルとのタイムバトルはもちろんのこと、過酷な環境や不測の事態を乗り越えた先に、真の勝利が待っている。

このラリーへの5年目の挑戦となるワークスマシン、CRF450 RALLYの進化熟成について聞く。

語り手
  • 佐々木 崇 佐々木崇Monster Energy Honda Team ラリープロジェクトLPL代行
    CRF450 RALLY 車体設計PL

    ダカールラリーに復帰した2013年当時から開発に携わる。初年度は休暇を取り、地元のバスを乗り継ぎラリーを追った冒険者。
  • 野田善章 野田善章CRF450 RALLY 完成車テスト担当
    ダカールラリーへの復帰当初から開発に携わる。CRF450 RALLYを走らせるHondaの南米チームのサポートも経験。現場にも精通している。
  • 高橋陽一郎 高橋陽一郎CRF450 RALLY エンジンテスト担当
    2017年仕様のCRF450 RALLYを開発するにあたって、2016年からラリーチームに加わった。以前はATV、UTVの開発に携わるなど、オフロード系エンジンのスペシャリスト。
  • 戸村甲子男 戸村甲子男足回り設計担当
    初年度から足回り設計チームで、ラリー車の足回りにおける進化を見てきた一人。市販車へフィードバックすべく現場で技術を磨く。

2016年から17年にかけての進化のテーマは?

野田
野田
「強く。そして速く」です。16年、戦闘力の評価はライダーにも満足してもらえるものでした。その部分は落とさず磨き込み、17年に向けたCRF450 RALLYで重視したのは信頼性です。ライダーとの信頼性、チームとの信頼性を築けるマシンであること。これまでの経験で得たものを注ぎ、CRF450 RALLYが備えている速さに、強さを加えたのが17年のダカールマシンの特徴です。

エンジンに関してどのようなアップデートをしたのでしょうか。

高橋
高橋
13年にDOHCヘッドのラリー用エンジンを開発し、次回で5回目の挑戦となります。パワーなど性能面ではライダーから好評価を得ています。16年はラリー中に想定外の不具合がありました。そうした部分など、細部に至るまで見落としがないよう開発したエンジンは、信頼性を加えた熟成版と言えます。距離、路面ともハードなチャイナ・グランド・ラリーにおいて、(ホアン)バレダ選手が安定した走りで優勝するなど、安心材料があります。モロッコラリーでは17年のダカールに向けた最終仕様のマシンを投入したのですが、(パウロ)ゴンサルヴェス選手に想定外のトラブルが出るなどしたため、解析と改善を継続して進め、アップデート版のマシンでダカールに臨みます。

佐々木
佐々木
走行データを見るに、バレダ選手は上手くトルクバンドを使い、速度を乗せていきます。ピークパワーを長時間使うよりも、トルク変動の大きな回転域を使う方がエンジンの耐久性に響きます。そのエリアをカバーして、余力を持たせたのが17年仕様の特徴です。同時に、不測の事態が起こってもリカバリーできる、サバイバル性にも配慮して開発しています。

サスペンション回りでのアップデートはいかがでしょうか。

戸村
戸村
ラリーで相手にする路面はさまざまです。リエゾンでは一般道を。スペシャルステージでは、グリップは悪くないが高速で走る衝撃の大きな堅いダート。岩の多いガレ場、そして砂と岩が混ざり合った路面、駆動力が伝わりにくい砂丘など、これらを一日の中で走るのがラリー競技です。17年に向けて、サスペンションは熟成させることを目標に開発しています。16年のサスペンションで大きな不満がなかったこともその理由ですが、リアサスペンションにおけるリンクレシオを変更、ストロークを増やしています。プロリンクのリンクレシオを変更したことで、乗車時にライダーが感じる「高さ感」が減るように仕上げています。この「高さ感」というのは、シートの高さそのものやシートとステップの距離など、静的な要因もあるのですが、マシンを走らせることで生まれる動的なものもあるので、車体設計とも協調しながら仕上げていきました。

佐々木
佐々木
車体設計側でも「高さ感」の究明をしました。テストのとき、まずは静的な高さからアプローチし、シート高を低くしてみました。ライダーが座るシートの部分からリアフェンダーにかけてのスポンジを薄くして感触を確認したわけです。小柄なパウロ選手からはシート高を少し低く、という要望がありましたが「高さ感」の究明はそれだけでは済みませんでした。

野田
野田
シート高を下げるのにも限界があります。サスペンションに大きな入力があると、後輪がリアフェンダー内に上がってきます。快適性に関しても、あまり薄いシートでは長いリエゾン(一般道を使った移動区間)では疲労につながります。その部分の快適さは保ちつつ、「高さ感」を減らす。そのためにサスペンション担当はリンクレシオを見直し、車体設計にはリアサブフレームの剛性バランスを変える、リアタンクの位置を下げるなどしてもらいました。

佐々木
佐々木
CRF450 RALLYではカーボン製一体サブフレームを採用しています。その製法を工夫し、縦方向の剛性を落とすことで、サブフレームそのものにしなやかさを持たせ、走行中の感触をソフトにしています。リアタイヤがストロークするため、シート高を低く、という部分に限界があります。ライダーのコメントを確認しながら、最終的には足回り設計、車体設計が協力して改善しました。

ほかに、サスペンションにおける新たな試みはありますか?

戸村
戸村
開発チームからは、「チャレンジ玉」と呼ばれる新しい技術をダカールに投入ます。16年からなのですが、(ケビン)ベナバイズ選手のマシンに装着しています。その効果はタイムアップ。速く、安全に、そして路面が変わっても最適に、というサスペンションを試しています。これはライダーの意見を聞きながら適用範囲を広げ、市販車への採用を視野に入れています。ラリーを実験室と捉え、技術を磨いています。

チャレンジ玉の適用で苦労した部分は?

戸村
戸村
ラリーマシンのパッケージは完成度が高く、なにか新しい装備を搭載するとなると、車体各部でレイアウトの変更をお願いすることになり、苦労します。車体設計の担当者といろいろな部分で協力しながら進めました。

17年マシンの開発で苦労した部分はありますか?

野田
野田
夏にライダーたちと、レース後のテストを行いました。仕様を変更した部分の評価をするため、乗り換えてもらいながらフィードバックをもらうというものです。テストなので私も同じコースを走り、ライダーの言葉と路面での印象を共有でき、有意義でした。その中で「高さ感」の低減を目指したのですが、数値では表せない、感覚の部分であるため、解決法を見つけるのに時間がかかりました。中には「これなら我慢できる」という回答もありましたが、我々としては原因を突き止めたかった。長いラリーです。我慢できる部分も、それが疲労、ひいてはミスにつながることも考えられるため、潰しておきたかったわけです。画像でライダーの挙動を確認し、なにかをかばっているように見えたら、その原因を話し合ってセッティングを深める。結果的にマシンが進化し、信頼関係が強まりました。

17年のダカールに向けての抱負とファンへのメッセージをお願いします。

佐々木
佐々木
ダカールラリーを経験するたびに、その難しさと魅力を理解できてきています。なにが起こるか分からない。その点で、私たちもライバルも、ギリギリの戦いが多いことが分かりました。速さをそのままに、耐久性を上げる。より強く。その部分を高めることで、結果的に速くなる。今年の開発とテスト参戦した印象では、チーム力が確実に上がっています。ダカールラリーに挑戦する我々をどうぞ応援してください。頂点を目指します。