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目指した結果ではなかったけれど

小山美姫 Wシリーズ開幕戦

日本人として唯一の「Wシリーズ」参戦を叶えた小山美姫(21歳)。5月3日~4日、ドイツ・ホッケンハイムリンクでの開幕戦に臨んだ。ほぼ初めて扱うマシンに、未経験のコース、不安材料を数えればきりがない。それでも、彼女は知っている。自らの手で道を切り拓くしかないことを。怒り、泣き、笑いながら、異国の地で得たものは何だったのか、開幕ウイークの密着記でお届けする。

一人の船出

開催地のホッケンハイムは、ドイツのほぼ中心に位置するフランクフルトから、クルマで南へ約1時間。日本からは約9400km離れている。4月30日に単身現地入りした小山だったが、シリーズ側が手配した航空券は乗り継ぎ便で、しかも途中のフライトに遅延が発生し、東京からフランクフルトまで23時間、ほぼ丸一日かけて到着した。「身体がカチコチだったんで、途中のフライト待ちではずっとストレッチをしてました」と笑顔で話していたものの、疲労の色は漂ったまま。

 

懸念点はもう一つあった。シートの問題だ。Wシリーズのマシンは、F3というクラスのもの。小山が経験のあるF4のマシンとは、車重だけで40kgも異なるなど別格だ。2月にマレーシアで行われたレースに参戦し、初めてF3マシンをドライブ。その後Wシリーズのテストで走行した際に、自分の身体とシートの相性が合わず、作り直す必要があったが、なかなか調整はうまくいかなかったという。

さらには、開幕が近づくにつれてシリーズからの連絡も増えたが、それらはすべて英語。次々とやってくる指示を読み解き、エントリーフォームなど必要書類の提出やレギュレーションの確認など、ドライビング以外の準備も含め、すべて一人でこなさなければならない。

「でも、ここまで来るのに、たくさんの人が私を応援してくれたから、その想いに応えなきゃ」

ファン、スポンサー、さらには日本のレースで知り合ったトップチームのエンジニアなど、さまざまな人からエールを受けて日本を出発した。一人でドイツの地に降り立った小山だが、背中には多くのものを背負っている。言い訳はできない、結果を出しに来たんだ。その目には決意があふれていた。

試行錯誤

Wシリーズのレースウイークは2日間。金曜は45分間の練習走行が午前・午後の2回あり、その翌日の土曜に予選と決勝が行われる。晴れ空の下で始まった金曜の走行1回目、小山はトップと0.918秒差、18台中の7番手。マシンから降りてくるときの表情も晴れない。

「走りのイメージは頭の中にあるけど、まだ実際が追いついていないんです。だからいい走行とは言えない」

走行後のデータを確認すると、高速コーナーで、ライバル勢よりもはるかに速いスピードで進入していた。その分、先のコーナーで曲がり切れずにタイムロス。しかし、ミスではなく、これこそが小山のイメージ通りの走りだった。このスピードで切り抜けられれば、ぶっちぎれる。でも、シーズンは全6戦。まだ先が長い中で、限界を超えればスピンしてマシンを壊してしまうかもしれない。そんなリスクとも戦いながらの試行錯誤。ただ、このあと併催レースのマシンが走行するから、路面状況が改善して2回目にはもっと曲がりやすくなるはず。そうやって先を見据えながら、なんとか自分の走りをモノにしようとトライ&エラーを繰り返していた。

こうして2回目の走行に臨もうとした矢先、雨が降り出した。雨足はどんどん強まり、Wシリーズの走行時には完全なウエットコンディションに。せっかくつかみかけた走りも、路面が変わってしまったことでまたやり直しだ。しかも規則でセッティングの変更は禁じられ、雨に合わせた調整もできないまま走行へ。結果は、トップから約2.8秒差の10番手。1回目よりも順位を下げた。

「雨は好きだし自信もあるけど、1回目で試したことが確認できなかったのが何よりも悔しいです。一周ごとにタイムを上げていけたけど、10番手という結果はストレスですよね。眠れなくなっちゃう(笑)」

天候に邪魔されて、思うような走行にならなかったこと、タイムシートに刻まれた10番手の数字、フラストレーションが溜まっていく中で初日は終わった。それでも、下は向かない。

「明日、無難に走ってポイントが取れればそれでいいのか、葛藤はあります。無難にいくのは嫌いだし、自分の存在を示すためにも、派手な走りをすべきなのかな。でも、どちらにせよ明日は大丈夫ですよ!」

明るく言い切ったが、自分に言い聞かせてもいるようにも見える。万全とは言えない中で、予選と決勝へ向かうことになった。

予選での大失敗

翌日は、予報通り朝から雨。気温は冬並みの7℃まで下がった。この日はセッティングが変えられるので、ウイングの角度などを変更。25分間のタイムアタックでスタートポジションを決める予選に臨んだ。

しかし、コース上での動きが明らかにおかしい。コーナーはもちろん、直線でもマシンが揺れ、明らかに走りづらそうだ。当然のごとく、タイムも上がっていかない。それでも、なんとか走りをまとめてタイムを出そうとする小山。残り時間3分を切り、アタックできてもあと1~2周といったところ。ここで、小山は自己ベストのペースをマーク。このままいけば10番手付近に上がれるかと予感させたところで、他のマシンがコースアウトしてストップ。このマシンを回収するために予選は中断となり、そのまま終了の決定が下された。結果は、後ろから2番目の17番手。2台ずつ並ぶスターティンググリッドでは最後列の9列目となった。

「予選後、他のマシンのセッティング変更を確認したら、みんなそのままかウイングを薄めの角度にしていました。自分だけ、その逆に振っていたんです」

小山は、マシンを降りるなり、エンジニアに食ってかかる。変更したセッティングが明らかに外れたのだ。セッティング変更は自分も同意してのこと、それが外れたことに怒っているわけではない。ただ、ここからどう挽回するのか、勝つために一緒に戦ってほしい。ふがいない結果が重なって、その不満が爆発した。

レースまではあと3時間しかない。

最後列からのスタート

予選が終了すると雨は止み始め、晴れ間も見える空模様に。決勝の直前には路面は乾き、ドライコンディションでのレースとなった。

レースまでの3時間、小山はあきらめなかった。ガレージで他のマシンのセッティング変更箇所を細かく確認し、日本のエンジニアからもアドバイスをもらう。それをもとに決勝へ向けたセッティングの変更。ここからどうやったら表彰台に届くのか、自分にできることのすべてをぶつけた。

コース上のスタート列の間隔は8m。トップの選手から17番手の小山までは、128mも離れている。失うものはない、追い上げるだけ。スタートの瞬間を待ち、集中を高めていく。

シグナルが消えてレースがスタート。小山は抜群の飛び出しを見せる。目の前のマシンがスタートに失敗して止まっていたのを冷静に交わすと、1コーナーまでにさらに2台をパス。その後のコーナーでも追い抜きを決め、クラッシュしたマシンも交わし、1周目で11番手までポジションを上げる。

1周ごとにペースを上げ、前のマシンを追い詰める。どんどん差を縮め、抜けるコーナーで確実に仕留めていく。世界各国に中継された公式映像も、いつしか小山の姿を追うようになり、いくつもオーバーテイクを決める姿にクローズアップしていた。

ポジションは、10台を抜いての7番手。でも、まだ表彰台には届かない。もっと速く、もっと前へ。レース終盤は「まだ終わるな!」と叫びながら、最後の最後までプッシュし続けた。

最終ラップのタイムは1分38秒875。このレースで記録された中で、最速の“ファステストラップ”。さらに、その直前のラップも1分38秒876で、2番目の最速タイム。この日、コース上で一番速かったのは、小山美姫だった。

あふれる涙

レース後、マシンを降りた小山の目からは大粒の涙があふれる。7位が欲しかったわけじゃない、チャンピオンを目指してここに来たはずなのに・・・。

公式映像のインタビューでも、涙をぬぐいながら「この結果には満足していないですし、残り5戦、チャンピオンを目指して全力を尽くします」と決意を口にした。

ガレージへと向かって歩くと、シリーズ関係者、ファンなど、多くの人から「Well done!(よくやった!)」「You're the fastest!(君が最速だ!)」とねぎらいの声をかけられた。サインや写真を求めるファンも詰めかけた。配布されたリザルト表には、「FASTEST LAP Koyama Miki」の文字が刻まれていた。

「日本を背負っているという意識でここにいるので、予選で失敗したときは、「やっぱり日本のドライバーは遅い」と思われてしまったと、ガッカリしていました。でも、ファステストラップを取って、追い上げのレースを見せられたことで、少しは払拭できたかな。全く満足はできないですけど」 。

レース後、小山は全ドライバーの中で最後にWシリーズ本部へ戻ってきた。ガレージに残り、レースでなぜ自分が速かったのか、他が遅かっただけなのか、確認するために全マシンのセッティング変更ポイントをチェック。ノートにはびっしりとメモが取られていた。第2戦へ向けた戦いは、すでに始まっていた。

「これから私の時代が来ますよ!」

最後にそう言って、彼女はバスに乗り込んでいった。

最後列からの10台抜きに、ファステストラップ。鮮烈な世界デビューを飾った21歳は、SNSでさまざまな国のファンから「私のドライバー・オブ・ザ・デイだ!」と称賛された。目指した結果は手に入らなかったが、“Miki Koyama”の名前は間違いなく刻まれたはずだ。

次戦はベルギーのゾルダー・サーキット。今度こそ、本当の一番を手に入れに行く。

小山美姫
レース結果と参戦予定レース

Wシリーズ 2019 RACE CALENDER
FIA-F4 2019 RACE CALENDER

Wシリーズへの参戦によりFIA-F4のレースに参加できない可能性があります。
詳しくは、各報道機関の発表する最新の情報をご確認ください。

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