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#USLETE STORY

挑戦の種は、案外突然現れたりする。
それを楽しめるかどうかは自分次第なんだ

車いすマラソン
喜納翼

以前、青山学院大学の一学生として#USLETEに関わらせてもらったことがきっかけで、今回の大分国際車いすマラソンでトップアスリート選手を取材するという話を頂いた。私は普段学校に通い、友だちと遊んだり、アルバイトをしたり、部活動をしたりしている、至って普通の大学生だ。とてもありがたいことだったが、「初めて」の飛行機、「初めて」の九州上陸、「初めて」の“取材陣に学生が自分しかいない”状況など、私にとって「初めてだらけ」で大きな挑戦が立て続けにあることを知り、正直内心は常にビクビクしていた。「初めて」のことには、往々にして不安や恐怖心が付きまとう。しかし、それだけではないということを私に教えてくれた人がいた。車いすマラソン選手の喜納翼(きなつばさ)さんだ。

大学1年時の事故を機に車いす生活となった喜納選手。2013年からマラソン競技を始めると、その後すぐに頭角を現し、国内外のさまざまな大会で素晴らしい成績を収めている。今回の大分国際車いすマラソンでも女子T34/53/54クラスで2位に入り、日本記録更新を果たした。

レース前日の記者会見にも学生記者として潜り込ませてもらった。笑顔で「レースを楽しみたい」と語っていたのが印象的だった彼女。大きな国際大会のレース、大きな挑戦を前にしてそう言える強さは、一体どこから来ているのだろう。不思議に思ったが、当日の走りも、まさにその言葉を表すような力強さだった。

車いすマラソンは「スポーツ」だった

私にとって初めてづくしだった今回の取材。車いすマラソンというものを観戦するのも、重ねて言えば、パラスポーツを観戦するのも初めてだった。現れたのは、目の前を一瞬で通り過ぎていく見慣れない形状の車いす。普段街でみかける車いすとは違う。そんなマラソンに特化した車いす(レーサーと言うらしい)でこんなにスピードが出るのかと、競技を初めて見る人は誰しもが驚くのではないだろうか。選手たちの駆け引き、最後の最後まで目が離せないレース展開、次々に翔けていく流線型に釘付けになった。テレビで観戦するオリンピックなどの試合と何ら変わらない迫力がそこにはあった。沿道の声援や熱気も凄まじく、当たり前のことを言うようだが、車いすマラソンは「スポーツ」なのだということをビリビリと肌で感じた。私の中のパラスポーツのイメージが覆った瞬間だった。

順位は気にしていないんです

前日の記者会見と同じく、レース直後の大勢に囲まれてのインタビューでレースの感想を聞かれたときも「楽しかった」と語っていた喜納選手。順位がつく勝負の世界で「楽しむ」とは、一体どういうことなのだろうか。レースが終わった翌日に、喜納選手に60分単独インタビューをする時間を特別に頂けた。さっそくその疑問について尋ねると、「順位は気にしていないんです」と喜納選手は笑顔で答えた。今回の大分国際車いすマラソンでも、女子2位、日本記録更新という輝かしい成績を収めた彼女の口からそう聞いたときの感想は“衝撃”の一言に尽きる。勝負の世界に身を置くスポーツ選手が、勝ち負けがとても大事なスポーツ選手がそのような感覚を持っているとは思ってもみなかった。

「超えるべきは、過去の自分のタイム。それを目標に走ってます。その目標に挑む約42kmという長い距離を、1人で走るより誰かと走った方が楽しいに決まっている。強い選手と一緒に走れるなら尚楽しまなければ損だ。そして過去の自分を超えたいんです」と、笑顔で語ってくれた。

彼女がそう考えるようになったきっかけは、小学生時代のバスケットボールチームのコーチの言葉だという。「きついだけのチームがいいのか、楽しいだけのチームがいいのか、きつさの中にも楽しさがあるチームがいいのか」と問われ、どんなことの中にも楽しさを見つけられるのだということに気づいたという。その経験から、けがをした当時も不自由さの中に楽しさがあるだろうと考え、今も練習やレースの中に楽しみを見出している喜納選手。

強い人だ、と思った。どのような状況においても楽しめることが、彼女が世界で渡り合える理由なのだろうと感じた。思えば、レース中の姿を見ていて感じた力強さも、こうした「楽しみたい」と思える心から生まれているのかもしれない。喜納選手の楽しむ気持ちが伝播して、応援する私たちをワクワクさせていたのだろうと思った。

レース翌日に時間を頂き喜納選手にインタビューをさせていただきました。

楽しむことが挑戦する力になる

また、けがをして車いすマラソンという未知の世界に足を踏み入れたときも、不安より「車いすでこんなに速いスピードが出るんだ」という前向きな気持ちの方が強かったと言う喜納選手。

私がもし同じ状況にあったら、きっとそうは思えない。未知の世界は不安だらけで、踏み出すのに勇気がいるものだからだ。私の同世代の友人や後輩にあたる年代にもそう思う人が多いように感じる。そんな、これから未知の世界に踏み出していこうとする人たち、若者たちに向けて、喜納選手からメッセージを貰った。

「未知の世界には不安や怖さもあります。けれど、未知の世界を知ることは新しい世界を知るということです。新しい可能性や発見があることを楽しむことが、挑戦する力になると思います」

喜納選手のその言葉はとても真っ直ぐだった。彼女がそう言うのだからきっとそうなのだろう。レースで見せる強さと、はつらつとした人柄がそれを物語っている。今回のレースでは課題も多く見つかったという喜納選手。それらと向き合い、過去の自分の記録を超えるべく彼女は次のレースに挑戦する。そこでもきっと、「楽しかった」と笑顔で語るのだろう。

未知の世界へ羽ばたけ

喜納選手へのインタビューをはじめ、私はこの大分国際車いすマラソンを通して、さまざまな未知の経験をすることができた。それらを全て楽しめたかといえば決してそうではない。私にとっての未知の世界は、まだまだ不安に満ちている。しかし、それだけではないということを喜納選手は私に教えてくれた。未知の世界には新しい可能性や発見がある楽しさを、姿や言葉をもって示してくれた。

私は来年20歳になる。成人を迎え、社会に出ることは、それこそ未知の世界に踏み出すことだ。きっと大変なこともたくさんある。だが、それを乗り越え、自分の可能性が広がっていくことはとても楽しいことなのだろう。喜納選手の姿を見ていると、そう思えてならない。一歩踏み出す足が、少しだけ軽くなったような気がした。

青山学院大学2年
佐藤英(さとうはな)

※このコンテンツは、2019年11月に取材撮影を行ったものです。