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#USLETE STORY

世界を舞台に挑戦を続ける
トップアスリート二人の原動力とは

車いすマラソン
エレンスト・ヴァン・ダイク
マニュエラ・シャー

「レーサー」と呼ばれる競技専用の車いすで、42.195kmを走り抜ける車いすマラソン。世界のトップ選手ともなれば平均時速30km、最高時速60kmに及ぶ圧倒的なスピードでレースを行う。南アフリカ出身のエレンスト・ヴァン・ダイク(46歳)、スイス出身のマニュエラ・シャー(35歳)は国際大会で常に上位に入る車いすマラソンを代表する選手。世界を舞台に挑戦を続けるトップアスリートたちの原動力とはいったい何なのか。2人に聞いた。

“レーサーで何がしたいんだ?” “これで世界一になる!”

障がいを持って生まれたヴァン・ダイク選手は、幼い時から車いす生活を送っていた。そんな彼がパラスポーツに出会ったのは、特別支援学校時代。スポーツが盛んな学校で、そんな環境が彼を自然とアスリートの世界に導いた。

「スポーツをするのが大好きで水泳、バスケットボール、陸上、卓球など色んなスポーツに挑戦しました。そのうちに全国大会に出るようになり、メダルを取れるようになりました。最も多い時には、1年間に22個ものメダルを獲得しました(笑)。それでさらに、スポーツ競技が面白いと感じるようになったんです」

そんな彼がレーサーと出合ったのは、17歳の時。

「ある日、学校にレーサーのセールスマンがやってきました。私は、最新のテクノロジーが詰め込まれ、見た目もカッコいいレーサーに一目ぼれ。レーサーを買ってと親にねだったんです。父親が“レーサーで何がしたいんだ?”って聞いたので、私は“これで世界一になる!”と答えました」

私には幼い時からスポーツしかなかった。
“競争に勝つ”ことでアイデンティティーを確立してきたんです

南アフリカを代表するパラアスリートとなったヴァン・ダイク選手は、トラック競技、ハンドサイクルマラソンを経て、車いすマラソンの世界で第一人者となった。ボストンマラソンの車いすの部では、歴代最多となる10回の優勝を記録している。長きにわたって活躍を続けるモチベーションを、本人に聞いた。

「次の大会へ出場すること、そしてそこで好成績を収めることを目標に、常に練習を続けました。私には幼い時からスポーツしかなかったですし、“競争に勝つ”ことで自分のアイデンティティーを確立してきたんです」

得意なことを続けていれば、きっと道が開けると思ったんです

一方のシャー選手は9歳の時、事故により車いす生活に。そのリハビリの過程で、パラスポーツに出合った。

「ケガの後のリハビリ中に、テニスやバスケットを始めました。入院していた病院からは、過去に偉大な車いす陸上の選手が何人も誕生していました。そのことを知っていたので、ケガの2〜3年後には自分も車いす陸上を始めました。最初は1週間に1〜2回の練習から始めて、段々と本格的に取り組むようになり、今に至ります」

「“才能がある”と言われてたんですが、学校の友だちとも遊びたかったし、ほかにも色々なことに興味があったので、本気になるまでは時間がかかりました。大会に出るといい成績で終えられたので、大会の度に上のレベルに上がっていけました。ジュニア選手権から始め、次に全国大会、さらにヨーロッパ選手権、そして気付いたら世界のレベルで戦ってました。9歳で事故にあった時には、将来の可能性が全て奪われたように感じました。でも、得意なことを続けていれば、きっと道が開けると思ったんです」

成績がダメでもう引退してもいいかもって悩みましたが、挑戦を続けることを選びました

アスリートとして頭角を現したシャー選手。当初はトラック競技を専門としていたが、やがて大きなターニングポイントを迎えることとなる。

「2012年のロンドンパラリンピックで、選考会も突破し、準備も十分だったのに、本番の成績は全然ダメでした。そこで、競技生活を諦めて引退するか、練習や環境を変えて競技を続け、より上のレベルを目指すか、悩みました。その結果、コーチを始めとしたスタッフを一新し、新しいコーチと新たな練習方法などに挑みました。マラソンを始めたのもその時ですし、スポーツ選手として新たなキャリアがスタートしたのです」

あくまで、挑戦を続けることを選んだシャー選手。マラソンへと転向を果たした彼女は、今や世界を代表する選手となった。今シーズン、ベルリン、ボストン、東京など、世界各都市のマラソン大会で構成される「ワールド・マラソン・メジャーズ」で、年間7レースすべてで優勝という快挙を成し遂げた。さらに、11月に大分県で行われた「大分国際車いすマラソン」では、自身が持つ女子世界記録を更新した。

ヴァン・ダイク選手とシャー選手。お互いの「強さを尊敬しています。」

同じ競技で活躍するトップ選手として、ヴァン・ダイク選手とシャー選手は、互いの存在をどのように意識しているのだろうか。インタビューを通じて、2人に聞いてみた。まずは、ヴァン・ダイク選手から見たシャー選手の印象だ。

「マニュエラはここ2〜3年、世界のトップの座を実力でつかみ取って、それを維持しています。1度だけなら勝つチャンスは多くの人にありますが、勝ち続けるのは誰もができることではありません。勝ち続ける彼女の強さを尊敬しています」

一方のシャー選手も、ヴァン・ダイク選手を心から尊敬している。

「マラソン選手は2〜3週間おきにベルリン、シカゴ、ニューヨーク、日本と世界各国で試合があるんです。そんな中、エレンストが競技と家庭を両立しているのには感服します。父親として家族と時間を過ごし、仕事をし、家を建て、さらに競技のためのトレーニングをする。それをやり抜いている精神の強さを尊敬しています。長い間に渡り世界のトップクラスで戦い続けているのは驚異的です」

不確実な先のことで悩んでいるよりも、今の瞬間を精一杯がんばってもらいたい

夢を追い、実現するには、何が必要なのだろうか。数々の逆境を乗り越えてきた2人に語ってもらった。まずはシャー選手。彼女は「今」をどう過ごすかの大切さを説いた。

「“今がんばる”ことが一番重要だと思います。“今を生きろ”とよく言われますが、本当に大事だと実感しています。不確実な先のことで悩んでいるよりも、今の瞬間を精一杯がんばってもらいたい。今は今しかありませんから」

メダルを取るのに12年以上かかったんです。何かを達成するためにはそのぐらい長い時間が必要なこともある

続いてヴァン・ダイク選手。彼は、自身のアスリートとしての経験をもとに、日々の努力が必要だと話す。

「結果を出すためには、日々の地道な努力が必要だと学びました。私は3回目のパラリンピックで初めて銅メダルを獲得できました。メダルを取るのに12年以上かかったんです。何かを達成するためにはそのぐらい長い時間が必要なこともあるので、絶対に諦めてはいけません」

今を懸命に生き、ひたむきな努力を忘れない。その積み重ねで2人は今、世界のトップで輝いている。彼らの背中を追い、また新たな挑戦者がチャレンジを始める。

※このコンテンツは、2019年11月に取材撮影を行ったものです。