耕す女子たち vol.7

子どもの頃から学校が休みの日は畑仕事を手伝うのが常だった。
見た目はいまどきの女子だけど、農業への気持ちは本物。目下、農家レストランの開業を目指して爆走中!

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

真理子さんはガスパワー耕うん機「ピアンタ」、拓郎さんは小型耕うん機「サ・ラ・ダ」で自家用の大豆畑を耕うん中。
さすがは兄妹、あ・うんの呼吸で作業が進む

今回の耕す女子

青森県黒石市佐藤真理子さん(さとうまりこさん)
1983年生まれ。青森県黒石市出身。畑歴は、物心ついた頃から20年余り。県立黒石商業高校、弘前ホスピタリティーアカデミー(調理科)を卒業後、病院勤務を経て2004年に就農。野菜ソムリエやコーヒーアドバイザー等の資格を持つ。

作業の合間に、歌ったり踊ったり!

茶髪のおだんごヘアーにばっちりメイク。ピアスの穴は右耳に2つ、左耳に5つ(!)もあいている。見た目にはおよそ農業と縁がないように見える彼女が、今回の“耕す女子”、佐藤真理子さん。色白で華奢な体つきからは想像しがたいが、就農して7年目になる専業農家だ。

真理子さんは、青森県のほぼ中央に位置する黒石市で、イネ20町(*)と、ビニールハウスでトマトやアスパラガスなど約3300㎡を栽培している農家の末娘。両親と兄・拓郎さんの4人で農業を切り盛りしている。

「農業は頑張ったぶんの成果が目に見えるところ、作物が応えてくれるところが好き。作業の合間にお兄ちゃんと大声で歌ったり踊ったりしながら、やりたい放題やってます」と、笑顔で話しながら、ガスパワー耕うん機「ピアンタ」でリズミカルに大豆畑を耕していく。

「ピアンタは、女性でも手軽に扱えるところがいい。耕していると、こっちまで楽しくなってくる!」

しばらくして拓郎さんが駆けつけた。農業のかたわら、ミュージシャンとしても活躍する拓郎さんは、人を楽しませるのが得意なようで、拓郎さんの冗談に、真理子さんは声をあげて笑いながら作業を進めていた。

*1町=約10000㎡、1ha

尊敬する父・英次さん(左)と母・隆子さん。ケンカもするが、そんな時は家族会議を開いて本音で話し合う。右端はアルバイト兼拓郎さんのバンドのマネージャー・福士光さん 
直売所に出す加工品専用の野菜ハウスで、夏野菜の植え付け準備。「若者からお年寄りまで、みんなが笑顔で元気になる野菜づくり」が目標
移動用車輪一体型のキャリースタンドを装着すれば、ラクラク移動できる

兄妹ともに笑顔が絶えない、陽気な人柄。聞けば、佐藤家は子どもの頃から笑いの絶えない家庭だったとか。「つくっている人が楽しんでいなけりゃ、いい作物は育たない」というのが、父・英次さんの持論だそうで、「作物をつくっているその人自身が野菜にあらわれる」ことを2人ともとても大切に思っている。「食べる人のことまで考えて、おいしい作物を育てたい」と、拓郎さん。「おいしいと言ってもらえると、疲れもぶっ飛ぶ!」と真理子さん。

農業という仕事を誇りに思っていることが、こちらに伝わってくる。

アスパラガスのハウスは6棟。真理子さんの愛称「マリポコ」にちなんで、「ポコパラハウス」と呼んでいる
規格外のアスパラガスを細かく切って干しアスパラに。汁の実にしたり、クッキーに練り込んで食べる

「つなぎが好きです」と、真理子さん。作業着専門店で買ったり、知り合いにいただいたりで、薄手から厚手まで7〜8着持っている。「下に何を着ても、上からがばっと着てしまえばそれですむところがラクでいい。女性の場合、トイレがちょっと大変ですけど(笑)」

規格外の野菜で
加工品をつくりたい

小さい頃からごく自然に畑仕事を手伝っていた真理子さん。高校卒業を控えて進路を具体的に考え始めたとき、頭に浮かんだのは、やはり“農家になること”だったという。

「けど、農業をやるにしても、何か別の技術を持っていたいと思った。畑の手伝いをしていたとき、規格外のトマトを廃棄することが多くて、いつももったいね〜なって思っていたんですよ。調理師の免許を取って、そういうトマトを加工品にすれば無駄にしなくてすむ。それで、料理の専門学校に行くことにしたんです」

卒業後は、病院で給食づくりをする仕事に就くも、過労で体を壊し、数カ月で退職してしまう。静養中にぼちぼち畑仕事を手伝うなか、改めて農作業の楽しさに気づき、本格的に就農することを決意。2007年に家族で経営方針や役割分担などを話し合った際、真理子さんは“アスパラ大臣”に任命され、以降、アスパラガスを中心にハウス野菜の管理を担当している。

「土づくりからひとりで任されてみると、言われたことだけやっていた時とはまったく違った。責任もあるし、自分からすすんで勉強しなければならないし、遊ぶことも忘れるくらい仕事に夢中になった」

農業への意欲がわき、それ以来、農協の作物別の部会や若手農家の集まりなどにもすすんで参加している。

2年ほど前には、地元の農家のお母さん方とともに、直売所「ふれあいYou市」を運営することになり、加工品づくりの夢がいよいよ叶うことになった。せっかくなら、「いろんな野菜で加工品をつくりたい」と、専用のビニールハウスを設け、さまざまな野菜を減農薬、減化学肥料で栽培することにも挑戦。昨年春には、ハウスの脇に小さな加工所を建て、なすやきゅうりなどの漬物をつくり直売所で販売したところ、大好評だったという。

*1町=10反。1反=10畝。1畝は約100平方メートル。

音楽(レゲエ)やダンスが趣味の真理子さん。拓郎さんとユニットを組んで、ライブで歌うことも。今日は音楽機材を、カセットガスで手軽に電気をつくれるガスパワー発電機「エネポ」につないで練習
燃料の充填はカセットボンベ*2本を本体にセットするだけ。災害時や停電時のバックアップ電源としても便利

*メーカー指定カセットボンベは東邦金属工業株式会社製。
注)エネポを使用する際は、濃度の高い一酸化炭素が発生しますので、屋内での使用は絶対禁止です。

真理子さんのつなぎコレクション。黒のつなぎがお気に入り

夢は農家レストランを開くこと

畑から戻ると、加工所でお母さんの隆子さんが待っていた。さっそく調理台の前に母娘仲良く並んで包丁を握る。農閑期に入ると、こんなふうに一緒に料理をする余裕もでてくるといい、毎年冬には2人で味噌を仕込むのが恒例になっているそうだ。

真理子さんが、穫れたてのアスパラガスをフライパンで軽くあぶり、「食べてみてください」と、こちらに差し出した。お言葉に甘えてぱくりといただき、その甘みの強さに驚いた! アスパラガスは、トウモロコシと同様、収穫後、急激に糖度が下がっていく。つまり、この場にいるからこそ味わえる甘さなのだ。

真理子さんの将来の夢は、農家だからこそできる、穫れたて野菜の本当の味をお客さんに知ってもらえる農家レストランを開くことだ。

2009年、真理子さんは、青森県の「大きく育て!青春・農起業トップランナー育成事業」に、この夢の計画をつづって応募し、塾生の1人に選ばれた。その事業の一環で、昨年9月には東京・表参道で、自分の野菜を対面販売する機会にも恵まれた。その際、空いた時間にデパ地下やスーパーに行ったが、あまりに野菜や果物が高価なことに「すっげぇ、びっくりした」。と同時に、トマトのヘタやアスパラガスの切り口を見ると、だいぶ鮮度が落ちたものが多く、それを都会の人が当たり前の味だと思っていることが、つくづく残念でもったいないと思ったという。いろんな意味で刺激を受けた体験であり、野菜の本当の味を伝える農家レストランづくりへの想いもふくらんだ。

農業のこと、加工や料理、経営のこと、夢の実現にはまだまだ勉強することがいっぱいある。焦りやプレッシャーを感じることもあるが、応援してくれる家族のもと、これからも全力で“爆走”したいそうだ。

農作業で忙しい隆子さん(右)の負担を減らすため、高校時代、夕食やお弁当はお姉さんと交代でつくっていた
念願の加工所。今は漬物がメインだが、今後はお惣菜にも力を入れるつもり
畑のレシピ
  1. 1.なすはヘタを落として細長く切り、水にさらしてアクを抜く。
  2. 2.味噌に、酒とみりんを同量(各少々)加えて練る。
  3. 3.よく水けを切った1のなすに、2の味噌を塗り、赤じその葉で巻く。
  4. 4.油を熱したフライパンで焼く。
  1. 1.酢大さじ2、砂糖小さじ2、粉末だし・昆布茶各小さじ1の割合で混ぜあわせ、タレをつくる。
  2. 2.沸騰したお湯に塩を少々入れ、アスパラガス7〜8本を根元から入れて、かためにゆでる。
  3. 3.ざるにあげたアスパラガスを食べやすい長さに切り、熱いうちに1のタレに漬ける。1〜2時間ほどで味がしみてできあがり。