耕す女子たち vol.6

野菜が好きだから、日本が好きだから、過疎化する故郷に戻り有機農業を始めた飛び切り元気な耕す女子を紹介します。
将来の夢は、自然循環型の地域づくり。

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

ガスパワー耕うん機「ピアンタ」でキャベツ収穫後の畑を耕す正美さん(右)。野菜づくりを教わりに来た梅農家・岩田紀子さん(左)と。
最初は反対していた両親も、今は週末に作業を手伝ってくれることも

今回の耕す女子

群馬県東吾妻町高橋正美さん(たかはしまさみさん)
1982年生まれ、群馬県東吾妻町出身。畑歴6年。東京農業大学卒業後、栃木県の帰農志塾、ウインドファミリー農場などで有機農業を学び、地元へUターン。単身就農し、目下、野菜を育てながら、循環型の地域づくりを模索中。

畑の野菜をがぶり!

高橋正美さんの見事な働きっぷりに圧倒されてしまった。畑の畝間(うねま)をずんずん歩き、無駄のない動きでスピーディーに農作業をこなしていく。よくしゃべって、時にのけぞって笑って、けれど手は休みなく動いていて、仕事も丁寧。野菜に対する思いがこちらに伝わってくる。

草むしりの途中で、イタリア野菜のアスパラガスチコリーをずぼっと抜いた。収穫ばさみで根元の土をちゃちゃっと落とし、そのままがぶり。

「うん、うまい! 私、野菜が大好きなんですよ。それで農家になったようなもんなんです」

足元のキャベツの収穫かすを整理すると、今度はガスパワー耕うん機「ピアンタ」で畑を耕しだした。

「とにかく軽い! 小回りがきくし、アクセルの操作もラクでいい」と、正美さん。作業を終えると、「ピアンタ」を軽々と持ち上げ、軽トラの荷台にひょいっと乗せた。いや〜、惚れ惚れするほどたくましい。

甲田崇恭さん(左)は、こだわり農家から直接野菜を仕入れ、軽トラで移動販売している八百屋さん。正美さんの野菜も扱っており、よき友でもある

地元で循環型の生活がしたい

正美さんは、3年前、生まれ育った群馬県東吾妻町の山間の集落で、女性1人、農業を始めた。もともと環境問題に関心があり、いずれは海外で砂漠の緑化活動をしようと東京農業大学に進んだが、大学1年の時に鹿児島県・喜界島の農家で実習した体験が転機となり、農業に気持ちが傾いていったという。

「食べるものを育てたり、牛の世話をするのはやっぱり楽しいなって思ったんです。それと、食料自給率が40%を切るような日本の農業の現状や、実家に帰省するたびに過疎化が進んで周りの山里が荒れていく様子を目の当たりにして、このままじゃ日本が危ないって本気で思いました。地元に戻り、循環型の生活をするにはどうしたらいいか考え、有機農業をやろうと思ったんです」

女性1人で車に乗せられるほどコンパクトで、収納や移動も便利なピアンタ
家庭用カセットガス*が燃料なので、持ち運びや保管、燃料の交換がとっても簡単 

*メーカー指定カセットボンベは東邦金属工業株式会社製。

お気に入りのアイテムは「ゴム足袋です!」。夏は暑いし、冬は冷たいが、長靴と違って、畑で思い切り走れるのがいいんだとか。ズボンは、ポケットがいっぱいついているものを愛用。「種まきする時、種の袋を入れておけるのでとても便利なんです」

卒業後は、栃木県那須烏山市にある「帰農志塾」で2年半、研修生として有機農業を学んだ。その後、養豚と養鶏の農家で4カ月研修してUターン。勤め人の両親からは「自営で、しかも1人でやるなんて!」と反対されたが、正美さんは役場に営農計画書を提出して新規就農者の認定を受け、県から借りた資金で必要な資材を購入、農家として出発した。

実家は農家でないため畑はなかったが、近所の人が「あいている土地があるよ」と声をかけてくれた。野菜の販路開拓のため、出身高校の職員室へ野菜を販売しに行くと、仲良しだった先生が事情を知って、高崎市内にある土地を貸してくれた。

今は東吾妻町で1町3反(*)、高崎市で8畝(せ)ほどの畑を借り、無農薬、無化学肥料で野菜を栽培。「エコビレッジ環○和(わわわ)」の名で個人宅やレストラン、八百屋や朝市に出荷している。

高崎市の畑へは、自宅から車で1時間ほどかかる。遠距離通勤は大変だが、東吾妻町は標高700mで冬場は雪に覆われてしまい、露地野菜はまずできない。しかし、町中に近い高崎市の畑では青菜や大根ができるので、年間通して栽培するには助かるそうだ。また、 「家のそばの畑しかなかった1年目は、ほとんど山にこもったような生活をしていて、1人で農作業していると、時折、この世には私1人しかいないような気持ちになって、どーんと落ち込むことがありました。高崎市の畑を借りてからは、作業あとにそのまま着替えて遊びに行ったり、農や食のイベントに顔を出したりしてつきあいも広がり、そんな気持ちになることは少なくなりました」という。

そんな中、知り合ったのが梅農家の岩田紀子さんだ。岩田さんは、正美さんのつくる野菜の味に感動。この春から野菜づくりを学びに畑にやって来るようになった。今後は、もっと本格的に研修生を受け入れることも視野に入れており、すでに自宅近くに古民家を借りているそうだ。

*1町=10反。1反=10畝。1畝は約100平方メートル。

種まきが大好き。「芽が出るとうきっとする」と、正美さん
間引いた日野菜カブ。同じ野菜でもいろいろな品種を育てて楽しむ。「生物の多様性と同じように、野菜の多様性も大切だと思う」
岩田さん(右)は、「農Cafe」と称して誰もが気軽に農に触れられるイベントを企画、開催しており、正美さんもよく顔を出す

食べることが大好きだから
つくる手間は惜しまない

さて、自宅に戻ると、正美さんは土にまみれた手を丁寧に洗い、シャツの袖をまくりあげて、寝かせておいたうどんの玉をこねだした。

「お父さんが、手打ちうどんが大好きで、子どもの頃、日曜日になると家族でうどんを打っていたんです。この地域は粉食文化があって、おやきなんかもよくつくったんですよ」

生地を均等に切る手つきも慣れたもの。ゆであがった麺を試しに1本いただくと、こしといい塩加減といい、絶妙のあんばいだった。

「食べることが大好きだから、手間は惜しまない。だって、1日3食として、1年に1000回ちょっとしか食べるチャンスがないんですよ。どうせならおいしいものを食べたいじゃないですか」と、正美さん。

この日つくってくれた「サラダうどん」のタレに入れた唐辛子味噌や「炭酸まんじゅう」の具の味噌や梅ジャムも正美さんの手づくり。味噌は、帰農志塾で教わって以来、麹から自分でつくる。大豆と麹の割合、塩加減はおばあちゃんのレシピだとか。

「ゆくゆくは、野菜を届けているお客さんに来てもらって、農産加工の体験教室などもやりたいんです。

“エコビレッジ環○和”の“環”は環境、“○”は人と人をつなぐ、“和”は人と人の調和という意味を込めています。将来的には地域の中で物やエネルギーが循環でき、子育てなども協力しあってできる、自然循環型の村づくりをするのが私の夢です」

「基本的に何でも手づくりします。いちいち買いに行くのが面倒だし、もったいないじゃないですか」。うどんづくりは、小学生の頃からの腕前
いずれ研修生の受け入れや農産加工の体験教室に利用するつもりで、空き家になった養蚕農家の古民家を借りた
愛犬のサブロー。もうすぐ子ヤギがやってくる予定。いずれ牛も飼いたいと思っている
豆もいろいろ栽培。左から青大豆、鞍かけ豆、小豆、大豆(八郷在来)、黒豆。煮豆や浸し豆、味噌に加工して食べている
畑のレシピ
  1. 1.ゆでたうどんに、食べやすく切ったゆで野菜(お好みの旬の野菜)、彩りに錦糸卵やカブの桜漬け(酸味のある漬物でよい)などをのせる。
  2. 2.タレをつくる。醤油・酢各大さじ1、ごま油・にんにく醤油各小さじ1、蜂蜜・レモン果汁各少々に、玉ねぎと間引いた日野菜カブ(お好みで)のみじん切りを加えて混ぜる。唐辛子味噌(豆板醤でも可)を入れてもおいしい。
  1. 1.小麦粉1kg、砂糖70~80g、塩小さじ1、重曹大さじ1/2を混ぜ、加減を見ながら水を加えてこね、耳たぶぐらいのかたさの生地にする。
  2. 2.生地を12等分に切り分けて丸める。
  3. 3.生地を丸く手で押し伸ばし、自家製味噌や梅ジャムなど好みの具を入れて包む。具を入れ過ぎると生地からはみ出てしまうので注意。
  4. 4.蒸気のあがった蒸し器に入れ、10分ほど蒸す。