季刊うかたま
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写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

今回の耕す女子
- 神奈川県開成町田中早保さん(たなかさほさん)
- 1980年生まれ、神奈川県小田原市出身。畑歴は6年。夫と息子の3人家族。東京農業大学卒業後、農業高校の非常勤講師やアルバイトなどを経て、農業を始める。昨年、出産するまでは、小田原市内の高校で総合学習の時間に農業の授業を担当。
畑に生えた草で土づくり
もんぺ姿に昔ながらのおんぶひも。昭和の香り漂うスタイルが、風景に馴染んでいて、かつ、とてもかわいい。田中早保さんは、昨年10月に出産して以来、もっぱら“福ちゃん”こと、一人息子の福太郎くんをおんぶしながら野良仕事をしているとか。
秋晴れのこの日は、ご主人の大樹さんと、自宅近くの畑で耕うん作業。福ちゃんをおんぶした早保さんが、ガスパワーミニ耕うん機「ピアンタ」を使い、ぐんぐん耕していく。
「小さくて軽いのに、思いのほか深く耕せるし、パワーもある」
耕うん機の振動が心地よく伝わるのか、福ちゃんはいつの間にかすやすやと眠ってしまった。
早保さんが、ここ、神奈川県西部の足柄地域で農業を始めて6年になる。南足柄市の山間部にあるつくり手のいなかった1反のみかん畑を任されたのが始まりで、当時交際中だった大樹さんが、大分県にある「なずな農園」での研修を終えたのを機に、足柄地域のあちこちに田畑を借り、二人で本格的に農業を始めた。今は畑8反(*)と田んぼ2反で、「なずな農園」の赤峰勝人氏が提唱する「循環農法」により、無農薬、無化学肥料で野菜や米、みかん等を栽培、個人宅やカフェに届けている。
*1反は約1000平方メートル。


「循環農法」は、ごく簡単にいえば、畑に生えた草をその場に返して土づくりを行なう農法だという。草が生えていないような畑なら、別の畑で刈った草を持っていく。生ごみなども土づくりに利用しており、畑の一角に米ぬかをかけ、草をかぶせて寝かせているとのこと。これがいずれ分解され土に返り、おいしい作物をつくってくれるのだ。
地域にさまざまな循環を
早保さんと大樹さんはともに、東京農業大学の出身だ。といっても、 関心があったのは農業ではなく、砂 漠の緑化など、国際協力の分野だそ うで、サークルも、農業で国際協力 することを目的とした「アジア・ア フリカ研究会」に所属していた。
農業との出会いは、大学1年の夏。 サークル活動のひとつ、岩手県岩泉 町での農業実習合宿でのことだった。 「この合宿はすごいんですよ。朝 5時に農大名物『大根踊り』をして から各農家に散っていくんです。養 豚農家では、豚舎の糞かきから始ま り、いろんな仕事を任される。私は ここですごく影響を受けました。体 力、気力……この体験がなかったら、今の自分はなかったんじゃないかと 思うくらい」と、早保さん。
卒業後は、農業高校で1年間非常 勤講師として働いた。いっぽう、大 樹さんは在学中、農業実習先の有機 栽培農家で食べた野菜のおいしさに 感動して農業に目覚め、卒業してま もなく「なずな農園」に弟子入り。 当時はまだ農業をやろうという気 持ちはなかったと、早保さんはいう。 「高校では農業経営も教えていまし たが、新規就農するには最低いくら 必要で、とか、教科書に書いてある 通りに教えていたほどで、農業を始 めるのは絶対無理だと思っていたんです。



**指定カセットボンベは東邦金属工業株式会社製。

オーガニックコットンのカットソーは、京都「手染メ屋」のもの。もともと柿渋で染めた憲法色だったが、虫がよってこないといわれる藍で染め重ねてもらった。もんぺは近所のホームセンターで購入。「ゆったりしていてしゃがみやすいので、農作業に最適。妊娠中もなんの抵抗もなく着ることができました」