耕す女子たち vol.39

埼玉の鳩ケ谷駅の程近くにゆったりとした時間が流れる農園があります。
自然の恵みを活かし手づくりを楽しむ耕す女子の暮らしぶりをお届けします。

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

小型耕うん機「こまめ」を使い、秋冬野菜を植える畑を耕す肥留間佳子さん。機械の扱いに慣れた夫の広幸さんが見守る

今回の耕す女子

埼玉県川口市肥留間 佳子さん(ひるまけいこさん)
1971年、埼玉県さいたま市生まれ。神奈川県の助産師学校を卒業後、大学病院、産婦人科クリニックに11年勤務。2006年に結婚して就農。畑歴13年。

まるでテーマパークのよう

今回の耕す女子、肥留間佳子さんが夫の広幸さんと切り盛りする「肥留間農園」は、家々や工場に囲まれた都市近郊にありながら、とてもバラエティに富んでいて、まるで農のテーマパークにいるかのよう。

門をくぐると、正面には江戸時代後期に建てられたという立派な母屋。その玄関先から畑に続く小道の脇には、鶏小屋があり、ヤギ小屋があり、ピザを焼いたりベーコンを加工するための石窯があり……。屋敷林の一角にはシイタケ栽培用の原木が、その向こう側には養蜂箱が見える。

ケヤキやイチョウ、ゆずや柿の木など数えきれないほどの樹木。自生するミョウガやフキ。さらに奥に進むと、そこが野菜畑。多くの種類を少量ずつ育てており、地元の直売所で販売する野菜たちがじりじりとした太陽の光を浴びている。畑は計4反5畝*、他に敷地の周辺に田んぼが2反3畝ほどあるという。

ふと見ると、青々とした草がわさわさと茂っている。これは、藍?

「そうです! 草木染めが趣味で、藍の生葉染め用に栽培しているんです。今、かぶっている手ぬぐいも、藍で染めたものなんですよ!」と、佳子さんはにっこり。

畑での日々の仕事は、タネまきや芽かき、収穫、草刈りなどの細かな作業。機械を使うような大仕事は、ほとんど広幸さんにまかせっきりだが、今日は小型耕うん機「こまめF220」を使い、秋冬野菜を植えるための畑の耕うんと畝うね立た てに挑戦。広幸さんにコツを教わりながらゆっくりと畑を耕し、その後、アタッチメントの培土器を取り付けて畑を往復すると、あっという間に畝ができあがった。

「〝こまめ〞は、コンパクトで女性でも使いやすいから、一人でささっと耕したいときにいいですね。培土器をつければ、いろんな形の畝がラクに、きれいに立てられるのもうれしいです」

畑で休憩中のヤギのリュウノスケくんが、ひと仕事終えた佳子さんを遠くからじっと見つめている。

*1反=300坪、約1,000㎡/ 1畝=30坪、約100㎡

ナス畑の草取り。ヤギのリュウノスケくんも草を食べながらお手伝い
培土器をつければ畝立ても早くて楽ちん。黄色の羽根の部分は開閉できるので、畝の幅の広さも調節可能
草が残った畑を「こまめ」で耕うんする広幸さん。畝の間や狭いところ、使いたい場所だけ耕せるのでとっても便利

夏場の野良着は、もんぺにTシャツが定番スタイル。この日のもんぺは綿100%の久留米絣。頭に被った涼しげなブルーの手ぬぐいは、藍の生葉で染めたもの。履物は長靴ではなく地下足袋を愛用。「この家に来たその日に、夫に“これ履いて” って渡され、以来、地下足袋以外は履いたことがありません」

自然の恵みを活かした
手づくりの暮らしを

助産師としてのキャリアを持つ佳子さんが、今、こうしてもんぺ姿で畑を耕しているのは、30歳になった頃、大人向けの自然体験プログラムを行なう『Be-Nature School』の講座に参加したのがきっかけだ。

当時、大学病院に勤めていた佳子さん。仕事や将来のことでいろいろと思い悩んでいたが、休日に海や山、畑に出かけて自然と触れ合い、自分の心と体に向き合う体験を通じ、次第に元気を取り戻すことができたという。また同じ頃、以前から興味があったマクロビオティックの半断食セミナーを受講して、「食で体が変わる」ことを実感。仕事柄、「食」が命と直結していることは理解していたが、あらためて食生活を見直すきっかけになった。

そんなとき、自然体験プログラムを通して広幸さんと知り合い、2006年に結婚。広幸さんで21代目という農家の嫁となった。

「この家に嫁いでよかったって思うのは、おいしいものが食べられるところかな(笑)。それまでシイタケをおいしいと思ったことなかったのに、原木シイタケがおいしくて!」

天日干しのお米、とれたての野菜はもちろん、母屋のまわりには果樹や野草もいっぱい。佳子さんは、自然の恵みを活かした手づくりの暮らしを楽しむことに夢中になった。

今や冬の恒例の手仕事となった味噌づくりは、最初は講習会に行って手順を教わるところから始まったとか。農家の方から「米麹も自分でつくれるよ」と聞き、翌年から麹づくりにもチャレンジ。自信がついてきた09年には農園で味噌づくりワークショップを開催した。今も現役で活躍中の母屋の竃かまどで炊いた大豆でつくる味噌は「ひと味違う」と評判で、次第に味噌づくりの輪が広がった。最近は、「子どもにお味噌ができるまでを見せてやりたい」と、子連れで参加する地域のお母さんが増えてきたという。

大豆が煮えるまでにどれだけ時間がかかるかを知ってほしいから、〝大豆をつぶして混ぜるだけ〞ではなく、竃で大豆を煮るところからスタートする。煮ている間に腹ごしらえをして、その後、大豆をつぶす作業に突入するのが「肥留間農園」流のワークショップなのだそうだ。

摘み取った藍の生葉をミキサーにかけ、青汁の状態で染める。煮出したり、乾燥させたりとさまざまな方法で、いろんな素材を染めて楽しんでいる
綿やウールの毛糸を藍で染めて編んだカーディガンとショール。自分で紡いだ糸を染めて編むのが夢

わくわくする気持ちを伝えたい

夏場の藍染めのワークショップや冬のもちつき会も、定番のイベントだ。こうして人を呼ぶのは、楽しい半面、手間も時間もかかるかと思うが、「いえいえ、ようは自分がやりたい、その延長線上で開いているんです。一人より何人かでやるほうが楽しいでしょう? 家と畑を往復する生活だと、私がしゃべる相手って、夫とお義母さん以外は、ヤギとイヌ、ネコくらい(笑)。たまには人に来てもらって、わいわいやりたいんです」

ジャムや佃煮、お茶、梅干し……食べものだけではなく、かゆみ止めのへびいちごクリーム、米ぬかカイロなど、自分の手で暮らしをつくることへの佳子さんの興味はつきない。目下、趣味の草木染めで羊毛を染め、糸を紡ぎ、何か身に着けるものをつくることを構想中だそうだ。

「何かをつくる、その過程が好き」と、佳子さんはいう。

「今は何でも時短で、手間を省くことばかりが注目される時代。でも、手間をかければその分おいしいし、おいしいと人は幸せな気持ちになる。食材への愛着も湧く。私はそのわくわくする感じを伝えたいんです!」

熱い思いを胸に秘め、佳子さんは今日も畑を耕し、〝つくる〞暮らしを楽しむ。

竹細工を編む広幸さん。佳子さん同様、つくることが好き。すきま時間を見つけては目下、修業中
コミュニティカフェ「薪まきカフェ」とは地域のイベントで知り合い、野菜を使ってもらうようになった。家族で食事に行くことも
嫁いで以来13年目となる梅干しづくり。赤じそを使わない白梅が好き
へびいちごを焼酎に漬けておいた液と、蜜蝋、オリーブオイル、精油で手づくりしたかゆみ止めクリームは効果抜群
畑のレシピ
  1. 1.1/2袋分のえのきを3等分に切って、さっとゆでる。
  2. 2.丸オクラ(普通のオクラでも可)5~6本を好みのかたさにゆで、水にさらし、冷めたら小口切りにする。
  3. 3.梅干し1個の種を取り除き、梅肉を叩く。
  4. 4.3をみりん少々と合わせ、1、2と和える。
  1. 1.ナス2本は半月切り、玉ねぎ1/2個はせん切り、にんにく1かけはみじん切り、自家製ベーコン80gは薄切りにする。
  2. 2.オリーブオイルとにんにくを熱し、香りが出たら玉ねぎ、ナス、ベーコンを加えて炒める。
  3. 3.2にトマトを煮詰めたピューレを加え、固形コンソメ1個、塩、こしょうを入れて数分煮込む。
  4. 4.ゆでたスパゲッティを3に加えて完成。