耕す女子たち vol.38

縁あって農家に嫁ぎ、ジュエリー業界から農業の世界へ。 都市部の片隅にある小さな農園で夫婦二人三脚畑を切り盛りしている耕す女子を紹介します。

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

夏野菜を植えるための畑をガスパワー耕うん機「ピアンタ」で耕す関田未歩さん。夫の和敏さんと二人三脚で農園を営んでいる

今回の耕す女子

東京都世田谷区関田 未歩さん(せきたみほさん)
1979年千葉県松戸市生まれ。畑歴9年。文化女子大学(現・文化学園大学)卒。文化服装学院ジュエリー科助手を経てジュエリーメーカーに勤務。2008年、和敏さんと結婚。09年、退職して就農。小学2年生と1歳半の男児の子育て真っ最中。

都市部にある小さな農園で

東京・世田谷区の閑静な住宅街。三方を戸建て住宅と集合住宅に囲まれた小さな農園「そらまめ農園」では、名前の由来であるソラマメが収穫期を間近に控えてすくすくと成長中。ふくらみ始めたさやが、初夏を思わせる青い空に向かい、背筋をピンと伸ばすように実っている。

「こっちが〝陵りょう西さい一いっ寸すん〞という一般的な品種、あちらのさやが細長いのが〝ファーベ〞といって、生でも食べられるイタリアのソラマメです」と、関田未歩さん。

よく見ると、ソラマメにはつきもののアブラムシが茎や葉にびっしり。無農薬、無化学肥料で野菜を育てている「そらまめ農園」では、栄養を吸い取ってしまうこの害虫を「絵筆を使って退治する」とのこと。ひと株ずつ筆で虫を払い落とした後、でんぷんを水で溶かしたものや、酢や焼酎などが材料の手づくり自然農薬「ストチュウ」を吹きかけて防虫する。

150坪*ほどの露地畑は上手に区分けされ、小さな畝うねが何本も立っている。ソラマメの他にも、スナップエンドウ、ラデッシュ、カラシナなどなど、野菜がいっぱい。

「小さな畝ごとに順繰りに野菜を栽培しているので、畑全体をいっぺんに耕すことはほとんどないんです。収穫し終わったタイミングで必要な時にひと畝ごと耕しています」と、未歩さん。この日は、夏野菜用に畑の南側の2本の畝を、ガスパワー耕うん機「ピアンタ」で耕した。

「ピアンタは、機体が軽いので扱いやすいし移動もラク。燃料がカセットガスなので、気軽に使えるところがいいですね」

米ぬかを主体にした発酵肥料による土づくりで見た目にも健康そうな土が、「ピアンタ」で耕すとさらにふかふかになってきた。

*150坪=5畝、約500㎡。

無農薬栽培のため防虫ネットでしっかり虫よけ。普段食べている野菜の育つ様子を伝えたくて、畑が見えやすいよう垣根はつくっていない
スナップエンドウを収穫。マンション育ちの未歩さんだが、小学生の頃、1坪ほどの菜園を借りて両親と作物を育てていたとか
葉物野菜をまく畑を耕す和敏さん。「知らない人の口に入るより、同じ景色を見ている地域の人に食べてもらえたらうれしいです」
トマトも種から苗づくり。ミニトマトだけで8品種栽培。温室でいかに効率よく栽培できるか栽培法を思案中
農薬には頼らず、ソラマメについたアブラムシを絵筆で退治。「子どもがよく食べるようになり、いっそう食べものの安全性が気になるようになりました」

「風通しのよい素材の服を選んでいます。夏なら麻。といっても、ユニクロのシャツですが(笑)」。日焼け対策は、手ぬぐいで顔を覆い、つばのある帽子を被る。履物は足首までのガーデニングブーツを愛用。「長靴は蒸れるからイヤなんです。このブーツはあがりまでラバーになっているので、少々濡れても問題ありません」

リストラを機に農業へ

未歩さんが夫の和敏さんとともに農業を始めたのは、9年前のことだ。学生時代に山岳部の活動を通じて知り合った和敏さんは、都市農業を担う農家の長男。いずれは2人で家を継ぐつもりで2008年に結婚したが、未歩さんはジュエリーデザイナーとして、和敏さんは精神保健福祉士としての仕事をしばらく続ける気でいた。ところが翌年、未歩さんがリーマンショックの影響により突如、リストラ勧告を受ける。

「この時、夫の父が〝畑をやってみないか〞と、声をかけてくれたんです。もともと土いじりや自然に触れるのが好きだったので、やってみようと。義父は洋ランを施設栽培していて畑はなかったので、生産緑地としてハナミズキを植えていた農地を開墾しました」

40本ほどのハナミズキを業者に依頼して伐根。残った細かい根っこや、畑から出てきたブロックや人形などのガラクタはスコップで少しずつ掘り上げて取り除き、整地した。

「最初は、荒れた土地でも育つと聞いてジャガイモを植えたんですが、ハナミズキの後で土が酸性だったせいか、数も大きさもとれず、まったく育ちませんでした。ナス科の連作がいけないことも知らずに後作でトマトを植えたり、牛糞や鶏糞をまいたらものすごい害虫がついたり…」

何度となく失敗を繰り返しながら、農業の本やインターネットで情報を集めて実践し、自分たちの畑に合う野菜づくりを試行錯誤した。

なかでも参考になったのが、東京農業大学グリーンアカデミー講師・福田俊さんの「混植・連続栽培」。野菜が育つ時期のズレを利用して一つの畝で複数の野菜を育てる方法だ。

「これなら狭い畑を最大限に活用できるし、いろんな種類の野菜をお客さんに出せる。例えばダイコンの種をまいたら、そばにレタスの苗を植えると、ダイコンに虫がつかないなど、相乗効果も狙えるんです」

こうして野菜を栽培し続けているうちに、次第に元気な作物が育つようになってきた。「微生物が働いてくれている、土って生きているんだなって、体感しています。農業ってこういうところがおもしろいです」

渓悟(けいご)くん(7歳)と達月(たつき)くん(1歳)と畑に来ることも。朝晩の食事はいつも家族4 人で。「そういう豊かな時間を過ごせるのも、農家の暮らしの魅力の一つ」と、未歩さん
種は土に直接まかず、湿ったティッシュに包んで和敏さんの体温で芽出し。「昼は胸ポケットに、夜は枕の下に入れて寝ています」 

地域でのつながりを大切に

2013年、「ソラマメのさやのように、常に上を向いているような気持ちでいたい」という思いを込め、「そらまめ農園」と屋号をつけた。畑の入口で野菜の直売を始め、農作業中に声をかけられたことが縁で、地元で人気の台湾料理店に野菜を卸すようにもなった。

3年前には、それまで兼業で取り組んでいた和敏さんがいよいよ退職。農業に専念することに。精神保健福祉士として働いていた時代、地域の中でいかに人とのつながりが大切かを痛感したという和敏さんは、農業を続けていく上でも「畑で生まれた出会いやつながりを大切にしていきたい」と話す。今は地域のコミュニティカフェなどにも野菜を出荷。駅前広場で行なわれるイベントに積極的に出店し、新たな出会いが生まれているそうだ。また、「野菜のことをもっと知ってほしい」という思いから、未歩さんが関わる地域サークルや、和敏さんが指導者として参加しているボーイスカウトの子どもたちに農作業体験の場として畑を開放。一緒に栽培して料理して、とれたての野菜を味わうワークショップなどを開催している。

数年前から、和敏さんの父が洋ラン生産を縮小し始めたので、空いた温室を活用してブルーベリー栽培やミニトマトの水耕栽培に乗り出した。大型の温室をどう生かしていくか2人で模索中だ。

「本格的なスタートはこれからです。先のことはまだわかりませんが、畑でも家でも、365日、常に夫婦一緒の農家の生活って、けっこう楽しいです」

こういうと、未歩さんは少し照れながら微笑んだ。

和敏さんが子どもの頃から通う近所のパン屋「木村屋ベーカリー」で委託販売をお願いしている
コミュニティカフェ「薪まきカフェ」とは地域のイベントで知り合い、野菜を使ってもらうようになった。家族で食事に行くことも
畑のレシピ
  1. 1.さつまいも中1本は皮をむいて蒸し、つぶす。
  2. 2.米粉もしくはかたくり粉大さじ3を加えて練る。
  3. 3.エダマメやコーン、ハム、チーズなどお好みの具を入れ、食べやすい大きさに丸める。
  4. 4.オーブントースターで10分ほど焼く。
  1. 1.スナップエンドウは筋を取り除き、ゆでる。
  2. 2.ゆであがったスナップエンドウに塩昆布を適量加えて和える。
  3. 3.30分ほどおいてスナップエンドウに塩味をなじませ、ごま油、白ごまを少量かけて混ぜて仕上げる。