耕す女子たち vol.31

エディブルとは“食べられる”という意味。
食卓を彩る野菜や花たちに魅せられて農園を開いた仲良し夫婦を訪ねました。

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

ミニ耕うん機「こまめ」で畝間を耕す昭子さん。夫の太郎さん(右)とは、お互いを「太郎ちゃん」「あっこ」と呼び合う仲良し夫婦

今回の耕す女子

千葉県いすみ市青木 昭子さん(あおきあきこさん)
1989年ケニア・ナイロビ生まれ。1歳から千葉県いすみ市で育つ。畑歴10年。千葉県立農業大学校卒。農業生産法人勤務を経て、2014年10月から千葉県山武市の有機農園「サンバファーム」「三つ豆ファーム」「ナナメファーム」で1年間研修。15年1月に結婚。16年1月、いすみ市で農園「タロとあき」をオープン。

野菜と花とハーブの畑で

「ペチュニアっていう、よく見かけるこの花も、じつは食べられるんですよ。これはナスタチウム。和名でいうキンレンカも、エディブルフラワーとしてよく使われています。紫色のものが人気なんです」

竹林と雑木林に囲まれた畑を歩きながら、青木昭子さんは、食べられる花=エディブルフラワーを次々と紹介してくれた。手渡されたオレンジ色のナスタチウムの花びらをぱくり。ぴりっと、どこかクレソンを思わせる味がする。

一反*半ほどの畑には、トマトやキュウリのような馴染みの野菜に混じって、色とりどりのエディブルフラワーがそこかしこに植わっている。耳慣れない野菜、ハーブなどもいっぱい。食感がアスパラに似ているという中国野菜のカイラン、イタリア料理に使われるタルティーボ、食用の一口ひょうたんなどなど。これらの珍しい野菜や花は、主に地元の飲食店や料理教室に納めたり、マルシェなどで販売しているそうだ。

夫の太郎さんが、軽トラックにミニ耕うん機「こまめ」を積んでやって来た。昭子さんは、狭い畝間や空いている畑をあちこち耕うん。竹やぶを開墾して畑にしたこの場所は、耕していると今でも、地下を這っていた太い竹の根の切れ端が出てくることもしばしばだ。その根を手で取り除きながら耕し、その後、アタッチメントの培土器を手早く取り付け、畝を立てた。

「『こまめ』は深く耕せるし、培土器を使えば畝もきれいにできる。ここには枝豆の種をまこうかな」

昭子さんは、まっすぐにのびる畝を見て、ほっと息をついた。

(注)食用として栽培・販売されていない花は食べないでください。

*1反=約1000㎡、300坪

「こまめ」にアタッチメントの培土器を取り付ければ、形の整ったきれいな畝をつくることができる
農業機械、肥料設計のことなど、昭子さんが苦手とする部分は「太郎ちゃんがしっかりフォローしてくれます」
野菜としては珍しい食用の「一口ひょうたん」。厚めにスライスしてソテーすると美味**

**観賞用のひょうたんは食べられません

畑仕事の時は「グリーンマスター」という作業用の長靴がお気に入り。「ウエットスーツの素材でできているから、水に強いんです。足にフィットする作業していても、泥が入ってくることがないんです!」この日着用のもんぺは、おばあちゃんのお下がり。家の蔵で見つけたとか

“食べられる花”に魅せられて

昭子さんは、太郎さんとの結婚を機に、昨年末、実家のある千葉・いすみ市に戻り、農園「タロとあき」を始めた。自宅周辺の4反の田んぼ、7カ所に点在する5反の畑で、米と野菜、エディブルフラワーを無農薬、無化学肥料で栽培。冬の間は玄米もちの加工なども手掛けている。

もともと身体を動かすことが好きで、農業を仕事にしたいと、高校卒業後、千葉県立農業大学校に進み、農学を学んだ昭子さん。

「でも、その頃はまだ軽い気持ちでした。実家は兼業農家で、小さい頃からシイタケの菌打ちをしたり、田んぼの手伝いをしていたけれど、“やらされている感”でいっぱいでしたから(笑)」

農業大学校を卒業し、県北東部の横芝光町で一人暮らしをしながら、ナシやカボチャなどを栽培する農業生産法人で働いていたある日のこと。農家のブログで、ズッキーニの花の肉詰め料理を知った。「花を食べること」に衝撃を受けた昭子さんは、もともと料理が好きなこともあり、インターネットや文献で調べたり、実家の家庭菜園で栽培している無農薬のカボチャの花を調理して食べてみたりと、エディブルフラワーに夢中になった。

「花があると、女性は誰でもそれだけで心がときめくと思うんです。調理していても、そばに花があれば楽しいし、もてなされる側もうれしい気持ちになるでしょう?」

エディブルフラワーは、昭子さんの中では、無農薬であることが絶対条件。いつしか自分の手で無農薬の野菜やエディブルフラワーを育てたいと思うようになり、4年ほど勤めた会社を退職。一昨年の10月から1年間、山武市の3軒の農家に通い、有機農業を学んだ。

**観賞用のひょうたんは食べられません

「畑に花があると作業していても楽しいし、心の癒しにもなる」と、昭子さん
畑にはペチュニアやナスタチウム(左)、種から育てた外国品種のイチゴ(右)も。海外の農家のつくる野菜や花、料理などはインスタグラムで情報収集

“人が集える”農園に

その一方、農業関係のNPO法人の活動で知り合い、おつきあいを重ねていた太郎さんとの将来も真剣に考えるように。ひと回り年上の太郎さんは、農業機械の研究開発をしていたエンジニア。8年前に脱サラし、千葉県北部の香取市で就農。たった一人、試行錯誤しながら、2町*もの田んぼで米を無農薬で栽培していたという変わり種だ。

太郎さんが、お婿さんとしていすみ市に来てくれることが決まった頃から、休日を利用し、2人で農園の準備を進めた。新居から車で5分の通り沿いに倉庫とキッチン付きの休憩所を設け、そこから歩いてすぐの竹やぶを、友達の手を借りながら開墾した。かつては昭子さんの祖母が畑仕事をしていた場所だが、7〜8年放置していた間に竹やぶと化し、車も入っていけない状態だったとか。

「チェンソー、ノコギリ、あらゆるものを使って竹を片っ端から伐採して燃やして、根っこはユンボで掘り上げて…。畑になるまで2年近くかかりました」と、太郎さん。手間はかかったが、ここの土は、この地域では“のっぺ”と呼ばれる、いい野菜がとれる土なのだそう。

実際にいすみ市で米や野菜をつくり始めたのは、今年から。まだ第一歩を踏み出したばかりだが、昭子さんの地元ということで知り合いが多く、マリンスポーツのメッカという土地柄か、カフェなどもたくさんあり、田舎だけれど近くにお客さんがいる恵まれた環境にあるという。

当面の目標の一つは、農園に「お客さんが集えるような場所を設けること」だとか。

「例えば、シェフが畑を見に来てくれた時、畑で野菜の丸かじりもいいですが、その場ですぐ調理できるよう、休憩所のキッチンをもう少し使いやすく改造する計画です。イタリアン、フレンチ、中華……いろんなシェフが、ここで一緒に料理できたら楽しいですよね」

一般のお客さん向けにも、月に1度の農園のオープンデーを考えている。「畑で過ごす気持ちよさ、いすみの良さも知ってもらえたらうれしいです」と、昭子さん。1年、2年後、よりよい農園にしていきたいと、太郎さんと目を合わせて頷いた。

自農園のお得意さんであり、大網白里市でご主人とフレンチレストランを営む山中亜美さんが来園。3人でのんびりランチタイム
休憩所のキッチンで、畑の野菜を使って亜美さんと料理
農園「タロとあき」の畑でとれた野菜やエディブルフラワー。花があると、それだけで食卓が華やぐ
畑のレシピ
  1. 1.新鮮なアジ2〜3尾を三枚におろし、たたく。
  2. 2.みょうが1個、しょうが1かけをみじん切りに、青じそ3枚をせん切りにする。
  3. 3.加熱用トマト1個(普通のトマトでも可)をザク切りにして油で炒め、冷ましておく。
  4. 4.1、2、3を混ぜて、味噌大さじ1、醤油少々で和える。
  5. 5.酸味のある薬味としてベゴニアの花を加える。
  6. *花は好みでよいが、必ず食用のものを使う。

  1. 1.玉ねぎ1/2個をみじん切り、じゃがいも小2〜3個を薄くスライスし、バターで炒める。
  2. 2.玉ねぎに色がついたら、水をかぶる程度とコンソメを加え、野菜がやわらかくなるまで煮る。
  3. 3.クルミ(から炒りして刻む)20〜30gと2を一緒にミキサーにかける。何回かに分けること。
  4. 4.生クリーム100㎖と牛乳200㎖を加え、少し加熱してから冷まし、塩少々で味を調える。
  5. *好みでパセリやエディブルフラワーを添える。