耕す女子たち vol.27

土につながり人とつながり心がつながる。
そんな農園をつくりたい。風の色の畑はみんなの農園!

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

夏に向けてハーブや野菜を育てる畑をガスパワー耕うん機「ピアンタ」で耕す香菜さん(右)。今日は幼なじみの小原裕美さんがお手伝い

今回の耕す女子

千葉県我孫子市今村直美さん(いまむらなおみさん)細渕有里さん(ほそぶちゆうりさん)
今村さんは1970年千葉県生まれ。英語教諭、大学職員などの職を経て千葉大学園芸学部別科へ。2009年に就農。家族は夫と娘がひとり。細渕さんは1986年埼玉県生まれ。千葉大学園芸学部別科を修了後、埼玉県小川町の有機農家などでの研修を経て就農。ネコと2人暮らし。

土と人、人と人がつながる畑に

「さぁて、収穫して、明日の“ての市”で売り切るぞ!」

夏の日差しをたっぷり浴びて育ったつやつやのナスやピーマンを見ながらこう言うと、今村直美さんと細渕有里さんはコンテナを抱えてさっそうと畑に向かった。明日は千葉県柏駅近くの柏神社で月に1度開催される「手づくりての市」の日。同時に開かれる若手農家による野菜市に、2人の農園「わが家のやおやさん 風の色」も毎月、出店しているのだ。

「地元の人にとって、身近な農家になりたい」

そんな思いを胸に、2人が我孫子市と柏市にまたがる手賀沼(てがぬま)のほとりで農業を始めて6年になる。JR成田線新木駅から程近い5反*の畑を拠点に、旬の野菜を無農薬・無化学肥料で栽培。個人宅へ野菜セットを宅配したり、高齢者施設やレストランなどに出荷するほか、昨年10月にはJR我孫子駅から徒歩5分の場所に「Abby's Farm(アビーズファーム)」という小さな直売所をオープン。地域の新規就農の仲間や福祉施設と共同で野菜や加工品を販売している。

農園のコンセプトは「畑を通じて人とつながること」。だから野菜市はもちろん、直売所でも出荷するメンバーが自ら当番制で店に立つ。

「野菜を買いに来てくれる人に畑の様子を伝えたり、逆に食べ方を教えてもらったり。野菜市でも、いつも一人一人と向き合ってお話ししているんですよ」と、直美さん。

この日は2人での作業だったが、普段は援農スタッフをはじめ、誰かしら畑に来るという。自然の中で体を動かしたい人、卒論を書いている学生さん…、いつどんな人が来ても、ウエルカムな姿勢でいるんだとか。

収穫が一段落すると、有里さんは、ガスパワー耕うん機「ピアンタ」で、ナスの畝間(うねま)を軽く耕し始めた。

「ピアンタは、狭い畝間には本当に便利。燃料が家庭用のカセットガスなのに威力があるし、機械自体も軽くて使いやすいのがいいですね」

収穫を続ける直美さんとおしゃべりしながら、軽やかに耕していく。

*1反=約1000平方メートル、300坪。

**ガスボンベはメーカー指定の東邦金属工業㈱製。

年齢も性格も生まれ育った環境も違う2人だが、農業に対する思いは同じ
栽培責任者&農場長の役割は有里さんで、渉外担当は直美さん。大まかに仕事のすみ分けはしているそう
ピアンタの燃料は家庭用カセットガス**。充填&交換が簡単で手も汚れない
今年の味噌づくりに使う大豆の苗に水やりをする有里さん。順調に生育中
野菜の袋詰め作業。地元の野菜市ではとくに無農薬とはうたって販売していない。「常連の方が多く、私たちの農業のこともよくご存じですから」

2人とも野良着にはとくにこだわりはないそうだが、履物に関しては、直美さんは「足が守られている感じが好きだから」長靴派。有里さんは「涼しいのが好きなので」地下足袋派。帽子は必需品だが、大きなつばのついた農家帽は「いかにもって感じが恥ずかしいのでかぶらない」とのこと

大学の“同級生”で始めた農園

直美さんと有里さんは、千葉大学園芸学部別科で一緒に農業を学んだ間柄だ。

高校時代、授業で育てた野菜を家族が「おいしい」と喜んで食べてくれたことをきっかけに農業に興味を持ち、進学したという有里さん。

かたや直美さんは、もともと大学職員として忙しく働いていた。だが出産後、子どもの通っていた保育園が、「食べること」をとても大事にしていたことから、「食」や「農」に心を惹かれ、一から農業を学んでみたいと、大学に入り直したという。

卒業後は、有機農家に研修に入るなど、一旦はそれぞれの道へ。1年後に再会し、近況や農業への思いを語り合ううち、「一緒にやろう!」と話が盛り上がり、本当に2人で農業を始めてしまったのだとか。

最初は、直美さんのママ友のネットワークで畑を借りたが、2009年、我孫子市の新規就農支援事業を活用して農地の斡旋を受け、正式に農家に。米ぬかや油粕などで土づくりをして野菜を育て、また、各自30万円ずつ用意した自己資金や市からの補助金で、必要な農業機械なども少しずつ揃えていった。どんな農園にしようかと2人でビジョンを描き、一歩ずつ築きあげていた、そんな矢先、東日本大震災に伴う原発事故に見舞われた。

Abby’s Farmの営業は月・水・金の11時半〜18時半(水曜は19時半)まで。月に1度、土曜日にマルシェを開催
お菓子やうどん、ピクルスなど手作りの加工品とともに旬の野菜が並ぶ

原発事故を乗り越えて

震源地からは離れていたが、我孫子や柏は、当時、放射線量が高い“ホットスポット”と騒がれた地域だ。

「どうしていいかわからず、しばらくは放心状態でした」と直美さん。野菜の購入者は離れていき、栽培を続けていいのか自信が持てず、農業をやめようとさえ考えた。

そんな折、柏市の町づくり団体が「『安全・安心の柏産柏消』円卓会議」を立ち上げ、2人はこれに参加した。「せっかく地産地消の進んだ地域だったのに、生産者と消費者が対立するような構造が生まれてしまっていた。そこで、柏市周辺の農家や流通業者、飲食店関係者、子育て中のお母さんたちが集まり、話し合う場を持ったんです。直接会って話をしたら、日頃から安全に配慮した暮らし方をし、今後どうしたらいいか悩んでいるのはどちらも同じだということがわかりました」(直美さん)

現状を把握するために、皆で何度も畑に集まり、土や野菜の放射線量を計測した。結果、2人の農園ではほとんど検出されず、「ようやく1年ほど経った頃から、自分たちも納得して野菜が販売できるようになりました」(有里さん)

直美さんと有里さんは、かねてから「地域で農業を支える」というCSA*の考え方に関心を持っていた。原発事故後の経験から、「地域は農家を、農家は地元の食卓を、互いが支えあう2WAYの関係性を築いていこうと思った」と直美さんは話す。

それまで野菜の宅配は、ネットなどを通じて単発の注文も受けていたが、今は基本的に年間契約を結ぶ形とした。あわせて宅配のメンバーと一緒に芋掘りや、大豆の栽培から始める味噌づくり会などを企画したりと、文字どおり、畑を通して人と人とがつながる時間を大切にしている。今では野菜を栽培しながら、「この野菜をあの家族が食べてくれるんだ」と、顔が思い浮かぶという。

「お客様とか、生産者と消費者という関係でなく、畑をシェアしている仲間みたいな感覚なんです」「2人の農園でなく、農業と食と人との懸け橋になるような、“みんなの農園”にしたい」と、語る直美さんと有里さん。畑から始まった、新しくて、ユニークな地域コミュニティが、手賀沼のほとりで育まれている。

直美さんの自宅でお昼休み。直美さんの愛犬ももちゃんも一緒に
野菜と一緒に届けているレシピカード。宅配メンバーの有志グループがつくってくれている
柏の「レストランTAKIGAWA」で開催した農家とレストランとお客さんをつなぐイベント。「人のつながりを大切に」との思いから、子ども向けの食育イベントなどにも積極的に参加している
畑のレシピ
  1. 1.青ナスを厚さ1㎝程度の輪切りにし、隠し包丁を入れる。
  2. 2.フライパンにオリーブオイル(またはサラダ油)をひき、中火でナスの両面を焼く。
  3. 3.焼き目をつけて水を少々入れ、蓋をして蒸す。
  4. 4.かつお節や炒りごま等の薬味をのせ、醤油をかけていただく。
  5. ◎青ナスはアクが少ないので水にさらさなくてもOK。

  1. 1.干し椎茸3枚は水500㎖で戻してスライスし、粗みじんの玉ねぎ1/2個と一緒に戻し汁で煮る。
  2. 2.玉ねぎに火が通ったら、醤油大さじ4、酒とみりん各大さじ3を加えて中火で少し煮る。
  3. 3.余熱を取り、冷蔵庫で冷やす。
  4. 4.ゆでたうどんに、好みの野菜やわかめ、ゆで卵などの具をのせ、3をかけていただく。