耕す女子たち vol.24

自給自足的な農ある暮らしを夢見てOL生活から一転、有機農場の研修生になった。
豊かな自然と田んぼや畑たくさんの生き物に囲まれて、ただ今、暮らしの実験中。

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

冬春の葉物野菜を育てる畑をガスパワー耕うん機「サ・ラ・ダ CG」で耕す友紀さん。
3カ月先輩の研修生・羽塚冬馬さんはミニ耕うん機「ピアンタ」でネギのうね間を除草中

今回の耕す女子

茨城県石岡市河村友紀さん(かわむらゆきさん)
1982年京都生まれ。畑歴3カ月。近畿大学農学部卒。在学中、国際協力NGOでインターンシップ*を経験。卒業後、OL生活を8年、その後、京都市の行政職を経て2014年7月より「ORGANIC FARM暮らしの実験室」が運営する「やさと農場」で研修中。

*学生が在学中に自らの学習や将来の進路などに関連した就業体験を企業等において一定期間行なうこと。

有機農場の研修生として

「ORGANIC FARM 暮らしの実験室」と描かれた黄色い看板を目印に、ゆるやかな坂道を上っていくと、作業着姿の河村友紀さんが笑顔で出迎えてくれた。尻尾をフリながら駆け寄ってくるイヌと人懐っこいネコ。母屋の脇にいるヤギも興味深そうにこちらを見つめている。

ここは、茨城県石岡市八郷地区の山里にある「やさと農場」。ブタやニワトリを飼い、その糞を堆肥にして畑に還し、野菜や米を栽培する有機農業を営みながら循環型の暮らしを提案・実践。友紀さんは今、この農場で研修生として生活している。

秋も深まってきたこの季節、朝の作業はブタの世話から始まるという。午前8時から豚舎の清掃や餌やりを1時間ほどかけて行ない、その後は畑仕事。農場から車で5分ほど離れた畑を訪ねると、農場のスタッフや他の研修生らが、せっせと種まきにいそしんでいた。耕す人、土に溝をつける人、種をまく人と役割を分担し、カラシ菜やカブなどの種を丁寧にまいている。

種まきが一段落した友紀さんは、ネギやサツマイモが植わった畑の一角を、ガスパワー耕うん機「サ・ラ・ダ CG」を使って耕した。

「私にとって、耕うん機はターンする時が重くて恐怖なんです。でも『サ・ラ・ダ CG』は、レバーを直線から旋回に入れ替えるだけでスムーズにターンできる。これってポイント高い」

さわやかな秋風を受けながら、軽やかに畑を耕していく。

40頭ほどいるブタの餌やりは朝夕の2回。月に1〜2頭を屠畜場で処理し、農場で切り分けてお客さんの元へ。農場の食材にもなっている
干し芋にする加工用のサツマイモ掘り。蔓も捨てずにブタの餌に
カラシ菜の種をまく友紀さん。とれた野菜や卵はセットにして、毎週金曜日にお客さんへ発送
養鶏担当・茨木泰貴さんに世話の仕方を教わる。鶏は約400羽。11月に入れる新たなヒナ100羽

農のある暮らしに憧れて

友紀さんが、「やさと農場」の研修生になったのは、2014年7月のこと。研修といっても、農業がやりたくて勉強をしに来たわけではない。いつか田舎で農のある暮らしをしたいという夢があり、今は文字通り、「“暮らしの実験”をしているところです」と、友紀さんは話す。

そもそも「農」との出会いは大学時代。当時、国際協力に関心があった友紀さんは、NGOのパーマカルチャー*事業の立ち上げにインターンとして参加。これをきっかけに農を軸とした自給自足的な暮らし方に興味を持つようになった。それ以来、学問としての農のほかに農業のイベントに参加したり、農家の元へ手伝いに行くようになり、土に触れるのが好きになったという。

生まれも育ちも関西だが、大学卒業後は、日本最大の有機農場を持つ大手外食産業への就職を機に東京へ。営業やマーケティング部門で日々、忙しく働いた。だが、そうした中でも、休日に会社の農場や、知り合いのつてを頼って各地の農家を訪ね、畑仕事や農産加工を楽しんだ。

その過程で巡りあったのが、「やさと農場」だった。「やさと農場」は、今から40年前、「自分たちの手で安全な食べ物をつくろう」と、都市部の住民と農を志す青年が手を組み、開墾から建物の設計、建設まで自分たちでつくり上げた自給農場だ。

「来た瞬間、自由な雰囲気を感じたんです。ここでは、誰が主でもなく、皆が平等。何をしゃべってもいいし、問題があれば、皆で話し合って解決する。都会の若者たちといろんなイベントをしたり、動物がたくさんいるところもいい! 自分にぴったりだと思いました」

*恒久的に持続可能な環境をつくり出す農を土台とした循環型の暮らし方。

本体にシールを貼ってカスタマイズ。自分流の一台になり、楽しみも広がる
自走式&径の大きなタイヤの採用で、移動も作業もラクラク
現在、農場ではスタッフ4人、研修生2人が共同生活中。短期や長期でお手伝いや農業体験に来る人も多数
この日の昼食は、むかごご飯、卵スープ、肉じゃが、春菊のごま和え。調味料以外はすべて農場産

農作業にかかせないアイテムは手ぬぐい。「汗を拭いてもすぐ乾くし何かと便利。今日はお気に入りの京野菜柄です」と、友紀さん。むれるのがイヤで帽子はかぶらないが、日焼けでひどい目にあった経験から、「日焼け止めクリームはしっかり塗っています」とのこと

地域とつながり、成長したい

「いつか田舎暮らしを」と思っていた友紀さんだが、次第に若いうちに移住し、地域とつながりたいという思いが深まっていった。仕事は楽しかったが、大きな組織の中で自分らしく社会に関わっていけるかとの不安もあり、12年7月、8年間働いた会社を思い切って退職した。

その後は、将来自分がどんな暮らし方をしたいのか、そのスタイルを探そうとさらに農家を訪ね歩いた友紀さん。趣味で乗り始めた自転車を交通手段に、千葉の房総半島の農家に行ったり、「やさと農場」にも7〜8時間かけて来たこともあった。

できれば、親や友達がそばにいる関西圏で移住先を見つけたいと、一度は京都に戻ったものの、ピンとくる場所は見つからず。何度も通って惚れこんだ「やさと農場」で、まずは暮らしの技を身につけようと、研修生となることを決めた。

農場では共同生活だ。難しい決まりごとはないが、昼と夜の食事づくりは、1週間交代で当番が担当する。野菜はもちろん、米や小麦、鶏肉、豚肉、ベーコン、卵など、香辛料や調味料以外はほぼ自給。メニューは当番がその日、畑にある野菜と相談しながら決める。だが、目下「料理修業中」の友紀さんには、この仕事がプレッシャーなんだそうだ。

いっぽう、ブタの世話や畑仕事は楽しくて仕方ないという。夏場は朝の5時から畑作業がスタートするが、「早朝の畑って、空気が澄んでいて、本当に気持ちいいんですよ。朝日がのぼるなか、目の前の野菜がちょっとずつ育っている中で作業をする心地良さ。あぁ、この気分を今、全世界の人が味わえないことが、もったいないくらい!」。

この秋、農場のある八郷地区で「八豊祭(やっほうまつり)」が開かれた。震災復興と地域活性化を願い、2年前、地区の移住者が中心となり立ち上げたお祭りで、実行委員長は「やさと農場」のスタッフ。祭りをきっかけに、地域の中で人と人との新たなつながりが生まれているという。

「研修期間は1年の予定ですが、研修が終わったあとも、『やさと農場』で働きたいと思っています。ここには可能性がいっぱいある。まだまだ、のびていくものがある。私自身も、これからこの地域とつながりながら、成長していきたい」

漠然と思い描いていた夢への階段を、友紀さんは今、現実に一歩ずつ上り始めている。

40年前に学生が建てた母屋は片屋根の少し変わった造り。キッチン、ダイニング、スタッフや研修生の部屋がある
敷地内には、母屋と25人ほど宿泊可能なゲストハウス、加工室、納屋、畜舎のほか、イベントで建てた縄文ハウスやツリーハウスなどもある
イヌ、ネコ、ヤギ、ポニーなど、たくさんの動物たちと触れ合える
畑のレシピ
  1. 1.小麦粉100gに、塩ひとつまみを混ぜ、オリーブ油10g、ぬるま湯50㎖を入れてこねて丸める。
  2. 2.1に布巾をかけて30分以上寝かす。4〜5等分にカットし、打ち粉をして丸く薄くのばす。
  3. 3.フライパンで油をひかずに両面焼く。
  4. 4.レタス、玉ねぎ、むらさきにんじん、ドライトマト、ドライバジルなど好みの野菜をのせて、トマトピューレをかける。
  1. 1.卵を黄身と白身に分ける。
  2. 2.器に熱々のご飯をよそい、白身をかけて、ふわふわになるまで混ぜる。
  3. 3.2に黄身を落とす。
  4. 4.ごま、しそ醤油*をかけていただく。

*しその葉や実を洗って水気を切り、保存瓶に入れ、醤油を加える。一晩してしその香りが移ればOK。冷蔵庫で1カ月以上保存可。実や葉も料理に使える。