季刊うかたま
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写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

野菜づくりはまだ初心者の千々輪さんが、たまに手伝いに来てくれる
今回の耕す女子
- 山梨県道志村香西恵さん(こうざいけいさん)
- 1990年東京生まれ、神奈川県川崎市育ち。畑歴5年。わな猟見習い歴1年。都留文科大学卒。2013年4月、地域おこし協力隊として山梨県道志村で暮らし始める。道志村を紹介する「道志手帖」(略称:ドウシ・テ)の編集責任者。
“地域おこし協力隊”で村へ
「今回の“耕す女子”は、林業に携わり、なおかつ猟師たちと一緒に山に入って狩りもする」と聞き、たくましい体つきの女性を勝手に想像していた。しかし会ってみると、色白でとてもスレンダーな女の子。
「山仕事で少しは肉がついてきたと思っているんですが……」。照れ笑いを浮かべてこう話すのは、香西恵さん、23歳。昨年の春、大学卒業と同時に地域おこし協力隊*(以下、協力隊)として、ここ、山梨・道志村にやって来た。現在は、他の男性隊員とともに、村営の温泉施設で燃料にする間伐材を山から搬出したり、村の自然や文化を紹介する冊子「道志手帖」を作成したりと、道志村の力となるべく、日々、試行錯誤しながら活動している。
そのかたわら自給用の野菜を育てるなど、田舎ならではの暮らしを楽しんでいる恵さん。住まいのすぐ目の前に140㎡ほどの畑を借り、日の長い季節は、仕事から戻った後に畑仕事をするのが常だとか。
「畑のこの辺りは、ちょうど麦を刈ったところです。よく実っていたのにスズメに食べられて収穫はごくわずか。でも酒まんじゅうとか、うどんとかつくってみたいです。あと、麦わらで蛍かごをつくりたい」
と、うれしそうに話す。
この日は、協力隊員の一人・千々輪岳史(ちぢわたけし)さんが恵さんの畑に手伝いに来てくれた。秋野菜の栽培に向け、ガスパワー耕うん機「ピアンタ」で畑を一気に耕していく。
「ピアンタは、小さくて軽いのにしっかり耕せる。アタッチメントの培土器をつければ畝が簡単にできて、本当に便利です」と、恵さん。「あそこにインゲンマメを、こっちにはアズキをまいて…」と、千々輪さんと楽しそうに計画を練っている。
*地域おこし協力隊=2009年に総務省が始めた取り組み。地方自治体が都市から人を受け入れて農林漁業などの支援を委嘱。隊員の任期は1〜3年。




高校の授業がきっかけで“森”へ
神奈川県川崎市出身の恵さんが、今、こうして道志村で協力隊として活動しているのは、高校で林業に関する授業を受けたことが一つのきっかけだ。人が適切に手を入れることで機能が保たれる人工林があることを知り、森を活かしてきた先人たちの知恵や技に関心を持つようになったという。 高校2年生の時には、「第6回森の聞き書き甲子園*」に参加。栃木県在住の樽職人のもとを訪ね、樽づくりについて話を聞く機会を得た。 「それがすごくおもしろくて! 暮らしの中に木がいろんな形で関わっていることがわかり、樽づくりの話から、当時80歳だったその方の人生も見えてきた。もっと木に関わっている人の話を聞き、記録してみたいと思うようになりました」 進学した山梨の都留文科(つるぶんか) 大学では、森林整備と地域おこしについて学ぶとともに、「地域の人と自然の交流」がテーマの冊子をつくる活動に参加。取材を通じ、地域に根付く文化や信仰を知ることができたそうだ。 初めて本格的に農に触れたのも、大学生の時だ。マンション育ちで、子どもの頃から家庭菜園にあこがれていた恵さんは、農業サークルに入会。大学から自転車で15分ほどの田んぼと畑に通い、米と野菜を見よう見まねで栽培した。 「自分で育てた野菜やお米は本当においしくて。そうやって食べられることをとても幸せに感じました」 在学中、都留市に隣接する道志村が小規模の自伐型(じばつがた)林業**に乗り出したことを知り、見学に行った。いつの頃からか、森に関わる仕事がしたいと思っていた恵さん。その後、道志村の地域おこし協力隊の募集を知り、 「自分のやりたいことがここにある!」と、就職活動はせずに応募。恵さんを含め5人が採用され、今はそれぞれが得意分野を生かしながら、地域おこし活動を展開している。
*森の聞き書き甲子園=毎年全国100人の高校生が、森に関わる仕事を生業とする各地の「森の名手・名人」100人に聞き書き取材を行ない、その技や人となりを伝える催し。
**自伐型林業=森林の経営や管理、施業を森林組合や業者に委託せず、山林所有者や地域が自ら行なう自立・自営型の林業。



着ているのは、道志村地域おこし協力隊のつなぎ。5人の隊員が赤、青、黄、緑、オレンジと、戦隊ヒーローのように色違いのつなぎを持っているとか。「背中に葉っぱをモチーフにした協力隊のロゴマークが入っています。私のデザインなんです!」と、恵さん