耕す女子たち vol.23

森に関わる仕事がしたい。その土地の自然や文化を知り、多くの人に伝えたい。
畑で野菜を育て山で木を切り、狩りもする耕す女子を紹介します。

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

麦を刈ったあとを、秋野菜の作付け準備のためガスパワー耕うん機「ピアンタ」で耕す恵さん。
野菜づくりはまだ初心者の千々輪さんが、たまに手伝いに来てくれる

今回の耕す女子

山梨県道志村香西恵さん(こうざいけいさん)
1990年東京生まれ、神奈川県川崎市育ち。畑歴5年。わな猟見習い歴1年。都留文科大学卒。2013年4月、地域おこし協力隊として山梨県道志村で暮らし始める。道志村を紹介する「道志手帖」(略称:ドウシ・テ)の編集責任者。

“地域おこし協力隊”で村へ

「今回の“耕す女子”は、林業に携わり、なおかつ猟師たちと一緒に山に入って狩りもする」と聞き、たくましい体つきの女性を勝手に想像していた。しかし会ってみると、色白でとてもスレンダーな女の子。

「山仕事で少しは肉がついてきたと思っているんですが……」。照れ笑いを浮かべてこう話すのは、香西恵さん、23歳。昨年の春、大学卒業と同時に地域おこし協力隊*(以下、協力隊)として、ここ、山梨・道志村にやって来た。現在は、他の男性隊員とともに、村営の温泉施設で燃料にする間伐材を山から搬出したり、村の自然や文化を紹介する冊子「道志手帖」を作成したりと、道志村の力となるべく、日々、試行錯誤しながら活動している。

そのかたわら自給用の野菜を育てるなど、田舎ならではの暮らしを楽しんでいる恵さん。住まいのすぐ目の前に140㎡ほどの畑を借り、日の長い季節は、仕事から戻った後に畑仕事をするのが常だとか。

「畑のこの辺りは、ちょうど麦を刈ったところです。よく実っていたのにスズメに食べられて収穫はごくわずか。でも酒まんじゅうとか、うどんとかつくってみたいです。あと、麦わらで蛍かごをつくりたい」

と、うれしそうに話す。

この日は、協力隊員の一人・千々輪岳史(ちぢわたけし)さんが恵さんの畑に手伝いに来てくれた。秋野菜の栽培に向け、ガスパワー耕うん機「ピアンタ」で畑を一気に耕していく。

「ピアンタは、小さくて軽いのにしっかり耕せる。アタッチメントの培土器をつければ畝が簡単にできて、本当に便利です」と、恵さん。「あそこにインゲンマメを、こっちにはアズキをまいて…」と、千々輪さんと楽しそうに計画を練っている。

*地域おこし協力隊=2009年に総務省が始めた取り組み。地方自治体が都市から人を受け入れて農林漁業などの支援を委嘱。隊員の任期は1〜3年。

ジャガイモを収穫。期待していたほど育ちがよくなく、「う〜ん。芽かきができなかったせいかな?」
猟の師匠・山口清太郎さんの畑で。「野菜、とっていきな〜」と、奥さんのはる子さんに声をかけてもらい、インゲンマメを収穫
アタッチメントのグリーン培土器(尾輪付き)で、きれいな畝(うね)が簡単にできる

高校の授業がきっかけで“森”へ

神奈川県川崎市出身の恵さんが、今、こうして道志村で協力隊として活動しているのは、高校で林業に関する授業を受けたことが一つのきっかけだ。人が適切に手を入れることで機能が保たれる人工林があることを知り、森を活かしてきた先人たちの知恵や技に関心を持つようになったという。  高校2年生の時には、「第6回森の聞き書き甲子園*」に参加。栃木県在住の樽職人のもとを訪ね、樽づくりについて話を聞く機会を得た。  「それがすごくおもしろくて! 暮らしの中に木がいろんな形で関わっていることがわかり、樽づくりの話から、当時80歳だったその方の人生も見えてきた。もっと木に関わっている人の話を聞き、記録してみたいと思うようになりました」  進学した山梨の都留文科(つるぶんか) 大学では、森林整備と地域おこしについて学ぶとともに、「地域の人と自然の交流」がテーマの冊子をつくる活動に参加。取材を通じ、地域に根付く文化や信仰を知ることができたそうだ。  初めて本格的に農に触れたのも、大学生の時だ。マンション育ちで、子どもの頃から家庭菜園にあこがれていた恵さんは、農業サークルに入会。大学から自転車で15分ほどの田んぼと畑に通い、米と野菜を見よう見まねで栽培した。  「自分で育てた野菜やお米は本当においしくて。そうやって食べられることをとても幸せに感じました」  在学中、都留市に隣接する道志村が小規模の自伐型(じばつがた)林業**に乗り出したことを知り、見学に行った。いつの頃からか、森に関わる仕事がしたいと思っていた恵さん。その後、道志村の地域おこし協力隊の募集を知り、 「自分のやりたいことがここにある!」と、就職活動はせずに応募。恵さんを含め5人が採用され、今はそれぞれが得意分野を生かしながら、地域おこし活動を展開している。

*森の聞き書き甲子園=毎年全国100人の高校生が、森に関わる仕事を生業とする各地の「森の名手・名人」100人に聞き書き取材を行ない、その技や人となりを伝える催し。

**自伐型林業=森林の経営や管理、施業を森林組合や業者に委託せず、山林所有者や地域が自ら行なう自立・自営型の林業。

山口さんと。「香西はすごい女だぞ。平然とシカを解体するんだから」。「かわいがってもらってうれしいです」と、恵さん
メロン苗を植える。「作物が成長していく様子を見るのが好き」と、恵さん

着ているのは、道志村地域おこし協力隊のつなぎ。5人の隊員が赤、青、黄、緑、オレンジと、戦隊ヒーローのように色違いのつなぎを持っているとか。「背中に葉っぱをモチーフにした協力隊のロゴマークが入っています。私のデザインなんです!」と、恵さん

畑、山、猟、皮なめし…、
技を身につけ自給的な暮らしを

恵さんにはもう一つ、道志村に来たら「やろう」と心に秘めていたことがある。それは猟だ。学生時代に、甲州の伝統工芸品「印伝」に出会い、以来ずっと、その材料となるシカ皮を得る段階から自分の手でやりたいと思っていた。  「シカを獲り、自分でなめした革を形にする……。自分で栽培した野菜を自分で料理して食べたいと思うのと同じです」  道志村に住んで間もなく、わな猟の免許を取得。村で行なわれた鳥獣供養祭に駆けつけて猟師たちに自分の思いを告げると、「それなら、この人がぴったり」と紹介されたのが、わな猟歴30年以上になる山口清太郎さんだ。昨年12月、山口さんについて山に入り、わなを仕掛けるところから解体までを見せてもらった。  「この間は、山中湖の辺りで獲れたシカを解体させてもらいました。猟師さんは骨の位置や向きをよく知っていて、骨に沿ってうまく肉を切り離すんです。そうすると無駄が出ない。私もこれからもっと勉強していきたいです」  協力隊の任期は3年だが、恵さんは任期終了後も道志村に暮らし続けたいと思っている。現在携わっている間伐材の仕事、民有林の境界線の調査、林業体験ツアーの企画など、小さな仕事を並行しながら生活したい、というのが恵さんのビジョン。シカ皮をなめし、形にする技術をマスターした暁には、革細工を製品化することも視野に入れている。  「今は集合住宅に暮らしていますが、気兼ねなく皮をなめす場所が欲しいので、いずれは一軒家に移りたい」と、恵さん。畑や森の知識、山の歩き方、猟の技術や皮のなめし方など、これからもっといろんなことを学び、身につけ、道志村で自給的な暮らしをしていきたいと静かに語る。物静かだが、着実に自分の道を歩いている恵さんが、とてもまぶしく見えた。

間伐した木材を搬出。ポータブルウィンチなどの小型機械で効率よく、安全に運び出す方法を模索中
シカのなめし革で恵さんが作ったがま口(左)。シカ革に漆で模様付けした「印伝」の印鑑ケース。ここまですべて自分でやるのが目標だ
公民館内の協力隊事務所で毎朝ミーティング。互いの地域情報を共有する
恵さんが編集責任者の「道志手帖」。「地域の人が改めて村に関心を寄せるきっかけになったら」
畑のレシピ
  1. 1.もち米6合を研いで、一晩水に浸す。
  2. 2.1の水を切り、蒸し器で強火で40分ほど蒸す。
  3. 3.ごぼうとにんじん各3本をささがきに、油揚げ2枚と干し椎茸5枚を刻み、ちくわなどは好みで、具を順番に油で炒め、醤油大さじ6、砂糖大さじ3を入れて味がしみ込むまで中火で煮る。
  4. 4.蒸しあがったもち米に日本酒を適量振り、3を混ぜ、再び10分ほど蒸して味をなじませる。
  1. 1.薄力粉130g、重曹ひとつまみ、水200㎖をボウルに入れてよく混ぜ、生地(4枚分)をつくる。
  2. 2.フライパンに油をひいて1の生地を流し入れ、中火から強火でサッと焼き、片面が焼けたら裏返して両面を焼く。
  3. 3.同様に残りの生地も焼く。
  4. 4.切り分けて、砂糖醤油や砂糖をつけていただく。