耕す女子たち vol.22

頭でっかちな性格が畑を耕したらシンプルになれた。
食べるもの、着るもの生活に関わることを自分の手でつくる。そんな暮らしを二人三脚で歩みたい。

季刊うかたま
http://www.ukatama.net/  
写真=高木あつ子 文=おおいまちこ

ミニ耕うん機「こまめ F220」で畝立て作業をするゆかりさん。夫の拓也さんは、レーキを使って畝の表面を平らにならす

今回の耕す女子

長野県佐久穂町遠藤ゆかりさん(えんどうゆかりさん)
1984年千葉県印西市生まれ、横浜育ち。畑歴は10年。中央大学総合政策学部卒。アルバイト生活、長野県東御市の農業法人㈱永井農場勤務を経て、2011年3〜9月に佐久穂町の織座農園で研修。2012年4月に就農し、「おまめ耕房」をスタート。

八ヶ岳の山々を望む畑で

「ここが、私のいちばんお気に入りの畑なんです」

そういって、遠藤ゆかりさんが案内してくれたのは、標高1100mほどの高台にある1枚の畑。遠くに北八ヶ岳の山々が望める絶景の場所で、頬をなでる爽やかな風がなんとも心地よい。

「寒暖差があるのと水はけがいい土地のおかげで、すごくおいしい野菜ができるんです。去年の秋はダイコンやニンジン、葉物野菜を栽培しました」

冬の間は露地物の野菜づくりは完全にお休みし、雪が溶けると春夏野菜の栽培に向けて本格始動する。今シーズン、この畑に入るのはこの日が初めて。ゆかりさんは、愛用のミニ耕うん機「こまめ」を使って、まずは雪や霜で硬くなった畑を耕した。

十分に空気を含んで土がふかふかになったところで、アタッチメントの培土器を取り付けて畝(うね)立て作業。機械での畝立ては初体験のゆかりさんは、「こまめ」を押しながら「超ラク〜!」と喜びの雄叫びを連発した。

去年はジャガイモ100㎏植えるのに鍬で畝を立てたんです。でも大変で、もうダメ〜って。それがこんなに簡単にできちゃうなんて…」

ダイコンの種をまこうか、ジャガイモを植えようかと、4月に結婚したばかりの拓也さんといつまでも畑談議に花を咲かせている。仲睦まじい姿がなんとも微笑ましい。

“ニューイエロー培土器”は、今年初めて取り付けた。「こんなにきれいな畝ができるなんて!」
北海道の畑仲間と種交換して育てた小豆“黒千石”の脱穀作業。叩かずに、サヤから豆を手で一つ一つ取り出すのがお好みだとか
除草用アタッチメント“ブルースパイラル650”を「こまめ」に取り付け、雑草と残渣で覆われた畑を耕す。「車軸に雑草がからまることなく草が刈れるのがうれしい」

「種はまかなきゃ始まらない!」

大自然に抱かれた、ここ長野県佐久穂町で“耕す女子”として歩み始めて丸2年のゆかりさんが、初めて「農」に触れたのは大学生の時だ。

半纏(はんてん)が似合う今の姿からは想像もつかないが、当時、国際協力に関心のあったゆかりさんは、“頭でっかちの女子学生”で、議論ばかりしていたとか。ある時、「自給率について語っても、食べもののことを何も知らない自分自身に矛盾を感じ」、ならば実際に体験してみようと、大学2年の夏、WWOOF*(ウーフ)を利用して岩手の農家に滞在。畑仕事や家畜の世話をして、すっかり農業にはまってしまった。

「体を動かして、食べるものがおいしくて……単純に楽しかったんです! 悩みがちな性格だったけれど、畑をやるようになったら、すっきりシンプルになれました」

日常的に土に触れたいと、東京郊外の農家へ「大学以上に通う生活」が始まり、卒業後もしばらくは就職せず、借りた畑で野菜を育てながらバイト生活を続けた。農業を始めたかったがその一歩を踏み出す勇気がなく、24歳の時、長野県東御(とうみ)市にある農業法人㈱永井農場に就職。農産加工品の開発などに携わった。

そんな中、佐久穂町にある織おり座(ざ)農園を訪ねたことが大きな転機になった。園主の窪川典子さんは、25年ほど前、今は亡きご主人とともに東京から移住し、この地で有機農業を始めた、とてもパワフルな女性だ。

「自分の思いを話すと、“種はまかなきゃ始まらないの。やればいいのよ!”って。研修中は農業技術より、人間研修させてもらった感じかな」

窪川さんの言葉に後押しされ、ゆかりさんは2011年3月から半年間、織座農園で研修生として過ごすことに。その後、独り立ちする場所を探して旅し、翌年1月、窪川さんの紹介で織座農園に近い集落に古民家を借りられることになった。こうして2012年の春、ゆかりさんは農家として出発したのだった。

*WWOOF(=World Wide Opportunities on Organic Farm):金銭のやり取りなく、労働力と食事・宿泊場所を交換するシステムで、有機農場とそこで働きたい人をつなぐことを目的とする。1970年代に英国で始まり、日本にも事務局がある。

食べることが好き。料理が好き。「畑と食卓がもっと近くなれるような、そんな役割を果たせればうれしい」と、ゆかりさん
拓也さん、旅先で友達になった原田みづきさんと縁側で昼ごはん。みづきさんも手づくり好きで“料理実験”をする仲
織座農園にて窪川さん(右端)や研修生の皆さんと。「窪川さんは、人の中にある可能性を引き出す力の強い人。彼女との出会いが大きかった!」
レタスの種まき。種から芽が出て野菜が育つ、その過程を見るのが好き

大学時代に通っていた農家からいただいた半纏が、動きやすくてお気に入り。かれこれ10年も愛用。だいぶ色あせてきたが、「近所のおじいさんからは“悪い虫が寄り付かないための無農薬ルックだろ〜?”とかいわれています(笑)」

人とのつながりが心の支え

現在は、3カ所計5反*の畑と1反の田んぼを借りて野菜と米をつくり、出店したイベントなどで知りあったお客さんに、セット野菜を隔週や月に1度の割合で送っている。

そのかたわら、「百姓なんだから、100のことをやろう」というノリで、大好きなお菓子づくりの腕を活かし、野菜入りのクッキーなども販売。野菜はもちろん、卵や小麦粉、油、ゴマなど、原材料のほとんどが自分や知り合いの農家が育てたものだ。お菓子は評判を呼び、直接、注文が入るようになったという。

パッケージやのし紙は、手づくりの消しゴムはんこでデザインした。するとこれまた“かわいい”と好評で、地域の公共施設のセミナーで消しゴムはんこの講師を務めたり、お料理の講師を頼まれたりと、人とのつながりがどんどん広がっていった。

女性一人ということもあり、近所の人たちも、「困っていることはない?」と、ゆかりさんのことを常にに気にしてくれたという。都会暮らしでは味わうことのなかった人との密なつきあいが、「新鮮で楽しく、心強い」とゆかりさんは話す。

「今思えば、私が不安で一歩踏み出せなかったのは、そういう人とのつながりが見えてなくて、知らない土地ですべて自分一人でやらなくちゃいけないと思い込んでいたからかも。できないことがあれば、周りに教えてくれる人がいるし、できないなりになんとかなる! 何でも頼るつもりはないけれど、ここには心の支えになってくれる人がたくさんいる。それって幸せなことですよね」

そしてもう一人、心の支えとなってくれる家族ができた。夫の拓也さんは、埼玉県加須市の専業農家。もともとの出会いは、大学2年の夏、岩手県のとある廃校を利用したカフェだとか。以来、付かず離れずの関係が続き、気づいたらお互いが大切な存在に。今はまだ別々に暮らし、埼玉と長野を行ったり来たりの新婚生活を続けるが、これから時間をかけて、どこを拠点に生活していくか、2人で考えていくという。場所はどこであれ、「食べるもの、着るものなど、日々の暮らしに関わるものを、自分の手でつくる生活を続けたい」と、ゆかりさん。二人三脚で耕す生活は、今、始まったばかりだ。

お菓子は直売所やイベントでの販売のほか、御礼用の注文も多い。風味がよい「風雪」という小麦を、ゆかりさん用に先輩農家がつくってくれている
トマトピューレ、ルバーブのジャム、ルッコラのぺーストなど…。買わずに手づくりすることに喜びを感じる
絵を描くのも好きで、イラスト入りのハガキをつくり、イベントなどで販売。日本有機農業研究会の雑誌『土と健康』に4コマ漫画も連載中
地域の農家から“お蚕さん”の話を聞き、蚕を育ててみた。繭からとった絹糸を足の指に挟んで冷えとりに
畑のレシピ
  1. 1.一晩水に浸した数種類の豆を、つぶれない程度にかためにゆでて、水を切り、容器に移す。
  2. 2.酢1カップ、水2カップ、てんさい糖小さじ1、塩大さじ2、ローリエ2〜3枚、にんにく1かけ、赤唐辛子1本、粒こしょう・コリアンダー各10粒を鍋に入れて沸騰させ、1に入れる。
    ◎翌日でも食べられるが、3日くらいで味がなじむ。
    ◎今回は島村インゲン、シモシラズ、とらまめ、黒千石、エンレイ、鞍掛豆の6種類の豆を使用。
    ◎あんに、好みで生姜を加えてもおいしい。
  1. 1.長いもは乱切りにする。
  2. 2.ボウルにカレー粉小さじ2、塩小さじ1、こしょう適量、小麦粉小さじ4、水大さじ3〜4を入れてかき混ぜる。
  3. 3.1を2のボウルに入れて衣をからめ、少し時間をおく(味がなじむ)。
  4. 4.3の長いもに片栗粉をまぶして油で揚げる。
    ◎さっと揚げるとシャキシャキ感があり、じっくり揚げるともっちりする。